『LION/ライオン 25年目のただいま』
Posted by asuka at 6:26 PM
原作は映画での主人公、サルーが書いたノンフィクション本。
アカデミー賞で、作品賞、デヴ・パテルが助演男優賞、ニコール・キッドマンが助演女優賞、他、脚色賞などを受賞。
以下、ネタバレです。
ノンフィクション本ということで実話です。
オーストラリア人夫妻に養子として引き取られた主人公が、Google Earthを使って家をつきとめる話だというのは、予告編などからなんとなく知っていた。サブタイトルに“ただいま”と付いているし、実話の映画化ということは、四苦八苦してもたどり着けるのだろうと思っていた。
最初に考えていたのは、主人公はオーストラリア人夫妻の元で何不自由なく暮らしているが、揚げ菓子を食べたときに、はなればなれになった家族の記憶も一緒に蘇るのかと思った。それで、Google Earthなど他の最新テクノロジーを駆使して家をつきとめる、現代ならではの人探しものなのかと思った。
けれど、実際は人探しには重点は置かれていない。
デヴ・パテルが助演男優賞ということからも、青年の彼が主役ではないのだ。
現代から始まり、人探しをして、過去の回想があって、生まれ故郷に帰るという構成なのかと思っていたら、時系列だった。
まず主人公サルーの幼い頃から映画は始まる。
インドの山奥の貧しい村である。列車に無断で乗り込み、石炭を盗んでそれを市場のおじさんに持って行き、牛乳と交換してもらうような生活だ。父親はいないようで、母親も働いている。
サルーは兄の後をついて夜の仕事(これも盗みの類だった)を手伝おうとするが、眠くなってしまう。はぐれて、電車の中で寝てしまい、1600キロ離れた場所へ一人で連れて行かれてしまう。
東京から沖縄くらいが直線距離で1600キロらしい。この距離を結ぶ列車があるのがさすが広大なインド。そして、着いた先、カルカッタはベンガル語で、ヒンドゥー語しか話せないサルーの言葉が通じない。
大都市ではあるけれど(または大都市だから)、ストリートチルドレンも多い。ただ、路上で集団で寝ていても、人攫いに狙われる。
家に連れて行ってくれた優しい女性も、悪い奴に売り飛ばそうとしていたのだろうか。はっきりとは描かれないが、あの毒々しい色のジュースと、ためしに添い寝をしてみる男性があやしすぎた。サルーも嫌な予感を感じ取ったのか逃げ出していた。
孤児院のような施設もあやしかった。職員が夜な夜な子供を物色しているようだった。当たり前だけれど、子供はどこに行っても狙われる弱い存在なのだ。
サルーはおそらくそれほど孤児院にも長くはいなかったのだと思う。職員からの暴行も受けていないと思う。描写がないだけで本当はどうだったのかわからないが。
ほどなくオーストラリア人夫妻の元へと養子に引き取られていた。サルー自体が素直でいい子のようで、1年後に同じく養子として引き取られたマントッシュは難しいところもありそうだった。
しかし、おそらくマントッシュのような子供の方が多いのではないかと思う。サルーは迷子にはなったけれど、運良く他人から危害を加えられるようなことはなかったのではないか。マントッシュはきっともっと酷い目に遭っていたのではないかと思う。マントッシュは大人になっても稼いだ金をドラッグ代に使ってしまっていたようだ。
オーストラリア人夫妻は、自分の子供を作ることもできたけれど、貧しい子供を養子として育てて助けていたのだ。
ニコール・キッドマン演じるスーが過去の話をするシーンは泣けた。彼女にもつらい過去があった。悩んで、でも優しく接して。まるで聖母のようだった。実際のマントッシュが現在どうなっているかわからないけれど、スーのことも考えてあげてほしい。
観る前は、サルーは過去のことなど忘れてしまっているのかなと思っていたが、全部おぼえている。暮らしていたことも、迷子になった夜も、カルカッタで一人彷徨った日々も。彷徨った日々は死ぬほど怖かったはずだが、それよりも、自分のことを探しているであろう母と兄のことを考えるのが優しい。もちろん自分も会いたかったのだろうとは思うけれど。
サルーは、大学の仲間からGoogle Earthを使ったら?というアイディアを聞いてから、まるでとりつかれたかのようにそのことしか考えられなくなっていたようだ。
それでも、血眼になって生家をさがしているのをスーには言えないのもまた優しい。
結局、家が見つかって訪ねて行くのだが、幼少期からこの村にいなかったとはいえ、デヴ・パテルだけ異質すぎた。暮らしぶりが違ければ筋肉のつき方や身長の伸び方も変わるのだとは思うけれど、それにしても、他の村民と比べるとこの村出身とは思えないオーラになってしまっていた。仕方ないとは思いますが。
母とは再会できても兄はサルーが迷子になったその日に列車に轢かれて亡くなったらしい。母は一晩に二人の子供と離れることになったのだ。しかし、兄については亡くなったことがわかってもサルーは行方がわからなかったからだろう。戻ってくるのを信じて引っ越していなかったというのが泣ける。25年である。ずっと待っていたのだ。
サルーを演じる子役とはもちろん別人ですが、デヴ・パテルはちゃんと幼い頃の魂そのままに演じていたと思う。『ムーンライト』のシャロンもそうだったけれど、演じているのは違う俳優さんでもちゃんと一人の人物に見えるのが素晴らしい。
デヴ・パテルは助演男優賞だからそりゃそうなのだが、半分くらいはサルーの幼い頃の話だった。過去パートは映画を観る前は回想で少しの時間しか割かないのではないかと思っていた。
しかし、この映画の主題は、Google Earthがあってよかった!というところではないのだ。もちろん、列車の速度や微かな記憶を辿ってそれらしい場所を見つけられたのだから、あってよかったことはよかったのだけれど。
それよりも、インドで行方不明になる子供が現在でも8万人もいるという現状である。前半はドキュメンタリーのようなリアルな描写だった。ただ、決して80年代はこうでしたという話ではない。ストリートチルドレンがあんなにいることも知らなかった。
予告編だとテクノロジー万歳という話かと思っていたが、問題提起の部分がずっと大きい。サルーはとても運がよかっただけで、一歩間違えばどうなっていたかわからない。
自分の住んでいた村の名前を言い間違えていただけでなく、自分の名前すらも言い間違えていた。それだけ幼ない子供が迷子になってしまったのだ。無事に母にも再会できて本当によかった。
ラストで、サルーの本当の名前が明かされて、その意味が“LION”と出て、タイトルはそれだったか!と驚いた。予想外でした。
calendar
ver0.2 by バッド
about
- asuka
- 映画中心に感想。Twitterで書いたことのまとめです。 旧作についてはネタバレ考慮していませんのでお気をつけ下さい。
Popular posts
-
フランスCanal+、イギリスSkyの共同制作のドラマ。トンネルってタイトルはドーバー海峡のトンネルのことだった。もともとはデンマークとスウェーデンの共同制作で『The Bridge』というドラマだったらしい。 見たのは2013年のシリーズ1(全10話)。来年シーズン3が放映され...
-
2007年公開。サム・ライミ版。1から3まで観ていません。いきなり3から観るのはどうかと思ったけれど、やっぱりわからない部分がいくつかあったのでまたちゃんと観たいです。 以下、内容に触れます。 ジェームズ・フランコと戦ってるけどなんで戦っているのかわからなかった。少し...
-
原題『Birdsong』。Wikipediaにはカタカナのバードソングで項目が作られているので、『愛の記憶はさえずりとともに』というのは、WOWOWが独自で付けた邦題なのかもしれない。 エディ・レッドメイン主演で約90分、前後編の二回のBBCドラマ。 もっと昔なのかと思っ...
-
2007年公開。このところ、ダニー・ ボイル監督作品を連続で観てますが、 こんなSFを撮っているとは知らなかった。しかも、 主演がキリアン・マーフィー。でも、考えてみればキリアンは『 28日後…』でも主演だった。 映像面でのこだわりは相変わらず感じられました。 宇宙船のシールド...
-
2016年公開。イギリスでは2014年公開。 優秀で美麗な男性たち10人だけが所属できるオックスフォード大学に代々引き継がれる秘密クラブの話。 実際にはライオット・クラブという名前ではなくブリンドン・クラブという名前らしい。一応実在するとは書いてあるけれど、なんせ秘密クラ...
-
カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したこの作品、先行上映にて観てきました。 是枝監督といえば、テレビドラマ 『ゴーイング マイ ホーム』が記憶に新しい。テレビで毎週見られるのがすごく贅沢に思えるドラマに仕上がっていた。家族の面倒くささと優しさ、切っても切れない絆の深さがあたたか...
-
2000年公開。曲や映像づくりなど、とてもダニー・ ボイルらしい映画だった。 幻のビーチに辿り着くまでの話なのかと思っていたけれど、 かなり序盤でビーチには辿り着いてしまう。 そこから物語が展開していくということは、 ビーチがただの天国ではなかったということ。 一人旅の若者が...
-
フランソワ・オゾン監督。 すごい美少年が出ているというので観に行きました。 生徒に絶望している教師は、 一人の生徒の文章力とその内容にひかれる。 他人の家族を執拗に観察している作文は次第にエスカレートし、 教師もその内容が気になり…というストーリー。 映画のスチルやこの内容か...
-
ほぼ半月あけて後編が公開。(前編の感想は こちら ) 以下、ネタバレです。 流れ自体は前編と同じ。ジョーがこれまであったことを話し、それに対して、セリグマン(今回はちゃんと名前が出てきた。ステラン・スカルガルドが演じている男性)が素っ頓狂なあいづちをうつ、と...
-
2013年に公開されて(アメリカでは2012年)思わぬ大ヒットをした『テッド』の続編。前作のときに、テディベアが動いて喋るというのは可愛いけれど、かなりブラックだし、マニアックな小ネタが満載で、なぜこれが大ヒットしたのだろうと思った。 前作は昔のアメリカのテレビ番組のネタが多く、...
Powered by Blogger.
Powered by WordPress
©
Holy cow! - Designed by Matt, Blogger templates by Blog and Web.
Powered by Blogger.
Powered by Blogger.
0 comments: