Apr 15
監督は『複製された男』、『プリズナーズ』のドゥニ・ヴィルヌーヴ。
アカデミー賞で撮影賞、作曲賞、音響編集賞にノミネートされました。
原題は『Sicario(シカリオ)』。耳慣れない単語でも、得体の知れなさやなんとなくの不気味さは伝わってくる。それに、意味は映画の一番最初に説明されるし、原題のままでいいのではないか。もちろん、映画内で重要な意味を持つ言葉である。
それに、『ボーダーライン』というのはちょっとダサくもある。いっそ、そのまま“国境”など、日本語のほうがまだマシなのでは、とも思ったけど、国境だけではなく、“善悪のボーダーライン”みたいな意味も入ってるのかもしれない。ダブルミーニング。
以下、ネタバレです。
女性が危険な地域に潜入して行くということで、なんとなく『ゼロ・ダーク・サーティ』のようなものを想像していた。
ただ、その女性を演じるのがエミリー・ブラントとはいえ、彼女がリーダーでジョシュ・ブローリンとベニチオ・デル・トロを従えているとは思えなかった。従うタイプの二人ではない。見た目的にですが。
じゃあ、彼らの新米部下なのだろうか?などと考えていたが、大体合ってるが正確には違うといった感じだった。
そもそも三人とも同じ組織ではない。同じ目的のために動く二人と、出向してきた一人である。だから新米は新米で間違いない。
このような映画の新米にはよくあることなのだが、彼女は正義の人である。どう考えても、彼女の言っていることが正しい。ただ、その正しさは、厳しい現場ではあまり意味を持たない。
FBIだから一般市民とは違うけれど、映画の中では一番真っ当な人物だ。映画を観る者のよりどころであり、共感できる人物だし、自己を投影できる人物だ。
その彼女が、最初から最後まで無力なのだ。できることが何一つ無い。
だから、映画が終わったあと、見ている側も無力感に苛まれる。酷い現状を見て、ただただ、圧倒されるのみだ。
だから、どちらかというと主人公はエミリー・ブラント演じるケイトではなく、ベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロである。
寡黙だし、何を考えているのかわからない。けれど、やるときゃ容赦ない。
原題のシカリオとは、暗殺者という意味らしいが、彼のことである。
映画内だけでも何人殺したかわからないし、ヤリ口がそれぞれ鮮やか。
家族を殺された復讐で動いているので、これが彼なりの正義なのかもしれない。
最後にババン!とタイトルが大きく出るのは、あなたは彼の行動をどう思いますか?と問われているようだった。
だからこそ、タイトルをシカリオのままにしてほしかったのだ。重要な意味があると思う。
ケイトの絶体絶命のときに助けにくるシーンでは、助けに来る行為そのものも王子様っぽかったけれど、大事な人に似ているというような告白まで始まり、ここでアレハンドロとケイトのラブ展開があるのかと思ったけれど無かった。その辺は安易に甘くしない。
それどころか、防弾チョッキ部分とはいえ、撃ってきたりもする。
ただ、終盤には、アレハンドロはケイトのことを怯える姿が娘に似ていると言っていた。最初の“大事な人”というのは妻なのだろうし、彼が復讐の鬼と化すくらい大切な二人に似ているということは、やはり何かしら特別な存在なのだと思う。
でもこのあと、不正な書類にサインを書かせるために顎に銃を突きつけたりする。そして、ここまで映画を観てきたら、この人はたぶん脅しではなく本当に撃つだろうなというのもわかる。
ケイトも怒りにまかせてベランダから下にいるアレハンドロを銃で撃とうとするが、撃てない。振り返ったアレハンドロは何も言わないが、威嚇するような、挑発するような目をしていた。撃てるものなら撃ってみたら?とでも言ってそうだ。そして、どうせ撃てないだろ、と。
結局、その通り撃てない。
最初は雰囲気があるけど何者なの?くらいだったけれど、最後にはもうひれ伏すしか無い。絶対にかなわない。
顔の半分が影になって隠れる撮り方も、彼の正体不明さを際立たせていた。怖さが増す。
ただ、怖いだけではなく、たまらなくセクシーでもある。人物像がよくつかめないあたりも危険な香りがする。銃を顎の下に突きつける仕草や、拷問をする時に足と足の間に入って詰め寄るのも良かった。
もう一人の主要登場人物はジョシュ・ブローリンなんですが、ベニチオ・デル・トロと顔の雰囲気が似てるといえば似ている。
けれども、このマットという人物は、アレハンドロとほぼ正反対くらいに喋りまくる。軽口を叩いて、飄々としている。登場時はビーチサンダルを履いていたのも食えない奴感が滲み出ていた。本心を出さないという面では、アレハンドロと同じである。
また、見た目や言動からは想像できない、かなりのやり手である。
好きなキャラだったので、もっと出てきて欲しかった。
この映画は続編がすでに決まっていて、主要キャラ三人は続投とのことなので、次作ではもっと出番が欲しいところ。
部分的POVとか登場人物の後ろにカメラがべったりはりつく撮り方は本作でも使われていて、確かに流行なのかもしれないと思った。
終盤のトンネル潜入シーンの暗視カメラ目線は、『ゼロ・ダーク・サーティ』を思い出した。
最初のフアレスというメキシコの治安が悪い町に連れて行かれるシーン。登場人物が乗っている車の中にカメラがあって、自分もまるで車に乗っているかのような気持ちになった。車窓を眺め、おぞましい風景を見る。実際には行きたくないが、治安の悪い町をスクリーン越しに観光しているようだった。
部分的POVや登場人物のすぐ後ろにカメラを置くのは、観客にも臨場感や緊張感を体験させるものなのかもしれないけれど、本作はそれほど緊張感はなかった。
その原因は、アレハンドロが強すぎるからだと思う。彼が敵の銃弾に倒れるところは本作では少しも感じられなかった。ひやひやしなかったのだ。
この先、彼の弱点になりそうなのはケイトなのかなとも思うけれど、いまのところはそこまでいれこむ気配はない。続編でも今回のような無敵っぷりなのだろうか。
『ボーダーライン』
Posted by asuka at 2:18 PM
監督は『複製された男』、『プリズナーズ』のドゥニ・ヴィルヌーヴ。
アカデミー賞で撮影賞、作曲賞、音響編集賞にノミネートされました。
原題は『Sicario(シカリオ)』。耳慣れない単語でも、得体の知れなさやなんとなくの不気味さは伝わってくる。それに、意味は映画の一番最初に説明されるし、原題のままでいいのではないか。もちろん、映画内で重要な意味を持つ言葉である。
それに、『ボーダーライン』というのはちょっとダサくもある。いっそ、そのまま“国境”など、日本語のほうがまだマシなのでは、とも思ったけど、国境だけではなく、“善悪のボーダーライン”みたいな意味も入ってるのかもしれない。ダブルミーニング。
以下、ネタバレです。
女性が危険な地域に潜入して行くということで、なんとなく『ゼロ・ダーク・サーティ』のようなものを想像していた。
ただ、その女性を演じるのがエミリー・ブラントとはいえ、彼女がリーダーでジョシュ・ブローリンとベニチオ・デル・トロを従えているとは思えなかった。従うタイプの二人ではない。見た目的にですが。
じゃあ、彼らの新米部下なのだろうか?などと考えていたが、大体合ってるが正確には違うといった感じだった。
そもそも三人とも同じ組織ではない。同じ目的のために動く二人と、出向してきた一人である。だから新米は新米で間違いない。
このような映画の新米にはよくあることなのだが、彼女は正義の人である。どう考えても、彼女の言っていることが正しい。ただ、その正しさは、厳しい現場ではあまり意味を持たない。
FBIだから一般市民とは違うけれど、映画の中では一番真っ当な人物だ。映画を観る者のよりどころであり、共感できる人物だし、自己を投影できる人物だ。
その彼女が、最初から最後まで無力なのだ。できることが何一つ無い。
だから、映画が終わったあと、見ている側も無力感に苛まれる。酷い現状を見て、ただただ、圧倒されるのみだ。
だから、どちらかというと主人公はエミリー・ブラント演じるケイトではなく、ベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロである。
寡黙だし、何を考えているのかわからない。けれど、やるときゃ容赦ない。
原題のシカリオとは、暗殺者という意味らしいが、彼のことである。
映画内だけでも何人殺したかわからないし、ヤリ口がそれぞれ鮮やか。
家族を殺された復讐で動いているので、これが彼なりの正義なのかもしれない。
最後にババン!とタイトルが大きく出るのは、あなたは彼の行動をどう思いますか?と問われているようだった。
だからこそ、タイトルをシカリオのままにしてほしかったのだ。重要な意味があると思う。
ケイトの絶体絶命のときに助けにくるシーンでは、助けに来る行為そのものも王子様っぽかったけれど、大事な人に似ているというような告白まで始まり、ここでアレハンドロとケイトのラブ展開があるのかと思ったけれど無かった。その辺は安易に甘くしない。
それどころか、防弾チョッキ部分とはいえ、撃ってきたりもする。
ただ、終盤には、アレハンドロはケイトのことを怯える姿が娘に似ていると言っていた。最初の“大事な人”というのは妻なのだろうし、彼が復讐の鬼と化すくらい大切な二人に似ているということは、やはり何かしら特別な存在なのだと思う。
でもこのあと、不正な書類にサインを書かせるために顎に銃を突きつけたりする。そして、ここまで映画を観てきたら、この人はたぶん脅しではなく本当に撃つだろうなというのもわかる。
ケイトも怒りにまかせてベランダから下にいるアレハンドロを銃で撃とうとするが、撃てない。振り返ったアレハンドロは何も言わないが、威嚇するような、挑発するような目をしていた。撃てるものなら撃ってみたら?とでも言ってそうだ。そして、どうせ撃てないだろ、と。
結局、その通り撃てない。
最初は雰囲気があるけど何者なの?くらいだったけれど、最後にはもうひれ伏すしか無い。絶対にかなわない。
顔の半分が影になって隠れる撮り方も、彼の正体不明さを際立たせていた。怖さが増す。
ただ、怖いだけではなく、たまらなくセクシーでもある。人物像がよくつかめないあたりも危険な香りがする。銃を顎の下に突きつける仕草や、拷問をする時に足と足の間に入って詰め寄るのも良かった。
もう一人の主要登場人物はジョシュ・ブローリンなんですが、ベニチオ・デル・トロと顔の雰囲気が似てるといえば似ている。
けれども、このマットという人物は、アレハンドロとほぼ正反対くらいに喋りまくる。軽口を叩いて、飄々としている。登場時はビーチサンダルを履いていたのも食えない奴感が滲み出ていた。本心を出さないという面では、アレハンドロと同じである。
また、見た目や言動からは想像できない、かなりのやり手である。
好きなキャラだったので、もっと出てきて欲しかった。
この映画は続編がすでに決まっていて、主要キャラ三人は続投とのことなので、次作ではもっと出番が欲しいところ。
部分的POVとか登場人物の後ろにカメラがべったりはりつく撮り方は本作でも使われていて、確かに流行なのかもしれないと思った。
終盤のトンネル潜入シーンの暗視カメラ目線は、『ゼロ・ダーク・サーティ』を思い出した。
最初のフアレスというメキシコの治安が悪い町に連れて行かれるシーン。登場人物が乗っている車の中にカメラがあって、自分もまるで車に乗っているかのような気持ちになった。車窓を眺め、おぞましい風景を見る。実際には行きたくないが、治安の悪い町をスクリーン越しに観光しているようだった。
部分的POVや登場人物のすぐ後ろにカメラを置くのは、観客にも臨場感や緊張感を体験させるものなのかもしれないけれど、本作はそれほど緊張感はなかった。
その原因は、アレハンドロが強すぎるからだと思う。彼が敵の銃弾に倒れるところは本作では少しも感じられなかった。ひやひやしなかったのだ。
この先、彼の弱点になりそうなのはケイトなのかなとも思うけれど、いまのところはそこまでいれこむ気配はない。続編でも今回のような無敵っぷりなのだろうか。
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