『偉大なるマルグリット』
Posted by asuka at 7:55 PM
2016年公開。フランスでは2015年公開。
『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』を観たときに、本作のことが頭をかすめた。予告しか見ていなかったけれど、音痴な歌姫のために夫が献身的につくすという内容かと思っていた。
本作は舞台をフランスに移し、登場人物の名前を変更しただけの同じストーリーなのだと思っていたけれど違った。
『マダム・フローレンス!』がどの程度かわからないけれど実話寄りで、『偉大なるマルグリット』はフローレンスのモチーフこそ同じだけれど、あくまでも創作のようです。
以下、『マダム・フローレンス!』との違いについて。『マダム・フローレンス!』のネタバレも含みます。
そもそも夫のキャラクターが違った。実際には、医師と17歳で結婚して34歳で離婚、41歳でシンクレアと出会い結婚したようだ。フローレンスが歌のレッスンを受けたのも43歳のときらしく、『マダム・フローレンス!』はその頃の話である。夫もシンクレアだ。
『偉大なるマルグリット』では、夫は男爵である。貴族の地位も持っている。フローレンスよりも年上に見える。シンクレアは、これは実話なのかわからないが売れない俳優だったので、どちらかというと、フローレンスのヒモのように見えた。年齢も若い。
ワルキューレ風の衣装や天使の羽の衣装などの、奇抜だけれど愛らしい衣装は両方ともに出てきた。写真がたくさん残っているようだし、それを参考にしているのだろうか。
同様に、彼女の歌を収録したレコードも実際に残っているようだが、それの扱いは違っていた。
『マダム・フローレンス!』では、嬉々として自分で録音して、ラジオ局などに配っていた。本人が聴いたのかどうかはわかりません。
マルグリットはステージ上で倒れた後で、自分を大歌手だと思い込み、行ってもいないツアーの話をしていて、正気を取り戻させるために病院で歌を録音し、ショック療法のような使い方で聴かせようとしていた。
だいぶ意味合いが違うが、これも『マダム・フローレンス!』のほうが実話なのだろうか。
また、実在のフローレンスは若い頃に元夫に梅毒をうつされていて、『マダム・フローレンス!』でもその薬の副作用で髪が抜けてしまっていて、調子が悪くなることも多かった。だから、夫人公認の愛人もいた。公認とはいえ、フローレンスは夫を愛していて、やはり寂しそうだった。
マルグリットは持病はなさそうだったけれど、慣れないレッスンのせいなのか、喉を痛めていた。ステージ上で吐血していたのは声帯が切れたのだろうか。
また、やはり夫には愛人がいたが、あくまでも内緒であり、マルグリットが偶然見かけてショックを受けるという場面もあった。
フローレンスもマルグリットも、両方とも夫の愛を求めていた。求めながら満たされない寂しさは同様に描かれていた。
フローレンスのほうは、夫のシンクレアは最初はどちらかというと執事のような描かれ方をしていた。マルグリットは夫がまったく興味をしめさない。
シンクレアはかいがいしくフローレンスの世話をしていたが、マルグリットではそのままずばり執事が世話をしていた。
マルグリットでは歌の先生が雇われるときに、実際に歌を聴いたところで断って帰るので、これはフローレンス側のピアニストの役割かと思った。
ピアニストは去ろうとするところ、シンクレアがお金で引き留めるが、歌の先生は性癖を暴露するぞと執事が脅して引き留める。
しかし、フローレンスのピアニストも、マルグリットの歌の先生も、共に歌を聴くうちに彼女のことが大好きになってくる。
だから、歌が下手という、本人だけが気づいていない事実が伝えられない。みんな彼女を傷つけたくないと思うし、応援したいと思ってしまう。
劇中では、彼女は愛で満たされていないから歌う、夫の気をひくためだと言われていたけれど、それだけではないと思う。
音楽が好きで歌が好きだから、自分でも歌いたい。好きなことを貫こうとするひたむきな姿勢と行動力、バイタリティー。
何より楽しそうな姿を見ると楽しくなってくる。
『マダム・フローレンス!』で夫のシンクレアはサクラの客を雇ったり新聞を隠したりと、フローレンスの耳に酷評が入らないようにしていた。
マルグリットの夫も最初は舞台で笑い者になるだけだと言っていたけれど、そのうち、「あなたにやめろと言われればやめるわ」とマルグリットに言われても言えなくなってしまう。
結果的に、マルグリットの歌で夫の気をひくことができたし、彼女を傷つけたくないとまで思っていたのだから、気持ちがまるまる変化している。
映画を観ている私たちも同じだ。強烈に音がはずれていても、もう馬鹿にすることはできない。笑っていてもそれは嘲笑ではなく、幸せな気持ちになったときの笑みだ。
ラスト付近の展開は両方とも同じだった。
フローレンスが酷評された記事が載った新聞を見せるのを、マルグリットの歌が収録されたレコードを聴かせるのを、それぞれ夫が必死で止めようとしていた。
実在したフローレンスは心臓発作で亡くなったのだが、事実を知ることで心臓発作を起こしたのかどうかは不明である。
映画では、『マダム・フローレンス!』は新聞記事を読んで倒れ、『偉大なるマルグリット』では自分の歌を聴いて倒れていた。
『偉大なるマルグリット』では亡くなったということはちゃんとは描写されないけれど、両方とも、夫の腕の中で目を閉じている。両方とも、夫の愛が戻ってきたということでハッピーエンドでもあるのだろうか。
もしも心臓発作でないのだとしたら、事実を知ってからも歌を続けるのだろうか。彼女のことを、彼女の歌を愛している人もいるのだから、やはり続けてもらいたいと思うのだ。カーネギーホールのアーカイブでも一番人気になっているというらしいし、70年以上経った今でも歌が愛されていると彼女に伝えてあげたい。
calendar
ver0.2 by バッド
about
- asuka
- 映画中心に感想。Twitterで書いたことのまとめです。 旧作についてはネタバレ考慮していませんのでお気をつけ下さい。
Popular posts
-
2013年公開。リュック・ベッソン監督作品。 アメリカ版だと『The Family』というタイトルらしい。フランス版は同じく『マラヴィータ』。イタリア語で“暗黒街での生涯”とかの意味らしいですが、主人公家族の飼っている犬の名前がマラヴィータなのでそれだと思う。別に犬は活躍しま...
-
アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、歌曲賞ノミネート、脚色賞受賞。その他の様々な賞にノミネートされていました。 以下、ネタバレです。 北イタリアの別荘に夏の間訪れている家族の元に、一人の青年が訪れる。家族の父親が教授で、その青年は教え子である。 まず舞台の北イタリアの夏の風景が素晴...
-
フランスCanal+、イギリスSkyの共同制作のドラマ。トンネルってタイトルはドーバー海峡のトンネルのことだった。もともとはデンマークとスウェーデンの共同制作で『The Bridge』というドラマだったらしい。 見たのは2013年のシリーズ1(全10話)。来年シーズン3が放映され...
-
原題は『The Young Pope』。ジュード・ロウがローマ教皇を演じたドラマの後半。(前半の感想は こちら ) 前半は教皇が最強でもう誰も逆らえないみたいになったところで終わった。 ジュード・ロウ自体が美しいし、そんな彼が人を従えている様子は、神というよりは悪魔のよ...
-
Netflixオリジナルドラマ。 童貞の息子とセックス・セラピストの母親の話と聞いた時にはエロメインのキワモノ枠かなとも思ったんですが、母子の関係がメインではなく、そちらを描きつつも、学校生活がメインになっていた。 ドラマ開始から学生同士のセックスシーンだし、どうだろう...
-
2007年公開。このところ、ダニー・ ボイル監督作品を連続で観てますが、 こんなSFを撮っているとは知らなかった。しかも、 主演がキリアン・マーフィー。でも、考えてみればキリアンは『 28日後…』でも主演だった。 映像面でのこだわりは相変わらず感じられました。 宇宙船のシールド...
-
試写会にて。わかったことと、わからないこと。 以下、ネタバレです。 クーパーがどうやって助けられたのかがよくわからなかったんですが、あの時のアメリアの顔は幻じゃなかった。映画の序盤でワームホールを通る時に、アメリアが“彼ら”の姿を見てハンドシェイクをする。結局“彼...
-
ドルビーアトモスで観たんですが、席が前方だったせいもあるかもしれないけれど、あまり音の良さはよくわからなかった。前回がIMAXだったからかもしれない。 IMAXと同じく、最初のプロモーション映像みたいなのはすごかった。葉っぱが右から左へ。 以下、二回目で思ったことをちょこ...
-
2007年公開。サム・ライミ版。1から3まで観ていません。いきなり3から観るのはどうかと思ったけれど、やっぱりわからない部分がいくつかあったのでまたちゃんと観たいです。 以下、内容に触れます。 ジェームズ・フランコと戦ってるけどなんで戦っているのかわからなかった。少し...
-
ほぼ半月あけて後編が公開。(前編の感想は こちら ) 以下、ネタバレです。 流れ自体は前編と同じ。ジョーがこれまであったことを話し、それに対して、セリグマン(今回はちゃんと名前が出てきた。ステラン・スカルガルドが演じている男性)が素っ頓狂なあいづちをうつ、と...
Powered by Blogger.
Powered by WordPress
©
Holy cow! - Designed by Matt, Blogger templates by Blog and Web.
Powered by Blogger.
Powered by Blogger.
0 comments: