『アンダー・ザ・シルバーレイク』



『イット・フォローズ』がスマッシュヒットしたデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督作品。
失踪した美女を追いかける青年の話。ですが、散りばめられたヒントは膨大ですべて拾いきれていないし、主人公の青年自体が何者なのかもいまいちわからず、少なくとも清廉潔白という人物ではなく、妄想と現実の境も曖昧。
なのでストーリーがきっちり理解できたわけではないし、謎がすべて明かされたわけではない(私が理解できていないのでそう思うのかも)けれど、全体を貫く不気味な雰囲気と次々出てくる謎のセンスが好みで、謎が解けるとか解けないとかはどうでもよくなる。

万人におすすめできるタイプの映画ではないと思うけれど、デヴィッド・リンチというか、『ツイン・ピークス』好きの方は好きなのではないかと思う。

以下、ネタバレというより、私の考察です。
(あとで公式サイトの解説やパンフレットを読みます)















まず、主人公のサムですが、最初は何者だかまったくわからないんですが、LAに住んでいる、映画・ゲーム・音楽・アメコミ(スパイダーマンのコミックを放り投げるシーンは笑った)などのポップカルチャーが好き、現彼女が売れない女優、元彼女は売れた女優などから映画関係者なのかなと思った。
でも、家賃を滞納していたり、働いていると言っていたけれど無職っぽかったので、成功したけれど転落した映画関係者なのかと途中で思った。
しかし、彼が住んでいる場所、タイトルにもなっているシルバーレイクは映画業界を目指す若者が住む場所らしく、転落ではなく売れようとしているところだったようだ。
ただ、車が高級車だったり、派手な友人(ジミ・シンプソンが演じていた)がいたりと、一度は成功しかけたのではないかと思う。
この辺、映画内ではまったく明らかにされません。

サムは隣人のサラのことが好きになる。家でいい雰囲気になっていたところにルームメイトが帰ってきて、解散。明日また来てということになる。
このルームメイトが怪しい男とサラを含めて二人の女性。この先もこの映画に出てくる女性は大体三人組で出てきて、いよいよ何か意味がありそうだなと思った時に、その謎はラスト付近で明らかにされる。
翌日、彼女の家に行ってみるともぬけの殻。不動産屋に聞いてみたところ、引っ越したとのこと。この不動産屋はサムの家も担当していて、延滞している家賃を催促する。この不動産屋は何回か出てきますが、全体的に悪夢っぽく夢か現かわからない映画の中でこの人が出ているシーンだけは現実なのだなと思えた。家賃の催促という行為が現実としか思えないからだろうか。

サムは彼女の行方を探し始めるが、その途中途中で出てくるモチーフがどれもぐっときた。怪しいゴスバンドは〝イエスとドラキュラの花嫁〟という名前も大概ですが、イエスという男性とゴスウェディングドレスの女性が三人という四人組。ここも女性が三人。曲も好みでした。
何度か出てくる芸能関係者(たぶん)が集う怪しいパーティもおもしろい。風船を体に沢山つけた女性が踊り、終わったところで観客が入り口で渡された針で風船を割っていく。この女性はこの先も風船を手にくくりつけていた。
シークレットライブのチケットがクッキーで、当日ライブ会場の入り口で齧れと言われていた。しかも、ドラッグ入りのクッキーで、ハイになりながらライブを楽しめるという仕組み。
このライブ会場の地下のクラブはテーブルが墓石になっていた。

バンドの曲の歌詞から暗号を読み解いたり、腕輪の暗号から地図に隠された謎を探り当てたりと、どれもこれも見ていて面白かったが、一つ謎を解いても何も解決しないどころかむしろ謎は深まっていくのも不気味だった。深みにはまっていくばかりで、謎が解けてもすっきりはしない。

ただ、ストーリーがわかりにくい中で、金持ちのみの特権としてのカルト宗教めいたものが彼女の失踪の原因だったということで、ぼんやりと金持ちに対する憎悪が見えた。サムは序盤から家賃を滞納していることが示される。ホームレスに対する行き過ぎた嫌悪からも、絶対にホームレスにはなりたくないという思いが感じられるが、それは彼が限りなく近い場所にいるからだ。仕事も金もなく、成功もしていない。金持ちに対する気持ちは憎悪であり、憧れなのだ。

また、もう一つのテーマとして、ポップカルチャーは偽モノというのもあると思う。謎の老人がいろんな時代のヒット曲をピアノで弾いて、これは私が作った売れるために作ったというシーンがある。演奏されるのは実際の楽曲である。
特に、ニルヴァーナの『Smells like teen spirits』をピアノで弾きながら、「ギターの歪みなんてない、ピアノで片手間に作った、これでティーンが反抗心を掻き立てられるとか馬鹿」みたいなことを言うシーンは、サムもショックと怒りをおぼえていたが、私も同じ気持ちだった。
ポップカルチャー好きのサムは私だった。ニルヴァーナで衝撃を受けて、影響された過去を持つ。それが全部嘘だったら? 観た映画、読んだ漫画、すべてがメッセージを隠すためだけの偽モノだったら? そんなのは悲しすぎるし、好きなもの、影響されたものを否定されたら、私を形づくるものすべてが無くなってしまう。私自体が無くなる。まるで私という存在を否定されたようだ。
ただ、この老人も金持ちだったから、結局金持ち憎悪の話とも繋がってくるのかも。

サムはもちろんサラを探していたのだけれど、曲に隠された暗号や昔のゲーム雑誌に隠された地図を探っている時には楽しそうだった。謎解きを楽しんでいた。これは、本作に散りばめられた謎を探して考察する私と同じ姿である。ちょっとしたことから意味をさがすのはなんで楽しいのだろう。
US版のポスターには様々なモチーフが隠されていて、それはWEBではわからなかったけれど映画館に実物か貼ってあって、なるほどこれか…と思いながら写真を撮ってた私もサムと同じなのだ。

ホラーの皮をかぶった青春映画『イット・フォローズ』の監督だけあって、青春映画の一面もある。一作目、『アメリカン・スリープオーバー』も未見ですが青春映画らしい(上映か配信して欲しい)。
ラスト付近、どこかの地下室にいるサラとサムはテレビ電話で会話をする。
サラからの「ここに来なければ良かったと思う?」という質問にアンドリューが同意をすると、「そっか」と少し残念そうにしていた。もう自力で逃げようとかそんなことは考えない。あきらめてるから。でも、もっとはやくに二人が会ってたら、事態は違ったのかもしれないとも思ってしまう。

この電話の時に、サラは「犬を飼ったら?あなたには無償の愛が必要」というようなことを言っていた。
サラの失踪事件と並行して、連続犬殺し事件が町で起こっていることが示される。この事件については犯人はわからないし、解決もされない(私が見落としているだけかもしれない…)。けれど、もしかしたら、犬=無償の愛の象徴なのかもしれないと思った。それはささくれ立ったサムの心の中を示しているのではないだろうか。

サムがこの先どうなるのかわからない。隣人の老婆の家でセックスをしていた(この時、カーテンを閉めた時に映るベランダの鳥かごと鳥がきれいだった)のもなんのためかわからない。これはただ単にセックスがしたかっただけかもしれないし、不動産屋と警察からの退去命令を避けるために家から出たかったのかもしれないし、オウムが何を話しているのか知りたかったのかもしれない。理由はわからないけれど、最後の何かを睨むような、決心するようなサムの顔が不気味でもあり、恰好良くもあった。この映画内で、ここまで見せていなかった表情である。
今年はNTライブ『エンジェルス・イン・アメリカ』でアンドリュー・ガーフィールドのことを好きになったんですが、本作でますます好きになってしまった。

母親が好きな女優やサムのTシャツ、部屋のポスターなどにも意味があったのかもしれないけど、拾いきれていません。

パンフや公式サイトの解説を読んでみます。









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