『永遠のこどもたち』



2007年公開。J・A・バヨナ監督初長編作。製作総指揮にギレルモ・デル・トロ。
原題は『El Orfanato』で、スペイン語でそのまま“孤児院”の意味らしいので、良い邦題だと思う。

まず海辺の元孤児院というのが、ロケーション的にぐっとくる。窓からはかつて動いていたけれど、今は使われていない灯台が見える。
これは、2016年の『怪物はささやく』で子供の部屋から古い大木が見えるのにも似ていると思った。
また、孤児院といってもお屋敷のようで、これは今年公開された『ジュラシック・ワールド/炎の王国』に出て来たお屋敷にもよく似ていて、監督の趣味はまったくぶれていないのがよくわかる。何かが潜む不気味な館という構図も同じですね。
『インポッシブル』もですが、バヨナ監督作はどれも子供がキーになっているようだ。

前半は、実は館にはおぞましい秘密があった!ということで、思ったよりもホラー映画のようだった。
特に、息子は見えないお友達と海辺の洞窟で会い家に連れて来てしまうとか、そのお友達に息子が連れ去られたのか神隠しに遭うなどのエピソードはよくある感じだと思ってしまった。
また、謎の老婆が車に轢かれてしまい、そのぐちゃぐちゃになった顔を映すなど、怖がらせようという意図も見えた。

しかし、話が進んで行き、主人公ラウラがいた孤児院でラウラが出たあとにあった事故など、事実が明らかになっていく。
霊媒師などが家の様子を見にきて、霊と対話をするが、ラウラは事情がわかっているし、実際に被害に遭ったから霊を信じるけれど、夫はまったく信じていない。でもこのままここにいたら、妻がおかしくなってしまうと思い、家を出ることにする。
ここでラウラは、家を出るのは反対をして、2日間だけお別れの期間をくれと申し出るんですね。ここまでは、怪奇現象が起こっても、夫がいるしまあ大丈夫だろうと思っていたけれど、ここでラウラ一人になってしまったら、おそらくすごく怖い目に遭うだろうというのは想像できた。でも彼女も同じ孤児院だったということで関わっている以上、彼女が子供の霊たちと戦うしかないのだ。戦って、自分の息子を取り戻すしかないのだ…と思った。

だが、ここから話が変わっていく。屋敷内を掃除して、全員分の食事を作り、孤児院の服を着たラウラは、人形を置いてみんなでテーブルを囲む。
「1回2回3回、壁を叩け」という、だるまさんがころんだのようなことをする。これはラウラが小さいころ、死んでしまった孤児院の子供達と遊んだ遊びだ。
ここのカメラワークも面白い。壁側に顔を伏せているラウラを映して、ラウラが振り返るのと一緒にカメラもラウラの後ろを映す。まるで、映画を観ている側が、ラウラのすぐ横に立たされたようだった。何度めかのだるまさんがころんだで後ろに子供達が現れる。次第に近づいて来る様子には多少の不気味さはあるけれど、もうホラーという感じではない。
それよりは、殺されてまさに“永遠のこどもたち”になってしまった彼らとの心の交流が哀しい。姿も普通の子供だし、先ほどまでの怖がらせようとする意図が消える。

普通のホラー映画なら、ラウラが一人屋敷の中に残されての霊との戦いをクライマックスにして、ここからどんどん怖くしようとするはずだけれど、まったくそうはならない。
結局、地下室の階段の柵が壊れて転落したであろう息子の遺体が見つかる。それも、誰のせいというよりは事故であり、ただ哀しい。

ラウラが「息子を生き返らせて」と願うと、灯台が光るのも美しい。生き返るというよりは、ラウラが彼ら側へ行ったのだ。かつての友達らがラウラの元に集まってきて、その中には醜い顔と言われていた子もいたけれど、前半でその顔を怖く映していたのに、ラストでは全く怖くない。むしろ優しい。
向こう側に行ってしまったというのに、音楽も感動的なもので、ああ、これホラー映画じゃなかったんだな…と確信した。ホラー映画なら、向こう側へ行ったラウラはあんなに優しげな顔をしないし、恐怖の中で震え、夫が助けに来る展開である。

ラスト、夫が妻や子供たちが一緒に埋葬された墓に花を手向けていた。その表情も、怒りや悲しみや恐怖ではなく、穏やかだった。屋敷内で妻のロケットを見つけた彼は、おそらくもう、霊が存在するなんてとバカにしてなさそうだったし、ちゃんと信じていそうだった。

幽霊怖い!というところから、彼らだって生きていたのだし、どんな形でも時を超えて会えるのは素晴らしいでしょ、怖くないよというロマンティックですらある結論が出る。

生きている者と死んでいる者の境界が曖昧になる。想いはそんなものを超えていくという感じは、デル・トロっぽくもあるし、バヨナっぽくもあるなと思った。暗黒童話感が似ている。

前半はこんなに怖いなんて聞いていない…と思ったけれど、結局、ホラーではなく、映像美に彩られているゴシックファンタジーでした。バヨナ監督の原点であり、まだまだ今も失われていない監督色の出所が見えておもしろかった。

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