『ピウス13世 美しき異端児』(6話〜10話)(『ヤング・ポープ 美しき異端児』)



原題は『The Young Pope』。ジュード・ロウがローマ教皇を演じたドラマの後半。(前半の感想はこちら

前半は教皇が最強でもう誰も逆らえないみたいになったところで終わった。
ジュード・ロウ自体が美しいし、そんな彼が人を従えている様子は、神というよりは悪魔のように見えた。要は邪悪だったのだ。でもその邪悪さも含めて蠱惑的な魅力をまとっていた。
自分の風貌を最大の武器と考えていて、自ら、「美しい青い瞳と柔らかな唇」と言っていた。投票率操作により落選させることもできると、イタリアの首相を脅すようなこともしていた。

しかし、ドラマをこちら側から見ている私はただただ恰好良いと魅了されても、ドラマの中の人たち、バチカンの人たちや信者はたまったものではない。教皇を失脚させようとしているのは国務長官だけではなく、他の枢機卿たちや、母同然のシスターメアリーも、兄弟同然のアンドリューもなんとか彼を止めようとしていた。

彼の最大の弱点はいなくなってしまった両親だというのがシスターメアリーはわかっていて、それを利用した策を出したりしていた。
シスター・メアリーにまでこんなことを思われては相当である。彼女だけは、いつどんなときも教皇というか、レニーの味方だと思っていた。

そんな中で教皇は、同性愛者弾圧をアンドリューに任せたが、疑惑をもたれた青年は失職し、自殺してしまう。さらに、もう嫌だとローマから元々いたホンジュラスに帰ると、マフィアの奥さんに手を出したことがバレて殺されてしまう。

ここまででおそらく7話が終わったところだったと思うが、急に人が死に始める。また、5話の最後に教皇御一行で家まで訪れた、神の天啓を得たような市民は行方不明になってしまったらしい。
行方不明はどうなったのかはわからないが、自殺した同性愛疑惑の青年に対しては別にどうも思っていなかったようだ。ただ、シスターメアリーにも嘘をつかせてしまったことに対して、アンドリューが殺されてしまったことに対しては本当に悲しんでいて、レニーがやっと人間の心を芽生えさせる。あんなに満ちあるれていた自信のかけらもなくなって、眉をひそめていた。

ここまで何度か、若いシスターメアリーと、子供のレニーとアンドリューが出てくるシーンがあって、そのすべてを思うと、友達というよりは兄弟くらい近い存在だったのだろうし、こんな親しい存在がおそらくレニーには他にいないのだと思う。それを思うと本当に悲しいし、間接的に自分が殺したことに後悔もあっただろう。

そこで、このドラマがただのヴィジュアル重視ではなくて、一人の人間の成長物語だとわかる。前半のような人を馬鹿にするような表情(それはそれで素敵だったけれど、さておき)は見せなくなる。

ただ、ヴィジュアル面でさぼっているわけではなく、8話ではアフリカへ行くのだが、その時には、いつもの白い祭服に真っ赤なマントと真っ赤な帽子と真っ赤な靴を履いていた。また、そこにある藁でできたような教会もおもしろかった。あんな教会あるのだろうか。

また、アフリカでのスピーチが初めて教皇らしいものだった。父と母と一緒にいた時の景色を想ってのもので感動的だった。それは教皇というよりレニーが話していた。教皇としてというより、人間として未熟だった部分が成熟していくのがわかった。

9話はグティエレス中心の回だった。そういえば、前半でニューヨークに派遣する話が出ていた。ニューヨークで、カートウェル事件の調査をする話で、ジュード・ロウはあまり出てこないし、なんとなく話が止まってしまったように思えた。けれど、実は全部繋がっていた。ちなみにグティエレス役はハビエル・カマラである。

カートウェルというニューヨークの大司教が子供達に性的虐待をくわえていたことを調べて、それを突き止めてローマへ帰ってきた。事件を追う、刑事ドラマのような一話だった。

その成果から、教皇はグティエレスを秘書にしようとするけれど、グティエレスは自分が同性愛者だと告白して拒否する。しかし、教皇はそれも知っていて、しかもグティエレス自身が幼いころに虐待を受けていたことも知っていて、ニューヨークでの調査を任命したとのこと。
当事者ならばしっかり調べてくれるだろうし、同性愛者なのを知ってて側近にするということは、今まで強硬な姿勢をとってきたけれど、考え直してみようということだ。
しっかり大人になっている。

また、今までは子供だったから母親(シスターメアリー)が必要だったけれど、もう必要ないとも言っていた。それは、シスターメアリーを自分から解放してあげるという意味合いも含まれていたのではないかと思う。

この回のラストで、カートウェルがレニーが過去に書いたラブレターをスキャンダルとして公表するけれど、このラブレターの内容がとんでもなく美しくてロマンティックだった。かつての恋人へあてたものである。もう終わった恋。あまりにも幼い内容。しかも出されていないラブレターだ。
悪(カートウェル)はしっかりと成敗され、心が洗われるような純粋なラブレターで終わる、良い回だった。
吹き替えで観ていたのだが、ここの森川さんの穏やかな声もとても良かった。

国務長官は前半は姑息な手段で教皇を失脚させようとして小憎たらしかっった。けれど、後半になるに従って、どんどん愛らしくなってくる。思えば、最初からふくよかな女性の彫刻に性的興奮をおぼえるなど、憎めない部分はたくさんあった。
ずんぐりむっくりな体型もいいんですが、風で一人だけ帽子が飛んじゃったり、シスターメアリーに再三言い寄って、別れのシーンではシスターたちの真ん中に陣取ったりもしていた。
サッカーマニアで、応援しているチームのユニフォームを着ていたり、チームを馬鹿にされると記者相手でも声を荒げそうになったり。
いつのまにか、教皇を失脚させることも考えなくなっていたようだった。教皇の最後のスピーチで民衆に微笑んでくれと言ったら、彼も微笑んでいた。

いくつか謎が残っていている。
結局、行方不明のトニーノ・ペットラはどこへ行ってしまったのか。国務長官は、顛末に関しては教皇との秘密で言えないんだと言っていた。少し嬉しそうだった。

子供のころ、友達の瀕死の母がレニーが祈ったら復活した話はどうだろう? シスターメアリーもその場にいたとのことだが、話はいくらでも合わせられる。

不妊症だったエスターが祈ったら妊娠した話は? レニーのあの可愛がり方はただ子供が愛おしかっただけだろうか。ピウス14世などと呼んでいたけれど。でもエスターと関係を持ったとは思えない。だって、過去に好きだった女性の足にさえ触れられなかったんだもの。童貞の可能性もあると思う。それにエスターもレニーのことを本物の聖人と言っていたから無いだろう。

シスターメアリーも両親がいないということをレニーが知っていたのは? アンドリューから聞いたのではないかと思うがどうだろう。聖人だからわかると言っていたが。

アフリカの悪徳シスターが祈ったら死んだ話は? 水に毒でも仕込んだかと思っていたけれど、ここまでの話がすべて神の力なら、本当に祈っただけかもしれない。

けれど、神を信じず、教皇のイメージとも違った男が、最後にはちゃんと慈悲深いスピーチをしていた。
前半の性壁をぐいぐい突いてくる感じもたまらなかったけれど、後半にぐっとと深まった人間ドラマも素晴らしかった。
結局は、両親に捨てられて傷ついた一人の男の子が、愛に鈍感ながらも周囲の人間と関わりながら大人になっていき、 両親も許そうと思うまでに成長するわかりやすいストーリーなのだ。

全編を通して映像がとても綺麗なのだけれど、今調べて監督が『グランドフィナーレ』のパオロ・ソレンティーノだったことを知る。映像美で有名な監督が撮っているのだから、そりゃ美しいわけだ。
建物を遠景でシンメトリーに撮る感じとか水の綺麗さもなるほどと思った。

バチカンが舞台なのにもかかわらず、賛美歌がほとんど使われないのも面白い。何度か使われていたのはReconditeの『Levo(Club Edit)』 。Reconditeはドイツ人のLorenz Brunnerによるテクノユニット。去年11月には日本酒と音楽のコラボイベントで来日もしていた。

あと、最近の海外ドラマにしては珍しく、シーズンいくつみたいな続編は作られず(多分。作れるような内容ではない)、10話ですっぱり完結するのも見やすい。
見やすいといっても、今のところ手段がWOWOWしかないので、はやくソフト化してほしい。
(追記:ソフト化されました。あとHuluでも配信されているようです)

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