『ワイルドライフ』



ポール・ダノ初監督作。パートナーであるゾーイ・カザン共同脚本。4年かかっているらしい。

壊れそうな家族の話。父親役にジェイク・ジレンホール、母親役にキャリー・マリガン。14歳の息子役にエド・オクセンボールド。
ポール・ダノは出ません。

以下、ネタバレです。








いつものことながら何の話かわからないまま観ていたので、両親は仲がいいし、慎ましくも幸せに暮らしていて、一体何の問題があるのだろう?と思いながら観ていた。
しかし、景気が悪いようで、母ジャネットのパートは決まらない。また、モンタナ州は山火事がしょっちゅう起こっているらしく、学校の授業で避難の注意を受けているのも嫌な予感がした。

そして、父ジェリーはゴルフ場の仕事を解雇される。翌日に解雇は取り消されるが、プライドが高いのか戻ろうともしないし、スーパーのレジの仕事などを馬鹿にし始める。最初はいい父親だと思っていたけれど、いつもの、目が死んでいるジェイク・ジレンホールになっていた。
そして、仕事を探さずについには山火事を消す仕事に従事したいと言い出す。危険なのはもちろん、雪が降るまで帰れないらしい。出稼ぎのようだし、さぞかし高給なのだろうと思ったが、時給1ドルだった。1960年代の1ドルが今のどれくらいなのかはわからないが低賃金であることは間違いない。おそらく、人助けのような気持ちもあったのだろうが、14歳の子供を残して、しかも金を稼げるわけでもない仕事をしに行くのは自分勝手すぎる。
序盤で本当に腹が立ってしまった。

残されたジャネットも女手一つで14歳を育てることができずに途方にくれる。ジョーも写真スタジオでバイトを始めるが、仕事が見つからない。
ジャネットについて、公式サイトにも雑誌の記事でも浮気と書いてあったけれど、売春的なものなのかと思って観ていた。
華美な服装と派手な化粧で金持ちのカーディーラーの気を引いていた。キャリー・マリガンはメイクをしないと顔が幼いが、濃いメイクをすると綺麗というよりはアンバランスに見えた。痛々しく感じたのは役柄のせいもあるし、メイクも綺麗に見せる類のものではなかったのだろう。
カーディーラーはでっぷり太っていたし、頭も禿げ上がり、太い葉巻をくわえていた。葉巻をくわえる口元を唾液が映るくらいアップで撮るのは嫌悪感を煽る方法としてよかったと思う。これは14歳のジョー目線なのかもしれない。

華美な化粧とドレスを着た母が、カーディーラーの家で彼の気を引いているのはジョーには耐えられなかっただろう。ここまでずっとジョー目線なこともあり、私もはやく帰らせてくれ…という気持ちになってしまった。
また踊りたいと言われても、そんな気にはなれないし、踊っている母を見るのも嫌だ。
ここで、何してるんだろうかとジャネットは一回正気に戻ったように見えた。けれど、上着を返しに行った時に、カーディーラーとキスしてした。ここのひっそり覗く描写がうまかった。
なかなか帰ってこない母を心配してジョーは窓からそっと覗く。カメラはジョーをとらえていて、ジョーははっとした顔をしてその場を立ち去る。
何を見たのだろう、あまり良くないものなのはわかるが興味もある…と思っていたら、ジョーが去った後も、カメラだけが窓辺に残って、横に少し振ると部屋の中の様子が見えるのだ。キスしているのを見てしまったジョーと同じ目線で部屋の中を覗き、頭を抱えた。
他にもこのように、ジョーがひっそりと事の成り行きを調べる描写が出てきて、それは少しホラー映画を思わせる撮り方でおもしろかった。独特。

家にもカーディーラーを呼んで寝ているようだったけれど、それを見たジョーに、ジャネットは「他に何かいい方法があったら教えてほしい。今よりはマシだろうから」と言っていた。
その惨めさが出ている表情から、金持ちと寝て、お金をもらっているのかと思っていた。気に入られるために華美な服装をしているのかと。
それとも、金があって安定した仕事をしているところに惹かれて好きになっていたのだろうか。わからない。

初雪がなかなか降らないというニュースが流れているシーンもあったが、ジョーがベンチに座ってバスを待っている時に、雪がはらはらと降り始める。このシーンが本当に美しかった。
セリフでの説明はないけれど、映像だけで説明されることが多いが、このシーンは特に好きだった。
雪が降る=父が帰ってくるというのが観てる人にはわかる。バスが来て、ジョーの姿はなくなるんだけど、乗ってはいないよね?と思うと少し間が空いてカメラが横に動いて、家に向かって走るジョーの後ろ姿を映す。一連の流れがうまい。
ジョーはもちろん父の帰りを待っていたとは思うけど、父が帰ってくることで最悪の状態がなんとか回復しないだろうか?という希望を託してもいたと思う。一刻もはやく事態を脱したいという気持ちが、あの必死の走りに表れてるようで泣けた。

けれど、帰ってきたところで、亀裂が決定的なものになるだけだった。
父親ジェリーはジェリーで、また引越しを提案してくる。当然ついていけないし、わかってないジェリーに対して、ジャネットはついに別居を提案する。
その後に外でジェリーとジョーが食事をしているんですが、もうジェイクジレンホールの顔が怖い。威圧的に、ジャネットとカーディーラーの関係を聞き出そうとして、嘘をつけなくなったジョーが告白するとキレて家に火をつけに行くという…。本当に自分勝手だし手に負えない。

カメラが家の様子を外から映しているシーン、リビングのテーブルには夫婦がいて、ジョーは一人で部屋に戻り、電気を消して明日の学校に備えて先に寝ていた。
両親などあてになるかという拒絶が感じられた。いままで、親なのだからと期待していたのが悪い、もう一人でやっていくのだという意志が感じられたが14歳で大人にならざるをえなかったジョーのことを考えると胸が痛いし、大人たちしっかりしろよ…と思ってしまった。ジャネットはジェリーに何か飲み物を出しているようだったし、軽く仲直りはしたのかもしれない。それでも。
『荒野にて』の一歩手前に見えた。

その後は、ジェリーは嫌がっていた販売員の仕事を始め(働いている店もガラス張りで、ここも外からカメラが長回しのように映していた)、ジョーと一緒に元の家に住んでいた。ジャネットは家を出て、ポートランドに住んでいるようだった。
離婚はしていないけれど、帰ってきても週末が終わればポートランドへ帰るとのことで、復縁はなさそうだった。

ジョーはバイトする写真スタジオで、三人が並んだ写真を撮る。
このジョーがいない版がこの映画のポスターで使われている瞬間なんですね。最近観た『イングランド・イズ・マイン』もそうでしたが、ポスターにある意味重要なシーンが使われていて、映画本編を観て、あーこれかー!と発見するのに弱い。
写真スタジオの方がジョーに、「人は写真に善き瞬間をおさめたがる」と言っていた。両側で泣きそうな顔をしている両親と真ん中でいやにしっかりした顔のジョーという並びがとても良かった。
余韻がたまらない。

ポール・ダノ監督、とてもこれが初めてだとは思えない。演出がうまかった。これからも様々な作品を撮ってもらいたい。もっと観たいです。

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