『グランド・ブダペスト・ホテル』


ウェス・アンダーソン監督作品。前作の『ムーンライズ・キングダム』は、ブルース・ウィリスやティルダ・スウィントンは良かったし、家の中の撮り方も良かったけど、お洒落映画でしかないかなという感想だった。そのため、今回もかまえてしまっていたけれど、すごく面白かった。
やはり、撮り方などはお洒落なんですが、それだけでなく、話の構造が好きでした。

以下、ネタバレです。





タイトルが『グランド・ブダペスト・ホテル』だったこともあり、グランド・ホテル方式だと勘違いしていた。その思い込みのせいか、予告だけ観た感じだと、ホテル内のシーンが多く感じていたのだ。とりあえず、グスタフ.Hの囚人服姿は出てこない。ほとんど、コンシェルジュの格好だったように思う。
ウェス・アンダーソンファミリー総出演というか、過去作に出た豪華俳優が多数集められているようだったので、彼らが全部お客様で、ホテル内での群像劇なのかと思っていたのだ。群像劇は好きだけれど、有名俳優を集めた群像劇はありきたりといえばありきたりだし…と思っていたら、まったく違った。

主役はホテルのコンシェルジュのグスタフ.Hとロビーボーイのゼロの二人だった。脇役を全部有名人が固めるという、贅沢な俳優さんの使い方をしている。
それで、ホテル内には留まらない。ほぼホテル内にはいない。元気に外へ飛び出して、大冒険を繰り広げる。なんとなく閉じこもり系の話を想像していたので、これは痛快だった。

グスタフ.Hが仲間と脱獄を企てるシーンですが、ありあわせ脱獄道具やその方法がちょっと工作っぽくて、このアイデアと手作り感満載な感じがまさにウェス・アンダーソンの映画を表しているのかなと思った。

シンメトリーが多かったり、どこで一時停止しても絵になるのはいつもの通り。また、床の変わった模様を真上から映し、カメラをぐるっとそのまま縦に移動させてバルコニーを映すとか、従業員たちが食事しているテーブルからカメラを横に移動させると、コンシェルジュがお知らせを言う演説台みたいなのがあるとか、カメラの動きと合わせても細部まで計算されていた。どのシーンも手抜きせずにしっかり作られているので、観ていて本当に楽しいし、二度目に観て字幕を読んだりしなければ、もっと細かい部分にも気づけそう。
ケーキ一つとってみても、あのマカロンが積み上がったみたいなのはなんなんだろう。可愛かった。

また、全体的に忙しい感じの音楽もよく合っていたけれど、一番気に入ったのは、教会で賛美歌を歌うシーン。もともとのBGMに賛美歌が自然な感じで乗る。流れを止めないという手法がお見事。耳でも楽しませようというのが感じられた。

それでも、音楽がいいとか、シンメトリーとか、可愛いとか、色がきれいとかはいままでのウェス・アンダーソンの作風通りで、はっきりいって、当たり前だったりする。私が今回一番この映画が好きだと思った点は、映画の構造です。

映画は文学少女が作家の墓参りに来るシーンから始まる。
画面が切り替わるとその作家が喋っている。どうやら、『グランド・ブダペスト・ホテル』の作者らしい(ここの孫らしき子供との一連のやりとりで、もうこの映画おもしろいに違いないと思った)。
また、画面が切り替わると、廃れたホテルで若かりし日の作家がホテルのオーナーらしき人物に話を聞く事になる。
そして、また画面が切り替わって、栄えていた頃のグランド・ブダペスト・ホテルへ。この映画の本編ともいえるものにここで突入する。
このような四重構造になっているとは全く知らなかったので驚いた。これも、予告を観ただけではわからない。

本編は登場人物も多いし、わりとチャカチャカした感じなのだが、うわーっと駆け抜けたあとで、廃れてしまったホテルに舞台が戻って、この冒険譚は廃れたホテル内で静かに語られていたのだと思い出す。語っていたのがロビーボーイのゼロだというのも途中でわかる。
そして、作家はこの話を一冊の本にまとめる。
そして、作家が亡くなった今、文学少女が墓参りに訪れ、墓の横でその本を開く。

この終わり方がもう完璧だと思った。文学少女は作家に想いを馳せ、作家は在りし日のホテルに想いを馳せ、ゼロはグスタフ.Hやアガサに想いを馳せる。
亡くなってしまった人、無くなってしまったもの、いまここにはないものに想いを馳せる時に、たぶん優しい気持ちになっている。
本編が多少慌ただしかっただけに、このセンチメンタルなラストがいきてくる。

あと、作家の墓に無数の鍵がかけてあるんですが、本の中でまさにキーアイテムとして鍵が出てくるので、そうしたら作家のファンはお墓を巡礼するとき、当然鍵を持っていくよなあと思った。ファン心理もよくわかっている。

この映画の構造は、劇中に出てくるお菓子のようだと思った。
箱に入ってリボンがかけられているんですが、リボンを解くと、箱の側面が四方に開いてカラフルで可愛らしいお菓子が顔を出す。お菓子はホテルやグスタフ.Hとゼロの冒険譚であり、箱やリボンがそれを語り継いだり、読んで楽しんだりする優しい想い。
静かなラストは、お菓子をきれいにラッピングしているようだった。

この想いの馳せ方に感動していたら、エンドロールの端っこのほうでコサックダンスを踊る謎のロシアおじさんを見ていても泣きそうになってしまった。もう充分楽しませてもらったのに、サービス精神が旺盛すぎる。

出演者についてですが、ティルダ・スウィントンが『スノーピアサー』を思い出すようなキワモノだった。おばあさん役。ティルダ様といえば、年齢のわりに老いてなかったり、性別すらもあやふやな『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』みたいな人外っぽい役が多かったけれど、最近は違う意味で人外になってきた。

エイドリアン・ブロディとウィレム・デフォーという顔に特徴がある二人が追って来るの怖かった。あと、しっかりした服装をしてるマチュー・アマルリックかっこいい。立派なおヒゲできっちりしてたエドワード・ノートンもいい。

豪華俳優が大人数揃えられていて、それが次々に出てくるので、出てくるたびに小さな驚きがあって、それだけでも単純に楽しかった。
 

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