『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』



ヘレン・ミレン主演。軍服のヘレン・ミレンが珍しい。
他、アラン・リックマンやアーロン・ポール、『キャプテン・フィリップス』のソマリア海賊役でアカデミー助演男優賞にもノミネートされたバーカッド・アブディなど。

監督は『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』のギャヴィン・フッド。

無人ドローンによる攻撃全般について描かれているのかと思っていたが、一つの事象について濃く描かれている。

以下、ネタバレです。










無人ドローンによる“空からの目”によって、テロリストが発見される。彼らは自爆テロを計画していることもわかり、それを空中から爆撃することにより、仕留める…という計画の遂行について、ほぼリアルタイムで描かれる。

こう書くと簡単そうな計画と思われるかもしれないけれど、対象がイギリス人とアメリカ人のため、様々な場所から許可がおりないと攻撃に移せない。
現場があって、攻撃のボタンを押すドローンの操縦士がいて、計画を統括する大佐がいて、その周囲に何重にも人物が控えている。たらい回し具合はまさにお役所という感じだった。
また、そんなものかもしれないけれど、枠の外の外側にいる上層部は他人事とまでは思っていなくても呑気だなーと思わざるをえなかった。

また、関わる人が多くなればなるほど、いろんな意見が出てきて簡単には事は進まなくなってくる。
監視に気づかれていないからすぐに逃げ出す事はなくても、現場が待っていてくれるはずもなく、刻々と自爆テロに向かって準備が進んで行く。

現場を含めて、各基地や他国を訪問している外相の様子など、すべてを見られるのは観客だけで、把握できているだけに観ながらイライラが募ってしまった。それだけに、他人事ながらも、「テロ行為に手を染めたアメリカ国民に市民権などない(からやっちまえ)」と言い放ったアメリカの外相にはスカッとした。けれど、何事もなかったようにすぐに卓球に戻って行ったので、あまり深く考えてない感じもする。

ただ、ここまでが遅々として進まなかったせいで、テロ犯がいる建物の外、すぐ近くで少女がパンを売り始めて、事態は余計に複雑になってしまう。

今爆撃しなかった場合、自爆テロでの死者は80名と推定されると言っていた。1人の少女と80名の死者。数だけで言ったらそれは爆撃したほうがいいだろう。80名の中には子供も含まれるかもしれない。けれど、80名死ぬだろうというのは予測だ。なんらかの何かがあって、自爆テロは行われないかもしれない。また、爆撃した場合に少女が被害を受ける確率も出していた。高い確率だったが、死亡しない可能性もある。しかし、重症を負うだろう。

爆撃を行えば少女は確実に重症を負う、最悪死去する。しかし、この先起こるであろう自爆テロは防げるし、ずっと追ってきたテロ犯も殺害できる。

映画の中の人たちも必死に考えていたけれど、私も何が正解なのかわからなかった。“世界一安全な戦場”というサブタイトルがついているけれど、少なくとも操縦士と大佐は真剣に考えていた。別に遠く離れてるからって、モニターの中の戦場を他人事などと思っていないし、ゲーム感覚でもなかった。

特に、実際にボタンを押して手をくだす操縦士は、精神的な負担がかかっていそうだった。二人とも若かったし、経験もないと言っていた。その前に少女が遊んでいる姿を見ている。

映画の中の人々も、映画を観ている私たちも、パン売れろパンはやく売り切れろという気持ちで一致団結していた。
けれど、ようやく売り切れ、片付けている最中でミサイルが家を直撃し、少女が吹き飛ばされる。

これが最良の策だったとは思うのだ。少女がいるのに爆弾を落とすなんて許せない!とは一概に言えない。でも、これで良かったのかどうかはわからない。
もっと頭のいい人が考えたら、何かもっといい案が出てくるのだろうか。
プロパガンダの話も考えさせられた。実際に自爆テロが起こって、その後で攻撃をしたら賞賛される。けれど、少女が巻き込まれたことがどこかから漏れたら、攻撃をした側が非難の対象になる。映像は絶対に漏洩させてはならない。

普通、このように緊迫感が続く作品で、任務が無事に完了したら、イエーイ!とハイタッチでもするだろう。カタルシスがおとずれるものだ。
しかし、この作品にはそんな瞬間はない。これしかなかったとは言え、任務が完了しても重苦しいままだ。
後味が悪いというのはまた違うが、重さは残る。映画を観ていた人が全員下を向いて考えてしまう。

笑顔の一つもない。それどころか、操縦士の二人は涙を流していた。実際のドローン操縦士も、自分に直接被害がおよぶことはなくても、極度のストレスでやめていく人が多いらしい。
この映画でも、少女がいるから、と一度ストップをかけたのは彼らだ。しかし、結局上からの命令には逆らえないし、自分たちだって、このままテロリストを野放しにするのもどうかとも思っただろう。仕方ない。けれど、最初の実務がこれでは、この先どうなっていくのだろう。

結局、少女は病院で息をひきとる。映画を観ている私たちは知っても、ドローン操縦士たちにこれを知らせないのは良心だろう。もちろん、映画になってない部分で彼らは知るかもしれないけれど。
息をひきとるシーンと、少女がフラフープで遊んでいるシーンをエンドロールで流すということは、監督自身もこれで良かったとは思っていないのだろう。
けれど、どうしたら良かったのか。答えは出ない。よく考えろと言われているようだった。
パンが無事に売り切れて、少女が間一髪離れて、爆撃が起こって死ぬのはテロ犯だけでした、という映画であったら、よく考えるということもなかったかもしれない。

根本的なこと、無人ドローンで攻撃することの是非なども考えさせられた。技術力のない国からしたら卑怯だと思うかもしれない。けれど、テロ犯をそのままにしておいていいかというとそれも…。

現場で実際に動いている現地工作員役がバーカッド・アブディ。身体能力も高そうだった。本作ではなんとか被害を最小限に食い止めようといろいろ考える。彼の出る映画がもっと観てみたくなった。

ロンドンの国家緊急事態対策委員会の国防副参謀長役にアラン・リックマン、本作が実写では遺作になった。子供へのプレゼントの人形の買い方であわあわしてしまう様子が可愛かった。会議室ではキリッとしていたが、その様子を見ていただけになんとなく彼の味方になってしまう。

ロンドンの司令部の大佐役にヘレン・ミレン。脚本の段階では男性だったらしいが、監督が女性に変更したらしい。これは女性のほうが良かったと思う。なんとなく、少女のことも大切だけど、それでも!という感じが強く出ると思う。

ドローン操縦士役にアーロン・ポール。『ブレイキング・バッド』での実はいい奴な感じが今回も健在。まっすぐで青臭くて純粋。彼に合っている役。

彼らはすべて別々の場所にいるので、撮影も別々だったらしい。劇中では通信でのやりとりはあるけれど、それも相手がいない中での演技だったという。
また、アラン・リックマンやヘレン・ミレンは部屋をうろうろはするものの、基本的に現場以外の人たちは座っている。それでも、緊迫感が続くし、観ていてまったく飽きないのは彼らの演技力だろう。

また、キャスティングに関わっているのが本作のプロデューサーにも名前を連ねるコリン・ファースというのがまたすごい。
すべてがうまく噛み合っている。おもしろかった。

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