『ドント・ブリーズ』
Posted by asuka at 9:50 PM
最初、ホラーだと聞いていたけれど、いわゆるホラー映画とは違うかもしれない。監督のフェデ・アルバレス、脚本のロド・サヤゲス、プロデューサーのサム・ライミ、出演のジェーン・レヴィと、主要メンバーが2013年の『死霊のはらわた』と同じとなっている。
以下、ネタバレです。
最初のあらすじとして、若者たちが盲目の老人の家に強盗に入ったが、老人に襲われて家から出られなくなるというのを知っていた。だから、いきなり強盗に入る場面から始まって、舞台はずっと家の中なのかなと思っていたら、プロローグ的なものが少しあった。
本来だったら、強盗をする若者というのはホラー映画でいうイチャつくカップルと同じで襲われて当然の存在である。ホラー映画と同様、殺されて当然の若者たちが次々に殺されていくのを見る映画なのかと思っていた。
しかし、プロローグで示されるのは若者たちの境遇である。彼らが住むのは経済破綻したデトロイト。特に、ローリーという女性について詳しく描かれるのだが、典型的な貧困家庭であり、母は家に男を連れ込んでいる。彼女はお金をためて、妹と一緒にこの家を出たいと思っている。
もちろん、強盗は悪いことである。しかし、境遇が示されることで、仕方ないかな…という気持ちにもなるし、映画を観る側が彼女たちの味方になる。強盗が成功するように応援してしまうのだ。
つまり、強盗をする側が善、盲目の老人が悪である。
ただ、盲目の老人にも事情があって、盲目になった原因は戦争だし、家にある金は交通事故で亡くした娘の示談金である。
そうなると単純に強盗頑張れという気にもなれない。
映画の本題は、盲目の老人の家から金を盗み出し、無事に生きて帰ることができるかというものである。ゲームのミッションといってもいい。ただ、それは単純なものではなく、盗む側、盗まれる側にそれぞれ事情があり、最初に示されるのがおもしろい。
そして、盲目の老人なんて楽勝だろうとも思うけれど、退役軍人なので鍛えられた体を持っているし、銃器の扱いも慣れている。家にある示談金はそのまま大切な娘のような存在に置き換わっているから、二度も娘を失うわけにはいかないと躍起になっている。
更に、強盗の若者の一人が銃を持ち込んだために、正当防衛として殺されても仕方のない状況を作ってしまった。
しかも、老人は凶暴な犬を飼っていて、老人の目の代わりになるくらい懐いている。
単純に、無事に逃げ出せるかな?というところとは離れてきている。その複雑さがおもしろい。
ゲーム開始前、ルール説明の締めくくりとして、家の中をなめるように撮るのもおもしろかった。こんなところが舞台になりますよとちゃんと見せてくれた。
最初、決して広くない家の中での鬼ごっことなると、影からバンッ!という大きな音とともに鬼が出てくるびっくり演出が多いのではないかと思った。椅子に座りながらもビクッとしてしまうし、苦手だったのだけれど、意外にもその描写は少なかった。
なぜかというと、鬼は盲目だから、遭遇=死ではないのだ。遭遇をしても、気づかれなければ大丈夫。むしろ、見える場所やすぐ近くに鬼がいる、そこからバレるか逃げられるかのスリルが楽しかった。
強盗を善、盲目の老人を悪として描くのだろうと思っていたし、そのつもりで見ていたけれど、何度か選択をせまられる場面がある。まずい家に入り込んでしまったことがわかって、金は置いて逃げたほうがいいのではないかという序盤の場面、警察に電話したほうがいいのではないかという場面。両方とも、金をあきらめることをせまられるのだが、結局、どちらでも金をとってしまう。
これでは、若者側が悪になってしまうのではないか。
しかし中盤で、老人が娘の交通事故に関連した若い女性を地下で監禁していることが発覚し、終盤にはその目的が亡くした娘の代わりに新たな子供を授かることだったとわかる。こうなると、どちらが悪だかわからなくなる。
結局金を盗み出して家から脱出、女性は妹とデトロイトを出るという目的を果たし、ミッションコンプリートと思われたが、テレビのニュース番組では女性が悪者になっている。当たり前だ。盲目の老人の家に押し入って、交通事故で亡くした娘の示談金を奪ったのである。報道されれば悪いのは強盗のほうだ。
ただ、中盤から後半で老人側の罪が出てきてしまったので、これについてはどうなったのだろう。警察が来たのだから、地下室の存在がわかったと思うし、そこでしていたこともわかるのではないだろうか。しかし、報道をされている雰囲気はなかった。
娘を愛していたが故の行動ということなのかもしれないけれど、老人のほうも悪いやつだったという描写は無くても良かったような気もする。
しかも、盲目老人のほうは生きていたのが後味が悪い。大切な意味のこもったお金をとられたのだから、どこまでも追い詰めそうな気がする。けれど、盲目ゆえに、家の外には出るのは困難なのではないかとも思う。
まだ、アナウンスがあっただけのようだが、同じ監督で『ドント・ブリーズ2』の企画は立ち上がっているらしい。今回の話の続きなのか、それとも舞台を変えて同じような条件でやるのか気になる。
calendar
ver0.2 by バッド
about
- asuka
- 映画中心に感想。Twitterで書いたことのまとめです。 旧作についてはネタバレ考慮していませんのでお気をつけ下さい。
Popular posts
-
アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、歌曲賞ノミネート、脚色賞受賞。その他の様々な賞にノミネートされていました。 以下、ネタバレです。 北イタリアの別荘に夏の間訪れている家族の元に、一人の青年が訪れる。家族の父親が教授で、その青年は教え子である。 まず舞台の北イタリアの夏の風景が素晴...
-
ウェス・アンダーソン監督作品。前作の『ムーンライズ・キングダム』は、ブルース・ウィリスやティルダ・スウィントンは良かったし、家の中の撮り方も良かったけど、お洒落映画でしかないかなという感想だった。そのため、今回もかまえてしまっていたけれど、すごく面白かった。 やはり、撮り方な...
-
いわゆるロードショー公開はされない注目作を上映するのむコレ2018にて上映。 今年公開された映画らしい。 あまり内容を調べずに観たので、タイトルと、主演が『ゲーム・オブ・スローンズ』のラムジー役でお馴染み、ウェールズ出身のイワン・リオンだったため、RAFのイギリス部隊の話かと思っ...
-
試写会にて。わかったことと、わからないこと。 以下、ネタバレです。 クーパーがどうやって助けられたのかがよくわからなかったんですが、あの時のアメリアの顔は幻じゃなかった。映画の序盤でワームホールを通る時に、アメリアが“彼ら”の姿を見てハンドシェイクをする。結局“彼...
-
ドルビーアトモスで観たんですが、席が前方だったせいもあるかもしれないけれど、あまり音の良さはよくわからなかった。前回がIMAXだったからかもしれない。 IMAXと同じく、最初のプロモーション映像みたいなのはすごかった。葉っぱが右から左へ。 以下、二回目で思ったことをちょこ...
-
2013年公開。あんまり評価がよくなかったので映画館へは行かなかったんですが、ハリー・トレッダウェイが出ているということで観てみたらおもしろかった! 映画館で観れば良かった。 149分と多少長く、長いわりにエピソードが細切れでまとまってない印象はあったけれど、これも劇場で観ていれ...
-
ほぼ半月あけて後編が公開。(前編の感想は こちら ) 以下、ネタバレです。 流れ自体は前編と同じ。ジョーがこれまであったことを話し、それに対して、セリグマン(今回はちゃんと名前が出てきた。ステラン・スカルガルドが演じている男性)が素っ頓狂なあいづちをうつ、と...
-
IMAXレーザーというと109シネマズ大阪エキスポシティのものが有名ですが、このたび109シネマズ川崎と名古屋にも導入された。そのプレオープンで『ダンケルク』の上映があったので行ってきました。 ただし、大阪のレーザーはGTテクノロジー(旧次世代レーザー)という名称で、スクリーンの...
-
新宿シネマカリテにて、毎年行われているちょっと変わった作品を集めた映画祭カリコレにて上映。 ステファン・ダン監督初長編作品。カナダ出身なのと、同性愛もの、家族もの、音楽がふんだんに取り入れられたスタイリッシュな映像…ということこで、第二のグザヴィエ・ドランというふれこみの...
-
2000年公開。曲や映像づくりなど、とてもダニー・ ボイルらしい映画だった。 幻のビーチに辿り着くまでの話なのかと思っていたけれど、 かなり序盤でビーチには辿り着いてしまう。 そこから物語が展開していくということは、 ビーチがただの天国ではなかったということ。 一人旅の若者が...
Powered by Blogger.
Powered by WordPress
©
Holy cow! - Designed by Matt, Blogger templates by Blog and Web.
Powered by Blogger.
Powered by Blogger.
0 comments: