『五日物語 -3つの王国と3人の女-』



イタリアのジャンバティスタ・バジーレが400年前に書いた『ペンタローネ』という民話集が元になっている。『白雪姫』や『シンデレラ』などの原型となる話が収められているらしい。
タイトルを見る限り、本作はこの民話集の中から三編を取り出したものだと思われる。

『本当は怖いグリム童話』のような感じで、民話/童話とはいえ子供向けというよりは、その裏にぞっとするような要素が見えたり、エロやグロも描かれている大人向けである。
『笑ゥせぇるすまん』的な感じで、無茶なものも含め、願いが叶えられるがその代償が支払われるといったストーリー。

監督は『ゴモラ』『リアリティー』でカンヌで賞を獲っているマッテオ・ガローネ。
初の英語作品とのこと。

以下、ネタバレです。







三編の話からなっているがその一編目。
王と王妃が並んで座っている前で道化が芸を披露している。王や周りの侍女らしき人たちは爆笑しているけれど、王妃は眉間に皺を寄せてニコリともしない。
演じているのがサルマ・ハエック。エキゾチックな美女だけれど、ちょっと怖くもある。また、赤いドレスを着ているせいか、威圧感がある。

原作が400年前のものとは知らなかったが、ドレスの型は『エリザベス:ゴールデン・エイジ』のようなエリマキトカゲのような襟なので、時代は昔なのだろうなというのが推測できた。

どうやら王妃は子供を求めているらしい。そこで黒いフードを被った、いかにも怪しい長身の男に助けを求める。
もう見た目からして悪魔っぽいし、言うことを聞いたら不幸になる感じがぷんぷんする。それと同時に、この世界観がたまらないとも思ってしまう。

そして、王(ジョン・C・ライリー)が昔っぽい潜水服で水の中へ入っていく。まるで宇宙服のようなとても水には浮かなそうなごつごつした形の服だった。
そして、私は字幕をあんまりよく読んでなかったのか、“鯨の心臓”と言ったと思ったのだが、実際にはバカでかく凶暴そうな山椒魚のような、なんだかわからない生き物が出てきてギョッとした。そこで初めて、ああこれ、現実の話じゃないのか…と思った。

王は結局この生き物のせいで亡くなるのだけれど、王妃は王には目もくれずに、謎生き物の心臓を一目散で持ち帰り、貪り食う。
口の周りを血で真っ赤に染めて、でもとにかく夢中で食べ続ける王妃に狂気を感じた。でも、グロテスクなのと同時に綺麗だとも思った。

無事に懐妊をしたけれど、1日で産まれたみたいだし、心臓を料理した召使いの生娘の腹もみるみる大きくなっていっていた。そこで、これはなんでもありの話なのだなというのがわかった。魔法の類が存在するファンタジーの世界だった。

ああ、これは生まれた子供が邪悪なパターンかな…と思ったけれど、とてもいい子だった。けれど、髪の毛も真っ白で肌も透き通るくらい白く、どっちの方面なのかはわからないけれど特別な存在であることだけはわかった。目立つ。そして、王妃と同時に妊娠をした召使いの子供もまったく同じ姿だった。
特別な存在がもう一人。うりふたつ。そのヴィジュアルだけでも最高である。
CGではなく、実際の双子が演じているというのも良い。

生まれた王子は自分と同じ姿の男の子を兄弟同然に思って、一緒に遊んでいるし、大事に思っている。
けれど、王妃はあんな目をして授かったのだから、独占したい。当然、召使いの子と遊んでいるのは気に食わない。

そこで、王妃はもう一度最初の悪魔を頼る。王妃は化け物に変身をして、その姿を母親と認識しない息子に殺される。でも、結局、王妃としてはこれが一番幸せなのかもしれない。
この化け物が絡新婦に似ていたのだが、外国にもこのような妖怪が存在するのだろうか。女性の嫉妬が募って化け物になったものが蜘蛛の姿というのは世界共通なのだろうか。

二編目は国が変わり、王がトビー・ジョーンズである。トビー・ジョーンズは特徴的な顔をしているけれど、その娘役のベベ・ケーブさんはほのかに似ている顔だった。娘と言われて納得の顔だった。

娘は素直にすくすく育っているが、王はちょっと変わり者のようだった。娘である姫がバイオリンでお父様あての曲を演奏しても、彼は手の上のノミに夢中。また、鳴き声なのか動くときの音なのか、キュルキュルキュルといった音が加えられていて、映画の中でも可愛いもののように描かれていた。
ペット同然に可愛がり始め、どんどん大きくなっていき、最後には豚くらいの大きさにまで育っていた。最初、なんだか全然わからなかったけれど、足が節足動物のそれだったので、さっき出てきたノミだとわかり驚いた。
ルイ16世が錠前づくりが趣味でマリー・アントワネットに呆れられるというのがよく描かれるが、それを思い出してしまった。よく言えば趣味人。
だけれども、娘よりもノミのほうを大切にするのはどうかと思う。

姫は夢見る少女というか、いつか出会える王子様に憧れている。けれど、王は真剣にはとりあわず、適当な約束をしたために、王子様とは程遠い、野生児のような、熊のような男性にもらわれていってしまう。

体つきもまったく違う。姫はまだまだ少女である。大柄で筋肉質の男性に背負われ、崖を登っていく様子はなんとも言えない、不思議な光景だった。姫が水色のドレスを着ているのも風景と合っていない。半ば誘拐のような形だし、崖の上に連れて行かれては、一人では逃げられない。

こんなナリでも実は優しいというオチかと思った。優しいことは優しいようだったけれど、彼女の望んでいた暮らしではないし、憧れの王子様でもない。

ある日、救助を求める機会が訪れる。旅芸人一座のような一家で、綱渡りによって姫が助け出された。助けてくれたのはお金などはなさそうだけれど、優しそうだし恰好もいい。
なるほど、ここで助けられるために一旦オニにさらわせたのか。運命の出会いのための伏線だったか。

と思っていたが、そんなに甘い話ではなかった。
ここからがまるで悪夢のようだった。オニは追いかけてきて、一家は無残にも惨殺されてしまう。ハッピーエンドなどない。

姫は悟ったような感じに表情を消す。もう戻るしかないと思ったのか、服従することに決めたのか、オニに後ろから抱きついた。と思ったら、首をナイフで切りつけた。

姫は自力で城へ戻る。ずっとドレスのままだったので、泥だらけの血だらけである。水色の可愛らしいドレスが台無しだ。でも、このいかにも少女らしい色合いが泥や血で汚されることで、少女からの卒業を意味しているのかもしれないと思った。
おまけに、手にはオニの首である。

姫も少女から大人になったが、王も反省(では済まされないけれど)をして成長したと思う。

三編目は老女の姉妹が主人公である。
この国は王が好色で、それを演じるヴァンサン・カッセルがとてもよく合っている。

王が綺麗な歌声を聴いて女性を好きになってしまうけれど、実は老女で家に姿を隠してしまう。そうとは知らぬ王は家のドアごしに口説きにくる。

この家には老女が二人住んでいるんですが、王に歌声を見初められたのが姉、そして、声の可愛らしい妹はシャーリー・ヘンダーソンでなるほどと思った。特殊メイクなので、顔ではわかりにくいけれど、声はそのままなのでよくわかる。

王に執拗に口説かれて、これをチャンスだと思った姉は、行為中は明かりを消してもらうことを条件に城へ出かけていく。嫌な予感はしたけれど、まあ、当然明かりをつけますよね。それで、実際は老女というのがバレてしまい、窓から放り出される。容赦ない。

裸のまま、王のベッドの赤い布に包まれて森の木々に引っかかっている様子はあからさまに無様に見えた。

しかし、そこを通りかかった女性が木から下ろしてあげて、泣きじゃくる老女を慰めて去っていくと、老女は見事に美女に若返った。
あの通りかかった女性は誰だったのか説明も何もなかったが、魔女か何かだったのかな。ここで、そういえばこの話はなんでもありだったのだと思い出した。

若返って美女になると、王のベッドの赤い布も高級感が増す。苔むした岩の緑色とのコントラストも素晴らしい。赤く長い髪も美しい。無様さのかけらもない。
そこへ王が通りかかって見初める。一気に王妃である。

わけがわからないまま、妹の元にドレスが届き、婚礼に出席することになる。ドレスは立派でも、髪型はそのままだし、着慣れていないのがよくわかる感じに襟も曲がっている。みすぼらしい。老女だからではなく、わきまえてなさがよくわかってしまう。

城に入るのももちろん初めて。美味しい料理も初めて。一度天国を見てしまったら、元の生活へは戻れないだろう。ましてや今まで一緒に暮らしていた姉が、なぜか若返って王妃になったのだ。なぜ自分だけがこんな姿なのかと嫉妬もするし納得がいかない気持ちはよくわかる。

この城に私も住みたい、どうしたら若返ることができるのかとしつこく聞く妹に、姉は面倒になったか、「皮を剥ぐのよ」と言って城から追い出す。
たぶん、妹としてはこの時点で、あの美しい姿になれるならなんでもするという気持ちになってしまっているので、皮を剥ぐという通常では考えられない選択肢が頭の中を占拠してしまったのだろう。

婚礼に出たドレスそのまま、つけていたアクセサリーなど金品類を与えて皮を剥いでもらう。もちろん若返るはずもない。この話でもドレスが血まみれになった。

一編目では王子が母を乗り越えることで成長し、二編目では姫と王が成長したと思う。けれど、この話だけは誰も成長しない。
姉も元の姿へ戻る。たぶん、王も好色のままだろう。

水に入って謎生物を仕留めた王の葬式シーンは序盤なのだが、その時にこの三国の王や姫が一同に会していた。
そしてラスト、二編目の姫の戴冠式の際も集まっていた。それぞれの話につながりはないが、世界は地続きだというのがわかる。

王の葬式の際にはまだ一編目の王子は赤ん坊だったし、二編目の姫も子供だった。しかし、戴冠式では姫は王女の威厳をたたえていた。ちゃんと強くなっている。素晴らしい演技だと思う。

綱渡りの芸人がお祝いに来ていて、おそらく姫はあの時助けてもらった彼や一連のことを思い出したのではないだろうか。でも泣いたりはしない。ちゃんと威厳を保っていた。

そして、王子と視線を交わしていたのもおもしろい。ああ、あなたもいろいろあったのねという顔にも見えた。

三編とも話自体も面白いが、衣装や色合いが素晴らしく贅沢で見ていてうっとりしてしまう。
監督は元画家らしく、納得のセンスである。監督の他の映画もこんなに美麗なのか気になるので見てみたい。

衣装はMassimo Cantini Parrini。ガブリエラ・ペスクッチとともに『チャーリーとチョコレート工場』や『ブラザーズ・グリム』、『ヴァン・ヘルシング』に参加していたようだ。

叙情的な音楽はおなじみ、アレクサンドル・デスプラだった。この音楽がまたよく合っていた。物悲しくも、美しい。
本作ではフルートも演奏していたようだ。

公式サイトにロケ地の紹介が載っていて驚いた。不思議生物が出てくるし、ファンタジーならばなんとなくCGだと思っていたが、あの森も、あの渓谷も、あの城も実在するとは。
まさにヨーロッパ!という風景はすべてイタリアらしい。
あの不思議生き物すら生息してそうな気がしてくる。

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