『海賊じいちゃんの贈りもの』



原題『What We did on our Holiday』。原題とはだいぶ違うけれど、そのまま訳して“僕らが休日にしたこと”では地味だし、そのまま英語のタイトルにもしにくい。ただ、“贈りもの”なんていう言葉からイメージされるような、優しいものとは少し印象が違った。
あと、海賊というとパイレーツかと思ったけれど、ヴァイキングのほうでした。

以下、ネタバレです。








離婚寸前の仲の悪い夫婦がなんらかの理由で里帰りし、そこにいる“じいちゃん”から助言をもらうか、もしくは亡くなるかして、こんな小さなことで言い争っててもね…というように仲直りし、めでたしめでたしというようなストーリーを想像していた。けれども、そんな甘い話ではなかった。

じいちゃんの誕生日会のために帰省したはいいけれど、そこで自分の兄弟に久々に会ってもめている様子は、なんとなく『8月の家族たち』を思い出した。ただ、あそこまでは殺伐としていない。それに、じいちゃん自身は自分で死が近いことを知っているから、なんとなくその言い争いすら愛おしく見守っていて、自分が争いの中に積極的に関わったりはしない。
ただ、頑固ではある。自分はもう長くないことが自分でわかっている。おそらく調子も悪い。けれど、そのことで弱気になって、息子に相談したりはしない。

そんな中で孫たち三人を連れて海へ遊びに行き、事件が起こる。

海へ行く途中で会ったおばあちゃんが素敵だった。多分、じいちゃんは息子たちよりもこのおばあちゃんに心を許している。じいちゃんは子供たちに「この人はガールフレンドとね…」と口を滑らす。当然、「れずびあんってなーにー?」みたいなことになり、おばあちゃんは「私はレズビア国の〜」みたいなことを言って誤魔化す。
こういう話題をさらっと混ぜてくるあたりが、さすがイギリス(スコットランド)というかBBC Filmというか。

子供たちにとってはそんな話を聞くのも新鮮で、車を運転させてもらうのも新鮮。普段、両親が言い争うさまを聞いていることを考えると、何倍も楽しいだろう。海辺というシチュエーションも開放的である。
そこで、具合の悪かったじいちゃんが亡くなってしまう。

最初はもちろん、大人を呼びに行こうということになるが、結局戻っても、いつものように喧嘩をしていて、そうしたら当然、頼りにできないと思う。
結局は、今までもこの繰り返しだったのだと思う。信用されていない親というのはどうなのだろう。

そこで、じいちゃんはヴァイキングだったようだし、ヴァイキング方式で、自分たち(子供たち)だけで弔おうとする。
姉弟妹の三兄弟の真ん中の男の子は元々ヴァイキング好きなので、アイディアを出し、三人は流木を使って舟ならぬいかだを作り、じいちゃんを乗せ、海に放って火をつける。舟葬と水葬が一緒になったようなもので、男の子はあとになって、あの方法が正しかったのかわからないと言っていたけれど、調べてみると、ゲルマン人のヴァイキングがその方法で間違いないようです。

子供たちがせっせと筏を作って弔う準備をしていて、同じ時間に何も知らない大人たちはすでに亡くなってるじいちゃんの誕生日会の準備をしているという、その対比が皮肉だけれどおもしろかった。そして、じいちゃん自身も、呼んで欲しくない人もいたみたいだし、誕生会は望んでなかったのかもしれないと思うと、大人たちが滑稽に見えた。
対する子供たちは、夏特有の冒険というか、きらきらしていた。自作した筏も、漁師が使うロープを拾って作ったのでカラフル。

カラフルな筏に乗せられたじいちゃんが海の果てへ流れて消えて、めでたしめでたし…。というストーリーだったら、でも死体は誰にも見つからないの?とか、死体遺棄とかにならない?とか、舟の燃えた残骸はどうなるの?とか疑問ともやもやがが残ってしまうところだった。

この、瑞々しさすらあるファンタジーやおとぎ話のままでは終わらせない。
ちゃんと警察やマスコミが来て、子供の視点から一気に現実的な大人の視点に変化する。海岸は捜査されるし、マスコミは家の前に群がって家庭内の不和も嗅ぎ付ける。

ラストだって和やかではあるけれど、夫婦は完全には仲直りせずに、別居は解消されない。それでも、事態は少しは良くなって、未来は明るいのかもしれないという希望も持てる。このように、示唆するくらいがちょうどいい。
視点の切り替えと、話が急に動き出す様子が特殊だと思った。

ずっと喧嘩をしている夫婦を演じているのがロザムンド・パイクとデヴィッド・テナント。おそらく、ロザムンド・パイクが『ゴーン・ガール』でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたことで日本公開が決まったのではないかと思われる。
私の中ではデヴィッド・テナントといえば代表作はどう考えても『ドクター・フー』だけれど、この映画のポスターのテナント名前の上には『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』と書いてあり、日本での知名度の低さに驚いた。
実際、映画館にもテナント好きと思われる若い女性はあまりいなかったのもショックだった。もう少し人気があるものだと思っていた。

デヴィッド・テナントはドクター以外だと、精神疾患を抱えていたり、過去に何か悪いことが起こっていたりと、どこか影のある役が多い。
けれど今回は、普通のお父さん役である。少しだめな父親ではあるけれど、完璧ではないあたりが人間臭く、こんな役もできるのだと感心した。

ドクターは温厚というか、物事を達観していて、比較的冷静に対処する場合が多かった。けれど、今回は「浮気相手の名前はウォレスよ!」「グルミットもいるのか!?」などという、くだらなすぎて、他人事なら笑いすらもれる言い争いをする場面も見られる。

ちなみに、劇中でのじいちゃんの誕生日会で、お兄さんはスコットランドの正装であるキルトスカートだったけれど、テナントは普通のスーツでした。ロンドンで長く暮らしているという役柄だったからだろうか。この映画のプレミアにはキルトスカート着用で出席したようです。


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