『マジック・マイク XXL』



2012年の『マジック・マイク』の続編ではあるけれど、監督はスティーヴン・ソダーバーグから、グレゴリー・ジェイコブズに変更。グレゴリー・ジェイコブズは、ソダーバーグ監督の製作を主につとめている方で、ソダーバーグ・ファミリーだったようです。
けれど、作品の雰囲気は前作とはがらりと変わった。前作は男性ストリッパーの映画と聞いて想像したものとは違ったんですが、今回はそうそうこれこれといった風にしっくりくる内容となっている。
映画としての完成度は前作のほうが高いかもしれないけれど、楽しさや観た後での元気が出る感じはこちらのほうが上だし、なかなかこのような映画はないと思う。

以下、ネタバレです。








前作は主人公のマイク(チャニング・テイタム)がつらそうだった。そりゃあ、男性ストリッパーは楽な仕事ではないと思う。夢もあって、似合わないスーツを着て営業をしている様子も見ていられなかった。踊っているときにも、眉間に皺を寄せて、悲壮感が漂っていて、もうそんなことならやめたらいいんじゃないかとすら思った。

今作も、序盤で一人きりの従業員から、「保険に入らせてほしい」と言われたマイクが、そんな金もなく悩むシーンがあり、今回もこんな路線なのかなと思った。しかし、その従業員を帰らせたあと、一人で作業をしていたところで、ラジオから懐かしのナンバーが流れ出し、ドリルなどを使いながら踊り出してしまう。そこからは、踊ることが好きでしかたがないという感情が溢れ出ているし、その姿を見ているとこちらもわくわくしてくる。
本当に観たかったのはこれなのだと思った。

結局、マイクは前に働いた店の仲間と久しぶりに会って、大会に出るべく旅に出る。
今回、マシュー・マコノヒーが演じていたダラスは出ないんですが、それも良い方向に働いていたような気がする。彼らを抑圧していたのはダラスで、上司的な存在であるダラスがいないからこそ、彼らが思う存分好きなことができ、はっちゃけられたのではないかとすら思えてしまう。
それくらい、マイクはもちろん、他の仲間たちも楽しそうだし、今回のほうがキャラクターがたっているし、何より、全員のことが好きになった。

今回、要はロードムービーなんですね。あまりそりの合わない仲間たちがわいわいやりながら、時には失敗をして、途中で会った人たちに助けられ、旅を通じて結束が強まる。よくあると言えばよくある話だ。最後に大会に出ることからも、『リトル・ミス・サンシャイン』っぽさもある。ただ、こちらは題材が男性ストリッパーです。

旅で辿り着いた先々でステージに上がり、観客を魅了する。もちろん、ステージシーンは大迫力だ。私も会場にいるお客さんと一緒の気分になっていたらしく、きゃーきゃー言ったり、1ドル札をまけない代わりに、拳をぎゅっと握りしめていた。

常に踊っているわけではなく、旅の途中の車の中やお世話になる豪邸の中などで、お喋りのシーンも長い。動きなく、ただただ喋っているというシーンがかなりある。人によっては退屈とも思うかもしれないけれど、私は、彼らの性格が少しずつわかってくるのがおもしろかったし、このような日常パートは大好物なので満足した。
筋骨隆々の男性たちが、カメラのワンショットに入りきれるくらいの狭い場所でわいわいと雑談しているさまから、なんとなく『エクスペンダブルズ』シリーズを思い出した。『エクスペンダブルズ』のアクション以外のシーンですね。筋肉仲間たちの愉快な珍道中といった感じ。
日常パートにしても、ただ仲がいいだけではなく、ちょっともめたりすると本当に楽しい。『アベンジャーズ』などでも見られたあの感じです。

みんなで盛り上がるためにドラッグをやり、“54分後”という表示が出たあと、過剰に落ち込んだ症状が出ていたのもおもしろかった。チャニング・テイタムだけに『21ジャンプストリート』を思い出した。

コンビニの無愛想な店員を笑顔にしろというミッションを受けたリッチーのシーンも最高。バックストリート・ボーイズの『I Want It That Way』に合わせて踊る。スナック菓子をばらまき、冷蔵コーナーの水を勝手に開封して浴びる。これ、ただの迷惑な客では…と思ったし、店員さんもしらけ顔でひやひやした。そして、一曲思いっきり踊り終わると、こう聞く。「チートスと水でいくら?」。
それで店員さんもにっこり。私もにっこり。店外の仲間たちも大盛り上がり。
こんなシーンは前作にはなく、入る余地もなかった。踊る喜びと、観客の喜びを感じると、観ている私だって楽しい。

前作は退廃的な雰囲気が漂っていた。男性ストリッパーを見に来るなんて、隠れていなくてはいけないこと、いけないこと、悪ですらあるようだった。
今回も、ローマの館は会員制クラブだし、薄暗いし、退廃的ではある。でも、そこにいる女性たちは心底楽しそうだった。あっけらかんとしている。主であるローマも女性なので、女性の気持ちがよくわかっているようだった。
ローマを演じたのがジェイダ・ピンケット=スミス。私は『ゴッサム』のフィッシュ・ムーニーだ!と思ってしまったんですが、ウィル・スミスの妻なのを知らなかった。ジェイデン・スミスの母です。
彼女はフィッシュ・ムーニーのときもそうでしたが、周囲を鼓舞するのがうまい。「夫や彼氏に隠れてきている人も多いかもしれない。普段は抑圧している気持ちをここで解放しなさい!男性たちにかしずいてもらう準備はできてる?」と言っていた。その言葉に、会場の女性たちから大歓声があがる。
ローマの言葉にはフェミニズムメッセージも含まれているようだった。男性ストリッパーという特殊な職業を題材とする以上、本当だったら当然描かれなくてはならないことだ。別に話の中心に持ってくることはない。けれど、見に来ている女たちにも光がちゃんと当たっているのが嬉しい。

喜ばせて(悦ばせて)ほしい女性と、女性を楽しませたいと思う男たち。これが主題になっている。
そして、それだけではなくて、男たちも踊ることが、女たちを楽しませることに喜びを感じている。これは、途中の雑談からも察することができるし、最後の大会の準備風景から見ても明らかだった。序盤では「1ドル札の波に埋もれようぜ!」と言っていて、金のためというのもあっただろうけれど、準備の風景を見ていると、様々なアイディアを小道具に仕込んでいたし、ちゃんと練習だってしていたし、好きでなくてはできないことだと思う。本当に、ただのストリッパーではなくエンターテイナーである。

最後の大会のシーンでは最初にジーンズに上半身裸という前作でお馴染みの恰好で出てきて、それから各キャラごとのそのキャラを生かした出し物があるのが素晴らしい。全員に見せ場があって、全員のことが好きになってしまう。
これも雑談からわかることだけれど、彼らだって、人生に迷っているのだ。順調というわけではない。それでも、踊ることが好きだし、楽しませたいと思っているし、実際に会場が盛り上がっているのがなんだか泣けてしまった。

今回、マイクの相手役ではないけれど、親しくなる女性としてゾーイという子が出てくる。本当か嘘かわからないけれど、「男性には興味が無いのよ」と言っていて、それをアンバー・ハードが演じているのがいい。他の映画で観た時よりもメイクが薄く、これくらいのほうが若く見えるし好感が持てた。
最後の大会も見に来るんですが、最初に、マイクが“お?来たね”みたいな感じに素の表情で笑うのがいい。チャニング・テイタムいいです。
それで、いざマイクが踊るときにゾーイをステージに上げるんですが、もう彼女もキャラを忘れているような顔でキャー!ってなってニコニコしているのが本当に可愛い。そこまですかしている感じで、わりと無表情でつんとしていたのに。

最後に、マイクが「笑顔が戻ったね」というのもぐっときた。マイクなりにゾーイを元気づけていたのだ。そして、映画を観ている私も笑顔になっていたことから、一作目で首を傾げながら映画館を出たことに対しての答えでもあると思った。これは元気の無いときにも観たい作品になった。

細かいところで、大会にマトリックスの恰好してる人がいたけど、ジェイダ・ピンケット=スミスが出てるのと関係あるのとか、『トワイライト』をバカにしてたけどジョー・マンガニエロは『トゥルーブラッド』の主要キャラじゃんとかも気になった。

あと、ターザン(ケビン・ナッシュ)の切なさとか、ケン(マット・ボマー)のレベル3のヒーラーで爆笑したとか、キャラそれぞれの細かい部分も全部愛おしいです。
そして、またチャニング・テイタムのことが一層好きになってしまいました。

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