『ヴィジット』



シャマラニストなんて言葉があるほどファン(?)を抱えているM・ナイト・シャマラン監督ということで話題になっている作品。
姉弟が子供だけで訪問し怖い目に遭うので、構造としては『ヘンゼルとグレーテル』や『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』に似ている作品。一応、ホラーだとは思いますが、怖さを求めて行くと物足りないと思う。ただ、びっくりさせる系のシーンは何度かありました。

シャマラン“なのに”おもしろい!みたいな言われて方をしている作品ではありますが、私はほとんどシャマラン映画を観ていないので、他と比べてどうということはわかりません。

以下、ネタバレです。










POVのホラーというとよくある感じですが、姉弟がそれぞれカメラを持っているので、視点が二つになっているのはおもしろい。撮っている人が二人なので、二人ともちゃんと映っている。
夜にカメラを仕掛けて観察するのは『パラノーマル・アクティビティ』を思い出したけど、プロデュースが同じジェイソン・ブラムだったらしく納得した。

カメラも子供たちが持っている(という設定)だし、ほとんど祖父母の家の中で起こることなので、こじんまりとはしている。低予算だろうけれど、アイディアはフレッシュだと思う。新人監督っぽさがあるが、シャマランというのが意外。

映画の公式ページや宣伝を見ると、どんでん返しやそこで起きることの謎について大きく書かれているけれど、その真実自体はそれほど驚くようなものではなかった。
母がいない以上、たぶん本物の祖父母ではないのだろうと思っていた。「病院が大変なことになっている」みたいな話が出てきたときにも、じゃあそうなのかなとは思った。

でも、病院から抜け出してきた患者だとすると、お年寄りなら仕方がないのではないかという気持ちにもなってしまう。そもそも、どうして殺してまで入れ替わってたのかもわからなくなってしまった。孫というか、子供たちと楽しい休日を過ごしたいだけだったのかもしれないと思うと、少し同情すらしてしまう。
また、病院に入れられているお年寄りがあんなに狡猾に動けるのだろうかということも考えてしまった。

もっと、刑務所から脱走したとかただただ悪意だけのほうが良かった。それか、途中で“暗闇さん”というキーワードめいたものが出てくるけれど、悪魔憑きとか現実味のないものにしてほしかった。同情する隙を与えないでほしい。

ラスト付近でパトカーが助けに来ますが、それに乗っているのも警察ではなく、病院から抜け出した患者とか、ぞっとするような、救いの無い終わり方でも良かったと思う。

ただ、この後の本当のラストを見て、そんなトリックとか怖さは別にどうでも良かったのだと思った。
そもそも、姉(と弟)は、離婚した母のために祖父母の家へ行ったのだ。母が少しでも救われたらと思って、ビデオを撮り、祖父母に母の話を聞こうとした。
結局はそこで酷い目に遭ったし祖父母も別人だった。一言で書いてしまったけれど、映画の大部分を占めている本筋はこのあたりです。別人だったので、当然、母の話も聞けなかった。

母は最後に、姉のまわすビデオに向けて、自分で自分のことを話す。そして、母は「怒りは忘れなさい」と言って娘を抱きしめる。ここでの怒りが何だかわからず、偽祖父母に対してかとも思ったけれど、その後流れるのが、まだ小さい姉弟が在りし日の父親と戯れている映像だった。

ホラーとかトリックとかを気にしてここまで観てきたので気づかなかった。姉は、母のために…と頑張ってビデオを撮影していたけれど、結局、自分のためでもあったのだ。その本心についてまったく考えないままに映画を観ていたので、最後ではっとした。
弟を守り、母の“万能薬”を探して、一人で立ち回っていたけれど、彼女だって

こう書いていると弟は何もしていなさそうですが、ムードメイカーです。映画全体のムードメイカーでもある。タイラーという名前なんですが、Tダイアモンドという芸名でラップを披露。子供なのに大人顔負けのちょっと下品目な内容なのが和む。

映画の最後、“弟が「どうしても…」と言うので”という注意書きの後、弟が自分の身に起こった大変なことをラップで歌う。弟がカメラに向かってやっている時、姉は後ろで化粧なのか、何か作業をしていて背中を向けているけれど、何度かちらちらと振り返って見ているのが可愛い。
姉のエピソードで泣かされた後、最後の最後にこの和みシーンが入るのがとてもいい。これがあるのとないのでは作品のトーンがまったく変わる。

シャマラニストの方々だときっとまたまったく違う感想になるのではないかと思う。トリックの甘さは感じたけれど、この主人公姉弟がとても良かったので好きな映画です。



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