『ヘイル、シーザー!』



コーエン兄弟監督作品。キャストはジョシュ・ブローリン、ジョージ・クルーニー、スカーレット・ヨハンソン、レイフ・ファインズ、レイフ・ファインズ、チャニング・テイタム、ティルダ・スウィントンなど超豪華。
ちょっと思っていたよりは内容が難解だったんですが、私の想像よりもコーエン兄弟っぽかった。
以下、ネタバレです。







予告で得た情報は、“ジョージ・クルーニー演じる人気俳優が誘拐される”、“チャニング・テイタムやスカーレット・ヨハンソンが同じく俳優を演じている”という二点だった。それで、その俳優たちが結集して、ジョージ・クルーニー救出作戦をたてる…という映画かと思った。
あと、俳優たちが集まって何ができるかといったら、限られてくると思うんですよね。役者にできるのは役者だけである。つまり、偽の映画を作るのではないかと。
ただ、事態を解決するために映画を作るのだとすると、『アルゴ』と同じになってしまう…。

それで、実際に映画を観てみたら、ジョージ・クルーニー演じる人気スターは確かに誘拐される。けれど、目覚めたときに犯人に拘束されているわけでもないし、何かがおかしい。
誘拐した人らも所謂犯人然とはしておらず、インテリのような集団だった。話している内容はちょっと複雑なんですけど、要は共産主義者たちなんですね。だから、人気俳優を誘拐し、資本主義代表である映画業界から身代金をせしめる。

人気スター自体も共産主義者たちとの議論に参加して、ちょっと影響もされていた。シーザーの衣装を着てなかったら、誘拐犯と俳優ではなく、一つのサークルのように見えただろう。別に食事も普通に与えられていたし、外へ出るのも自由、和やかな雰囲気だった。

身代金も、予告編を改めて見返してみたら、スカーレット・ヨハンソンがあたかも色じかけでジョナ・ヒルを騙し、金を集めているような作りになっていたけれど、別にジョシュ・ブローリン演じる映画業界の何でも屋のような役割の人が電話一本で用意させていた。むしろ、身代金要求の電話を待っているようだった。金で解決できるならするからはやく俳優を戻せというように。
更に、一人の俳優がなんとなく知って隠れ家をつきとめ、そのまま車に乗せて戻ってくるというあっさりしたものだった。

力を合わせるどころか、スカーレット・ヨハンソン演じる女優は誘拐されたことすら知らなかったんじゃないかなと思う。そして、誘拐事件はこの映画の中の一つのエピソードにすぎない。主題ではないです。

思っていたよりもいろいろなものがつめこまれた映画だった。
まず、ジョージ・クルーニー演じる人気俳優が撮っていた映画は、シーザーとキリスト教の物語だった。暴君だったシーザーが、キリストとの邂逅により、行動を改める。
これを撮るにあたって、キリスト教の中での宗派や有識者に意見を聞こうとするが、イエス=神?などの意見がてんでばらばらなところが面白かった。皮肉っぽい。
また、映画内でキリストの顔が一切映らないのは、何か意図的なものを感じた。

この映画(映画内映画ではなく)の舞台は1950年代なんですが、誘拐される人気俳優が出ていた映画は『十戒』(1956年)っぽい雰囲気だった。他の俳優たちについても、映画の撮影シーンや映画そのものが映るシーンがあるのだが、たぶん、それぞれについて元ネタみたいなものがあるのだと思う。

スカーレット・ヨハンソン演じる女優が出ていたのは、アクア・ミュージカルというジャンルらしい。やはり1950〜60年代くらいに流行ったもの。シンクロナイズドスイミングの原点で、エスター・ウィリアムズという女優さんが有名らしい。彼女はもともと、競泳選手でオリンピックへの出場も見こまれていたらしい。
スカーレット・ヨハンソン演じる女優が真ん中にいて、その周りを同じ水着の女性たちが囲むようにして泳いでいた。ミシェル・ゴンドリー監督のケミカル・ブラザーズの『Let Forever Be』のPVっぽい感じだ。
上から撮っているので万華鏡のようにも見える。スクリーンが真四角に近いスタンダードサイズなのも合っていた。

上から撮っているので、下からあがってきたスカーレット・ヨハンソンがどんどん近づいて来るのだが、表情がはっきりするにつれ、笑顔を作ろうとしているが引き攣っているのがわかる。
美人なのに、なんとなく品がないのが良かった。ハスキーな声も役に合っていた。

予告ではジョナ・ヒルを騙しているように見えてしまうシーンも、本編ではとても素敵なシーンだった。
ジョナ・ヒルは金次第で何者にもなるという裏稼業の男だった。何を聞かれても無表情で「仕事ですので」なんて言って返していた。
この時の依頼は、スカーレット・ヨハンソンが映画監督と不倫の末に出来た子供を、そのまま産むわけにはいかないので、産んで、養子としてジョナ・ヒルに預け、また養子として受け取るというものだった。
ジョナ・ヒルは慣れた感じで書類に判を押しながらストイックに依頼を受けようとしたんですが、たぶんこの時にすでにスカーレット・ヨハンソンはジョナ・ヒルのこと好きになってしまってたんですよね。ジョナ・ヒルも少しだけ、あれ?という顔をしていた。恋に落ちかけている表情です。あのあと、あっさり籠絡されたのだろうなと思うととてもいい。
結局、二人が結婚することになって、養子云々の話もなくなったという。いいエピソードでした。

チャニング・テイタム演じるミュージカル俳優の映画の元ネタは、ミュージカル『オン・ザ・タウン』(1944年)とその映画化の『踊る大紐育』(1949年)でしょう。水兵ルックで、バーで歌い踊る。
一曲まるまるやるんですが、このチャニング・テイタムが本当に素晴らしい。『マジック・マイク』でダンスのうまさはよくわかってはいたけれど、こんなジャンルのものもできるのかと驚いた。セクシーでドキドキしてしまうダンスもできれば、楽しくて笑顔になってしまうようなうきうきしたダンスもできる。途中でタップダンスが入ったり、少しわざとらしかったりと、まさにあの時代のものです。これだけでも一見の価値ありである。

一応、彼は誘拐犯=共産主義者たちの代表的存在だった。チャニング・テイタムが黒幕ということで某映画を思い出しました。タイトルはネタバレになるので書きませんが。
別に悪い奴ではないけれど、これから悪い奴になっていくのかもしれない。ソ連へ亡命していた。

ちなみに、チャニング・テイタムとジョナ・ヒルということで、『21ジャンプストリート』関連ですが、残念ながら、二人が共演するシーンはなかった。

もう一人は、元ネタというか、1950年代に黄金期を迎えていた西部劇専門のカウボーイ俳優である。
アルデン・エーレンライクという、少しデイン・デハーンに似た俳優が演じていた。彼は、2018年公開予定のスター・ウォーズのスピンオフでハン・ソロの若い頃を演じるとの噂がある(ちなみに監督は『21ジャンプストリート』のフィル・ロード&クリストファー・ミラー)。

カウボーイなので西部劇のアクションはできても、演技力が要求されるラブストーリーには向かない。テキサス訛りも酷い。ラブストーリーの監督はレイフ・ファインズが演じていて、この二人の訛りを直すためのやりとりで爆笑してしまった。最初は穏やかだった監督が徐々に苛ついてくる。
このシーンのあとに、誘拐されたジョージ・クルーニーが出てきて、そういえば誘拐されたんだっけ?とすっかり忘れてしまっていた。それくらい楽しかった。
結局、訛りが抜けなかったセリフは削られ、複雑な表情ができなかったので「複雑なんだ」とセリフで言わせることで切り抜けたのは監督の手腕だと思う。

ただ、出る映画が悪かったというか、合わなかっただけだと思う。彼はただただカウボーイと西部劇が好きな実直な男なのだと思う。
ウエスタン映画でのアクションはすごかったし、誰にも負けないという感じだった。時間が余ったら、一人、縄で遊んでいたし、デート中もパスタで投げ縄を作って、正面に座っている彼女の指を捕まえていた。
たぶん、純粋でいい奴だと思う。

個性の強い俳優たちをまとめ、身代金を調達し、マスコミ対応もするなど、映画スタジオの何でも屋的なポジションの男にジョシュ・ブローリン。『インヒアレント・ヴァイス』『ボーダーライン』『エベレスト 3D』と、最近、一風変わった役が多い印象。

彼は常に何かしらの問題対処のために奔走していて、家にもなかなか帰れないようだった。ただ、やり手のため、飛行機業界からヘッドハンティングの声がかかる。

「テレビの台頭により映画は終わりだ」とか「家族といる時間が増えるぞ」と誘惑され、賄賂まがいのものとして子供たちへのおもちゃも貰ってしまう。

それでも彼は、映画業界に残る。それは、彼の映画愛であり、コーエン兄弟の映画愛でもあるのだと思う。本作に細かく詰め込まれた要素を見ればわかる。また、1950年代に映画を見捨てなかった彼のような人物がいたから、今まだ映画が無くなっていないのだろうとも思う。映画愛であり、映画業界人愛でもあるのだ。



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