『ハイ・ライズ』



奇妙な高層マンションが舞台になっている。ほぼ、マンション内の出来事のみです。
原作はジェームズ・グレアム・バラードによる1975年の小説。
監督はベン・ウィートリー。『ドクター・フー』シーズン8で監督を務めているらしい。シーズン8だとピーター・カパルディがドクター役になった最初のほうかな。まだ見ていません。
ちなみに衣装のオディール・ディックス=ミローも『ドクター・フー』シリーズで80年代から衣装を担当しているとのこと。その他、『ブルックリン』の衣装担当も彼女。もともとは79年にBBCに入社、96年にフリーランスになったらしい。

キャストはトム・ヒドルストン、ジェレミー・アイアンズ、ルーク・エヴァンス、シエナ・ミラーと豪華。

私は出演者と高層マンションが舞台ということ以外にまったく情報をいれずに観たらわからない部分も多かったので、もしかしたら、ある程度ストーリーを把握しておいたり、原作を先に読んだりしたほうがいいかもしれない。
本当は、誰が何階に住んでいるか、知っておいたほうがいいと思うけれど、その情報は公式サイトにも載っていないし、公式側が明かしていないということは知らずに観ろということなのかもしれない。

以下、ネタバレです。









マンションの形は歪である。日照の問題なのか、途中から斜めになっている。設計者のロイヤルは、「五棟作って丸く並べ、指のようにしたい」と言っていた。そのくせ、外観は建物だから当たり前ですが、無機質である。
それはCGのせいかもしれない。実際にある建物での撮影ではなく、外観はすべてCGなのだが、ひんやりしていてなんとなく不気味さが漂っていた。

その得体の知れなさから、100階建てとか通常では考えられない高さを想像していたのだが、40階建てと現実味のあるものだった。
その中で、低層階、中層階、高層階と住んでいる場所ごとに格差が生まれていた。マンションが社会の縮図である。ただ、この映画ほどめちゃくちゃなことにならないにしても、日本でも同じようなことは起こっているらしい。ためしに“高層マンション,格差”で検索してみたら、お悩み相談がぼろぼろ出てきた。

この映画のストーリーとしては、高層階の金持ちの住民がパーティー三昧な毎日を送っているが、低層階の住民は上の階の人間たちの好き勝手に巻き込まれ、電気を止められ不便な生活を強いられている。あることをきっかけに我慢の限界に達し、暴動が起きてマンション内はめちゃくちゃになる…といったところ。

観客はマンションに越して来た医者(トム・ヒドルストン)の目線で観たらいいのかなとも思うけれど、彼にしても考えていることがよくわからない部分もたくさんあった。途中まではまともに見えたが、ペンキで部屋の壁を塗り始める部分もよくわからなかったし、結局、壁に貼っていた写真の女性が姉なのかどうかも不明。あの写真がキーになるのかと思ったけれど、途中からなんの言及もされていなかった。
引っ越しと一緒に持ってきたっぽい段ボールも開封していなかったし、その中身はなんなの?と聞かれたときには、独り言のように「セックスとパラノイア」とぼそりと言っていたけれど、箱の中身がキーになることはなく、明らかにもされなかった。

もしかしたら、ルーク・エヴァンス演じるドキュメンタリー作家が観客が心を寄せるべき相手だったのかもしれない。けれど、それも、見終わって少し情報を見たから言えることだ。
まず、医者の一つ上の階(26階)に住んでいるのかと思っていた。最初、上の階のベランダから声をかけてきたからだ。でもそれは、不倫相手の部屋だったのだ。実際は妻と子と一緒に3階に住んでいた。
この映画では、何階に住んでいるかがかなり重要な位置を占めている。それは、登場人物それぞれの根幹をなすものと言ってもいいと思う。
だから、3階のところを26階と思っていたというのは、キャラクターのことを何も理解できていなかったのだ。

だから、最後に最上階で女性たちに次々に刺された原因もよくわからなかった。レイプ魔と言われていたけれど、26階の女性以外にも手を出していたのだろうか。
ただ、最上階にいた女性たちは男たちから下に見られている様子で、それに怒りをおぼえていそうな描写もあった。だから、ワイルダー(ルーク・エヴァンス)がロイヤルを殺しに来たのを助けるようなことをするのもよく理解できなかった。

また、この映画は原作と同じく70年代が舞台だったらしい。確かに、ルーク・エヴァンスはもみあげが長く、裾の広がったズボンを履いていた。けれどそれは、今の時代のおしゃれで個性的な恰好をしている人なのかと思っていた。このあたりもキャラクターを見誤っている。

時代がよくわからなかったのは、トム・ヒドルストンがスーツだったせいか、いつものトムヒにしか見えなかったせいである。髪型も現在のトムヒだった。時代がよくわからなかったのとは別に、とても恰好よかったです。相変わらずスタイル抜群。

70年代が舞台と聞くと、高層マンションが40階建てなのも納得がいく。現在ではそれほど高くなくても、70年代にはとんでもない高さだろう。

登場人物では他に、医学生(?)の自殺の理由もわからなかった。医師(ラング=トム・ヒドルストン)が「脳に云々」と余命宣告のようなことをしたからだろうか。そもそも、それすらも本当かわからない。それくらい主人公のことが最後まで信用しきれてない。
ラストのモノローグで、「診察が必要な人が多そうなので、マンション内で開業しようと思う」と言っていたけれど、お前が仕組んだんじゃないよね?とも思ってしまった。
また、散乱していた黒いゴミ袋の中身は、やっぱりマンション住民の死体だったのだろうか。

ストーリーは暴動を境に前半と後半に分かれると思う。前半はどこかぴりぴりしていて、取り繕われている印象もうけたが、それでもおすまししているというか、新しい生活の始まりという雰囲気だった。戸惑うことは多くても、そのうち馴染むだろうという希望があった。
ただ、主人公の部屋の生活感のなさが気持ち悪くもあった。

最上階の金持ちはベランダというか屋上庭園のようなところで馬を飼っていて、それも妙な感じだった。その部屋に行くプライベートエレベーターが総鏡張りなのも怖い。合わせ鏡で自分の姿が何人も映っている。

度重なる停電や、おむつをつまらせるな!とダストボックス係に起こられるなど、少しずつ綻びが出てきて、亀裂が広がっていくのが見えるようだった。

そして暴動が起きてからは、マンション内は荒れに荒れる。殺しはもちろん起こる。マンション内のスーパーマーケットでは食料が不足し、自分の妻と食料を交換する者も出てくる。一気に文明のない頃に戻ったみたいになっていて、最上階の金持ちたちはみんな裸でパーティーである。犬も殺して食べる。

前半との対比は面白かったものの、おそらく低層階と高層階との争いだったのだとは思うけれど、誰が誰と戦っているのかがいまいちわからなかった。
女性たちが集まって子供と身を寄せていたのは低層階の人々だったと思う。ただ、ワイルダーの妻は3階なので低層階の人間だが、最上階で産気づいて、高層階の人間に出産を手伝ってもらっていた。ただただ暴力的だったので、低層階は赤子もろとも全員死ねくらいの感じかと思っていたのに。

前半はひんやりした感じ、後半は血なまぐさい暴力。登場人物の行動の理由がよくわからない部分も多く、話もわかりづらかったけれど、映像から受ける印象としては全体的にとても邪悪なものだった。悪夢的というか。
原作も読んで、ちゃんと理解してみたい。


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