『ジーサンズ はじめての強盗』



原題『Going in style』。
こんな邦題なので観に行かないつもりだったけれど、評判が良かったので観てみたらおもしろかった。それに観終わるとこの邦題で良かったとも思える。
主演はマイケル・ケイン、モーガン・フリーマン、アラン・アーキンというジーサン方。
1979年の『お達者コメディ/シルバー・ギャング』(この邦題もなかなか)(原題は同じ)のリメイクだが、だいぶ変わっているとのこと。

以下、ネタバレです。









“はじめての強盗”とは、まるではじめてのおつかいのようなニュアンスである。
ほのぼのしたジーサンコメディかと思っていたけれど、銀行強盗をするきっかけとなるのが怒りなのが意外だった。あてにしていた年金は会社から支払われなくなる、銀行で契約した住宅ローンで詐欺まがいの目に遭う…。
もちろん作品全体だとコメディ要素が多いが、それだけではないのがまずおもしろかった。それに、ジーサンたちが一念発起して銀行強盗をやろうと思うのも仕方がないと思った。まずここで主人公たちを応援できないとこの先見るのはつらいので、うまい作りだと思った。

銀行強盗の予行演習として、スーパーで万引きをする。商品がシャツからはみ出していたり、ズボンがパンパンに膨れ上がっていたりとぐだぐだである。
それでもおもしろいシーンだったし、コメディならもしかしてこれで成功しちゃうのかな…と少し考えたがさすがに失敗。
スーパーだって、警備員を置いてたし、監視カメラもあるだろうし、そんな状況でぐだぐだのジーサンたちの万引きが成功してしまったらどうしようかと思っていた。

銀行強盗決行日を決め、それに向けてプロの手ほどきを受けながらシミュレーションを繰り返す。この一連のシーンの画面構成や音楽がおしゃれだった。

けれど、さっきの万引きであんなにぐだぐだだったし、ジーサンだし、本当に銀行強盗などできるのだろうか。三人のうちの一人、ウィリー(モーガン・フリーマン)は体調がすぐれないようだったし、本格的に倒れるとかして中止になるのではないだろうか。そのほうがお爺さんを主人公としたコメディっぽい。
ウィリーは友達なのにジョー(マイケル・ケイン)にもアル(アラン・アーキン)にも言っていないようだったし、強盗前に明るみに出て、決行はあきらめて真っ当に暮らしていくのかと思った。
でも、それじゃつまらないなとも思っていた。

そうしたら、銀行強盗は多少ゴタゴタはあったものの、あっさり成功。しかし、これまたあっさり、マスクをしていても正体が疑われ、三人は連行されてしまう。
ここからの一人一人の取り調べシーンがおもしろかった。
いわば、あっさりうまくいった銀行強盗の裏舞台である。

三人それぞれがアリバイを説明するが、映像では実はこう動いてました!というのが示される。あんなグダグダだったのに大丈夫なの?と疑ってしまってすみませんでしたと思うくらいちゃんとしている。
そして、映画自体もただのヒューマンドラマではなく、ケイパーものとしてもちゃんとしていておもしろかった。ここが映画の本番かと思ってしまった。

ただ、強盗中に小さい女の子がウィリーの腕時計を見てるんですよね。そしてその女の子が参考人として連れてこられる。
ああ、アリバイを完璧にしていてもだめだった…と思ったけれど、その子もバカではない。銀行強盗中に言葉を交わしたウィリーの言葉から根は善人だとわかったのか、口裏を合わせてくれた。

本当は、銀行強盗はいけないことである。犯罪だ。でも、映画を観ている側としては三人を応援してるし、女の子もこちら側についてくれて嬉しかった。痛快である。
特に、銀行員やFBIを悪役っぽくすることにより、犯罪者(とは書きたくないけれど)側に感情移入しやすい作りになっていた。

ここで終わりかというとそうではない。義賊のように、仲間や行きつけのダイナーのウェイトレスにこっそりお金を配る。
ジョーは犬が欲しいと言っていた孫娘のために犬をゆずりうけるが、ゆずってくれるのが三人に強盗の手ほどきをした男で、それが序盤でジョーとあった銀行強盗だった。この辺のちょっとした伏線回収も粋。

そして、具合の悪かったウィリーは二人に打ち明けて、アルから腎臓を譲り受ける。
ここで、アルが万一のことを考えて…と言って、麻酔の前に最期っぽい言葉を残す。

その後のシーンで、改まった席でジョーがアルについてスピーチをしていたら、ああ…って思うでしょ。お葬式だ…って。実際に思わせる作りだった。けれど、カメラがひいていくと、これがアルの結婚式でした! しんみりしそうになったところ、一気にめでたい!

ジーサン三人が主人公だと、爺さんである意味を考えて、誰か死んでしまうのではないかという不安とか嫌な予感がつきまとっていた。

それ以外にも、銀行強盗を決行することはできないのではないか…、逮捕されて刑務所生活になってしまうのではないか…、手術が失敗してしまうのではないか…などというすべての悪い予感は、バッタバッタと斬り捨てられる。
見終わってにっこりである。

ただ、リメイク元の『お達者コメディ/シルバー・ギャング』だと、銀行強盗のあとウィリーが心臓発作で死亡、ジョーとアルは二人で余ったお金でラスベガスのカジノで大儲け、その疲れからかアルも急死、ジョーはアルの葬儀に行く途中で逮捕されて刑務所へ…ということで、私の悪い予感が結構達成されている。
おそらく、監督もこんなのいやだと良い方向へ変更したのだろう。多少強引でもにっこり終われるほうがいい。

それに、主人公たちを演じるマイケル・ケイン、モーガン・フリーマン、アラン・アーキンがとにかくいい。本当に仲が良さそうで観ていて和む。演じている彼らも肩の力が抜けているようだった。
三人の役者さんあってのものだと思うし、三人とも映画の中と同じようにいつまでも元気で笑っていてねと思う。これに尽きます。

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