『ビニー/信じる男』



交通事故から復活したボクサー、ビニー・パジェンサを描く実話。

主演はマイルズ・テラー、コーチ役にアーロン・エッカート。
ではあるけれど、二人とも別人のようだった。

マイルズ・テラーは私は『ファンタスティック・フォー』以来だったが、あの時は少し太っていて彼がボクサー役?と思ってしまった。けれど、体は鍛えられていて、ボクサーらしい闘争心の強さが現れた鋭い目つきをしていて、これもボクサーらしい派手な遊びっぷりで『セッション』のぼっちゃんっぽさも消えていた。
体を絞り、体脂肪も6パーセントまで減らしたらしい。

アーロン・エッカートは『ハドソン川の奇跡』の時のヒゲですら驚いたのに、今回は頭の前側は剃り上げてお腹がぽっこり出ている。彼は逆に40ポンド(18キロ)増やしたらしい。

以下、ネタバレです。










交通事故からの復活ということで、序盤に事故が起こるのかと思ったけれど最初はボクシングシーンとビニーの人柄が描かれていた。
体重の計量の当日に遅刻するようなぎりぎりの減量。ギャンブルで派手に遊んだり、スタイルのいいおネエちゃんを連れていたりと、適当に遊びながらも試合に勝っていた。
序盤の日常シーンは意外と長かった。ただやはり最近のボクシング映画は傑作続きで、そのあたりと比べると少し地味かなと思いながら観ていた。
その時にはもう交通事故が起こることを忘れていたのだけれど、なんとなく嫌な予感がするシーンがあって、事故が起こる。

これが思ったよりも大事故で、ビニーは重傷を負う。首の骨が折れてしまい、ハロという固定する器具をつけることになる。
映画内ではハロと呼ばれていたけれど、ハローベストが正式な呼び名らしい。頭蓋骨に穴を開け、ネジで頭にリングを固定、そのリングから出る支柱をベストで固定する。見た目がサイボーグのようになってしまう。
横を向く時にも体ごとだし、車から降りる時に頭の上部の金属をぶつけてしまい、とても痛がっていた。想像するだけでも痛い。

見た目からして痛々しいので、周囲が気を遣う。気を遣われているのもわかるから、ビニー自身は人と距離を置いてしまう。

誕生日に部屋で一人テレビを見ているビニーをコーチが誘いに来るシーン、アーロン・エッカートがおちゃらけたダンスやパントマイムをするのだが、それがすごくアドリブっぽかった。ビニー役のマイルズ・テラーも本気で笑ってしまっているようで、調べてみたら本当にアドリブだった。

一人で部屋でテレビを見ていても別に本気でひねくれていたわけではないし、気を遣ってくる周囲にキレることもない。ビニーは根が優しいのかもしれないし、このあとに、再びボクシングをやりたいという決断をすることから考えても、楽観主義者なのかもしれない。

もちろん密かに闘志を燃やしていたとか、こんなところでやめられないという負けん気の強さもあったのだろうが、首の骨が折れているのである。その状態からよりによってボクシングをやろうという気持ちには普通はなれないと思う。
邦題の通り、自分を信じていたのだろうが、うじうじと悩んで落ち込んでいたら、どちらかというと俺はもうだめだというネガティブ方面に思考が向いていき、ボクシングを再開することなんてとてもじゃないけど考えなかっただろう。

ビニーはコーチであるケビンにトレーニングを再開して、再びボクシングの試合をしたいことを打ち明ける。ケビンももちろん最初は反対したけれど、熱意に負けたのか、自分もマイク・タイソンのコーチを解雇され、どん底からの復活を夢見たのか、自宅の地下で特訓を開始する。
最初は痛々しかった器具が、まるで王冠のように見えてくる。ビニーの表情もどんどん明るくなっていくのがわかる。おとなしくしているよりも、体を動かしている方がきっとビニーには向いていたのだろう。

ビニーは、器具をはずすときに「麻酔をしないでくれ」と言うんですが、これも実話らしい。頭蓋骨に入っているネジを抜くのがどれだけ痛いか…。
実際に試合をした会場で撮影をし、その会場のある街並みを撮影することで雰囲気などを再現したり、残っていたパジェンサ家のビデオテープから、家族みんなで食卓を囲んでパスタを食べるとか、母親はビニーの前ではタバコを吸わないなど細かい部分がわかり、それらも取り入れて映画が作られているらしい。
実話を基にしているとは言ってもほとんどが実話のようだ。

そして、器具をはずした5日後にはすでにボクシングを始めていて、しかも世界タイトルまでとってしまう。
もうできすぎの話で、フィクションなら興ざめといったところだ。しかし、これが実話だというのが驚かされる。
勝ち負け関係なく、再起をかけてもう一度チャレンジする勇気を描いているだけではなく、実際に勝ってしまうのだ。恐れ入りました。

映画内の音楽の使い方で気になったのは、交通事故前は音楽が、シーンが転換する部分ではない場面で急にブツッと切られることが多かった。ノリのいい音楽が調子に乗るなと戒めるように、急に消える。
わかりやすく、音楽を流しながらトレーニングをしていたらラジカセが急に切られるというシーンもあったが、BGMであっても変なタイミングで消えるので、なんとなく落ち着かない感じだった。
けれど、事故後はフェイドアウトしたり、自然な場面で消えたりと違和感がなくなったのがおもしろかった。
不屈の精神で立ち上がるビニーを応援しているようだった。

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