『パワーレンジャー』



スーパー戦隊シリーズのローカライズ版で、1993年にアメリカで放送が始まった。私はテレビ版を見ていないし、日本の特撮も特に見ているわけではないです。
けれど、この映画は問題なく楽しめました。
特撮物というよりは青春映画だと思う。
そして、子供向けでもないです。

以下、ネタバレです。『クロニクル』(2012年)のネタバレも含みます。






序盤、牛の乳搾りをしようとして、それが間違えて雄牛で違うところを搾っちゃったとか、その牛の名前がビーフケーキ(アメリカのスラングでマッチョな男性のヌード)だったりするシーンが出てきて、この時点で子供向けじゃないことを知った。
あまりに子供向けでも楽しめるか不安だったので良かった。

そして、レッド、ブルー、ピンク、イエロー、ブラックに変身するんだろうなという若者たちが出てくる。
共通項もない若者たちが偶然不思議な物質を発見し、未知のパワーを身につけるというくだりは、少し『クロニクル』を思い出した。けれど、『クロニクル』の面々が自分の利益のためにパワーを使ってきゃっきゃやって、その悪ふざけが次第にエスカレートして大変な暴走を起こした結果、ひどい結末になってしまったのに対し、彼らは大したことはしない。

本作の若者たちもはぐれもので悩みを抱えているのだ。怪我をしてスポーツが続けられなくなってしまう、友達を裏切ってしまう、自閉症で孤立している、型にはめようとする両親に従えず悩む、母親を病気で失うことを恐れている…。混乱もあったのかもしれない。でも、自分の悩みの解決には力を使わない。
ビリーは殴られそうなところを避けたりはしたが、自分からは攻撃しない。勝手に頭突きしてきた相手が倒れただけだ。
そう考えると、『クロニクル』の面々よりも本作の五人のほうが優しいのかなと思う。
ただ、放っておいたら五人も好き放題に自分のためにパワーを使って仲違いしたかもしれないけれど、彼らは途中から旧レンジャーのゾードンとお手伝いロボットのアルファ5に目的を与えられる。使命感を与えられたことも悲劇にならなかった要因だろう。
ちなみにエンドロールで知ったのですが、ゾードン役がブライアン・クランストン、アルファ5役がビル・ヘイダーでびっくりした。ゾードンは壁から不明瞭な顔が出ていて、言われると確かにブライアン・クランストンの顔である。

五人は白人、黒人、アジア系、ラティーノ…と様々な人種なのは、現代特有の配慮なのかなと思った。また、自閉症スペクトラムやにおわせる程度だったけれど同性愛者もいる(そのせいでロシアでは18禁になってしまったらしい)。
何もかもが違う五人だけれど、そのデコボコ感がかわいい。それぞれに違った出来事があって一人きりになってしまってはいるけれど、一人一人がなんとか他の四人と気持ちを通じさせようと頑張る。

もちろんそれは、世界を救うためでもある。世界というか、映画内では彼らが暮している小さい町を救うだけですが。変身できることはわかっても、気持ちが通じ合わないと変身できない。

あまりにも変身しないので、もしかしたらこの映画では変身はしないのかと思った。一応、自分のカラーを一部に使った服を着ていて、おしゃれだなとは思っていたけれど、途中からもしかしてここまでだったりしてとも思った。

学校の教室で(パワーがあるから)高速で手紙のやり取りをする、焚き火を囲んで自分の生い立ちを話す…。こそばゆくて、でも熱くて、青春そのものである。『スタンド・バイ・ミー』が流れ、青春映画感が高まる。

そして、彼らに変身の瞬間が訪れる。これは五人の友情が最高に深まったことの証である。だから、はっきり言って、この後の戦闘シーンは私にとってはオマケのようなものだった。特撮ファンからはどうとらえられているかわかりません。もしかしたら、変身するまでがオマケなのかも。
ちなみに、時間を確認していないのでわかりませんが、変身して戦うのは後半2、30分くらいとのこと。

特撮としてどうかは他の特撮と比べられないのでわかりませんが、他のアクション映画やアメコミ映画に比べると少し雑に感じてしまった。
まず、せっかくヒーロースーツ姿に変身したのに、その姿でのバトルはあまり無い。すぐに個人の乗り物に乗ってしまう。変身しないと乗り物を操れないとのことだったが、乗り物に乗るために変身したみたいに感じてしまう。
しかしこれも、元々の『パワーレンジャー』を知らないので、すぐに乗り物に乗るタイプのヒーローなのかもしれない。
また乗り物に乗ると、顔の前面を開いて生身の顔が出ている姿だったので、ポスターなどで見るようなヒーロースーツ姿の場面はほとんど無かった。次作に向けて、登場人物の顔だけでも覚えて帰ってくださいねということだろうか。

また個々の乗り物が合体して巨大なロボットになるが、この合体はさらに友情が深まった証として次作以降にとっておけば良かったのにと思う。
ちなみに特撮ファンからすると、合体シーンを見せないこととか、変身した時に名乗らないのが気になるらしい。

バトル後に町の人がスマホでパワーレンジャーたちの写真を撮っていたけれど、バトル中はどちらが悪者かわからないくらい建物を壊していた。人が逃げ惑っていたがあの調子だとつぶしていそう。「ごめん、バンブルビー」というセリフは面白かったけれど、要するに市民の車を壊しちゃったのである。彼らも右も左もわからないままいきなり戦うことになって必死だから、市民のことを考えられないのはリアルだと思った。身内だけ贔屓して救うのも、わざわざ逃げ惑う市民を映すのも、あとで批判される伏線かと思ったけれど、賞賛しかされてなかった。

バトル前までの人物描写が丁寧で好感が持てたので、バトルももう少し丁寧だったら良かったと思う。
でも、バトル中のメンバーのやりとりは面白かった。ロボットになったときに慣れてないから連携が取れなくて倒れちゃうとか、リタをビンタでぶっ飛ばしたときに、ビリーが「ジェイソンがまたビンタだ!あ、あれ知ってるの僕だけか!」って嬉しそうに言うのとか。最初にいじめっ子をぶっ飛ばした時のことを思い出してて可愛い。

五人は学生なので、打ち上げも学校である。同じ補習クラスに勢ぞろいしているが、ヒーローであることは隠していて、でも仲はよくなっているから秘密の共有をしている感じ、目を合わせてクスッと笑うような感じがたまらない。乾杯をしたりはしないが、あれも打ち上げの一種だと思う。
そして、次作に繋がる要素も出てきたが…。なかなか興行収入的に厳しいらしいので、次作が作られるかどうかはわからない。是非観たいし、同じテイストで作ってくれてもまったく問題ないです。でも、特撮シーン多くしろって苦情はたくさん出ただろうしどうなるだろう。

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