『プラハのモーツァルト 誘惑のマスカレード』



モーツァルト生誕260年記念作品で、イギリスとチェコの合作(イギリスでは2016年公開)。
監督・脚本は特殊効果出身のジョン・スティーブンソン。全編プラハロケらしいし、特殊効果とは無縁の本作の監督なのが少し意外。でも、エンドロールにはVFXに関する記載もありました。どこに使われていたのかは不明。
主演はアナイリン・バーナード。

以下、ネタバレです。










他の作品などではモーツァルトは奔放だったり、下品だったり、変態的な描かれ方をしていることが多く思えるけれど、本作ではいたってまとも。
美形のアナイリン・バーナードがモーツァルト役なのと、“誘惑のマスカレード”というサブタイトルから、彼が色気でもって周囲を狂わせていく話なのかと勝手に思っていたが、そうではなかった。妻帯者ではあるものの、一人の女性に対する純愛がメイン。
ただ、モーツァルト側から手は出さないけど、周囲は勝手に彼のことをどんどん好きにはなります。

オペラ『フィガロの結婚』と『ドン・ジョヴァンニ』がメインになっている。
『フィガロの結婚』の上演のためにウィーンからプラハに呼ばれたモーツァルトが、プラハで『ドン・ジョヴァンニ』をつくり初上演したという実話から、その滞在時のストーリーが創作されたらしく、フィクションはフィクションのようです。ただ、はっきりしたことは多分わかっていないのかなとも思う。

この創作されたストーリーが『フィガロの結婚』と『ドン・ジョヴァンニ』になぞらえてあるのがおもしろい。それは観ているとわかることだけれど、元のオペラ自体を知っているとより楽しめそう。

『フィガロの結婚』でケルビーノ役の女性が恋について歌うのを、彼女と恋仲になりかけのモーツァルトが指揮をしながら聴くシーンはドキドキしました。

『ドン・ジョヴァンニ』に関してはもっと直接的で、猟色家の伯爵をドン・ジョヴァンニになぞらえていた。
墓場には石像があり、石像にドン・ジョヴァンニが穴に引きずり込まれるシーンと絞首刑になった伯爵の落下がオーバーラップしていた。

彼女は死ぬ必要があったのか?という意見もあるようですが、元々、伯爵をドン・ジョヴァンニになぞらえていたし、彼女が死んだことで埋葬の時にモーツァルトは墓場で騎士の石像を見て『ドン・ジョヴァンニ』のラストの着想を得た(という想像)のだし、伯爵が彼女を殺したことで絞首刑になり、その落ちるイメージが騎士が穴に引きずりこむイメージと重なったのだろうし、あくまでも本作の中ではだけど、彼女の死無くしては『ドン・ジョヴァンニ』という作品が生まれなかったということになっているから仕方ないと思う。

ストーリーも練られているし、プラハロケも衣装も豪華で見ごたえはあるのだけれど、一番の注目点はアナイリン・バーナードの美しさです。彼目当てで観たのですが、全編で美しい。オペラをほんの少し歌うシーンもあって、その歌唱力も堪能できる。

『シタデル』のキスシーンで高すぎる鼻がかなり潰れているのは確認したんですが、本作の仮面舞踏会のシーンでマスクの目の穴に大きすぎる目が入りきっていないのに驚いた。他の人はちゃんと人間がマスクをつけているように見えるが、アナイリンはマスクから目の周りの皮膚が見えないので、マスク込みのそうゆう生き物のように見える。

モーツァルトの時代、1787年が舞台なので衣装もゴテゴテしているが、顔が派手なので負けていない。また、その時代なので顔はうっすらおしろいが塗られ、唇も赤い。化粧が映える。顔にかかるウェーブがかった前髪もセクシーです。

『戦争と平和』で黒いコートがとても似合っていたけれど、本作では葬式のシーンで真っ黒い服を着ていて、ここでもやはり悪魔っぽかった。表情がやつれているのも良い。

吸血鬼役とか悪魔役が似合いそうな気がする。ファンタジーかホラーに出て人外役をやってほしい。それくらい人間離れした美しさだった。

アナイリンは『ダンケルク』でもずっと悩んでいるような顔をしていたけれど、本作も笑顔は見せるものの切なく悩むシーンは多いし、ぽろぽろと涙も流していた。
モーツァルトというには繊細すぎるとは思うが、アナイリンが演じるならこのモーツァルトでいいです。似合ってました。

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