『人生はシネマティック!』



『17歳の肖像』『ワン・デイ 23年のラブストーリー』のロネ・シェルフィグ監督。
プロパガンダ映画の脚本をまかされた女性が、1940年のダンケルクの戦いを題材に映画を作る。
イギリスでは今年4月に公開されていてこれはクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』の前になるが、日本ではダンケルクの戦い自体があまり知られていないためか、『ダンケルク』の二ヶ月後の公開になった。これは(私のように)『ダンケルク』でダンケルクの戦いに興味を持った人も見るし、いいタイミングだと思う。
主演はジェマ・アータートン。共演はサム・クラフリン(ニコラス・ホルトかと思った)、ビル・ナイ。

以下、ネタバレです。












舞台は1940年、実際にダンケルクの戦いが起こった年である。民間船がフランスに取り残された兵士33万人を救ったというのは、“奇跡の撤退劇”として厳しい戦況ながらも明るいニュースではあったようだ。
『ダンケルク』は兵士たちがフランスから逃げる話だったが、本作はその頃ロンドンでは…といったことが描かれている。違う方向から見ることができておもしろかった。

民間船の召集はラジオで行われたらしい。きっとそれを聞いて、『ダンケルク』のドーソンさんとピーターも家の船を出すことにしたのだろうなと考えた。

ロンドンが激しい空襲に遭っていて、市民は地下鉄に避難していましたが、これが、1940年9月から翌年5月まで続いたロンドン大空襲ですね。
一方その頃、空軍はバトルオブブリテンに駆り出されていたというのが流れでわかっておもしろい。

戦争中でも兵士は軍服のままパブに来ているし、映画も観に来ている。市民も家に閉じこもって震えていたわけではないようだ。ただ、急に空襲が始まったりはしていて、やはり大変ではあったようだ。
映画は娯楽の中心だったようだ。なので、それを市民の戦意向上にあてようと、プロパガンダ映画が作られたらしい。

双子の姉妹がダンケルクの兵士の救助に漁船を出したというのは変わってるし、確かに題材にしやすそう。ところが、実際に話を聞きに行ってみたら途中でエンストしてしまい、大型船に牽引されて兵士を乗せただけだったということがわかる。

でも、兵士が持っていた鞄から犬が出てきたとかフランス人兵士にキスされたとか細かいエピソードを中心にして、脚本を膨らませていくのがおもしろい。

しかし、『ダンケルク』を観ていたら、武器はフランスに置いていっていたようだったが、犬は連れて帰ったんですね。可愛かったのだろうし、撤退できるかわからない間の癒しでもあったのだろう。
あと、フランス人は助けてくれたイギリスの姉妹にキスするなんてロクなことしないと思った。そりゃあ、カエル野郎とも呼ばれますよ。

脚本家たちが話し合いながら、三人でプロットを組み立てていく様子はスリリングでおもしろかった。意見を交わしながら、少しずつ物語が出来上がっていく。

しかし、プロパガンダ映画である。そこに、軍や政府が関わってくるからすべて自分たちの好きには作れない。
お偉いさん役にジェレミー・アイアンズ。彼が出ているのを知らなかったので嬉しかった。
アメリカ人も出したいということで、俳優ではない空軍に属している軍人さんを連れてくる。歯は白く恰好は良くても演技ができない。「あの歯は本物?」というセリフにも笑った。なんとなく、『ヘイル、シーザー!』のカウボーイを思い出しました。

ビル・ナイ演じるピークを過ぎた老俳優もクセモノ。わがままだけど恰好良くてチャーミングだった。歌も披露しています。
彼のエージェント役にエディ・マーサン。彼も出ているとは知らなかったので驚いた。
しかし、空襲に遭って結構序盤で死んでしまうのが残念。本当に死と隣り合わせなのだ。

ダンケルクに見立てたロケ地の海辺の町は、ロンドンの市街地よりは穏やかなようだった。
透明なプラ板に多数の兵士と駆逐艦などが描かれているのを海に透かして撮影していた。『ダンケルク』でもノーラン監督は兵士を書き割りで作ったらしいのでほぼ同じである。工夫が感じられる。

ロンドンの空襲はどんどん激しくなっていっているようで、ロケが終わり、他の部分をスタジオで撮影している最中にも襲われる。

主人公のカトリンと一緒に脚本を書いていたバックリーはいい雰囲気になるが、バックリーのいた場所が空襲を受けてしまう。でも、生きていて、良かった…と思ったのもつかの間、スタジオの中のものが倒れ、下敷きになり死んでしまう。
一度ほっとしたので、このまま終わるのかと思ったのにショックだった。

部屋にこもりきりだったカトリンは、老俳優のヒリアードに促され、完成した映画を観に行く。
テクニカラーで本当におもしろそうな出来になっていたので、完全版を観てみたい。DVDなどには特典映像として入らないだろうか。

カトリンの横のご婦人は映画内のセリフを同時に発して、観るのは5回目よと言っていた。
映画内で船のスクリューにロープが絡まるトラブルを解決する役割を双子の姉妹にまかせたことで、現実の双子の姉妹も整備士を目指すことにしたと言っていた。
カトリンが作った物語が人を動かしている。

また、この劇中劇の映画のラスト、なくなってしまった映像の代わりに、現代の映像を加わっていた。海辺の町でのロケ中、バックリーが食べかけていたポテトをカトリンが奪ってポイと捨てるシーンが入っていたのだ。
ここ、最初に出てきたときに、そんなー!と思って爆笑してしまったシーンだったのだ。もうバックリーは死んでしまった今となったらちょっと違う意味合いになってしまうけれど、それでも微笑ましい。
その人自体はいなくなってしまっても、思い出や物語の中では生き続けるというのに涙が出た。これ、実は『KUBO』と同じテーマではないかと思った。
これもまた、人はどうして物語を必要とするのかを考えさせられる映画だった。

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