『パディントン2』



タイトルからも分かる通り『パディントン』の続編ですが、直接的な続きではないから本作からでも観られます。
ちょっとこれだけよくできた話は観たことないです。思わず唸りました。完璧だった。
元々が絵本だから子供から大人まで楽しめるし、普遍的なメッセージも含まれているし、かといって難しかったり説教くさかったりはしない。
103分という上映時間もちょうどいい。
パディントン自体が可愛いというのは前提の前提、大前提です。

以下、ネタバレです。









今回のキーアイテムである、序盤に出てくる飛び出す絵本のシーンから泣いてしまった。
ロンドンの街並みを描いた飛び出す絵本を、ロンドンに来ることができないルーシーおばさんの誕生日にプレゼントしたいと思うパディントン。
開いた飛び出す絵本の世界をパディントンがルーシーおばさんを案内してあげるシーンがとても美しい。鮮やかに世界が展開するし、パディントンの優しさも伝わってくる。
この飛び出す絵本のシーンは前作でも入れようとしていたらしい。予算の都合で削られてしまったらしい。

今回は、人に親切にしようという、とても真っ当なメッセージが込められている。
パディントンは親切を惜しまない。そうすると、周りも親切に接してくれる。
朝にパディントンが家を出て、近所の人々と交流するシーンもいい。通勤をする女性の後ろに乗せてもらって朝食のパンを分けてあげたり、よく鍵を持ち忘れる男性に声をかけたり、ゴミ収集車の男性の勉強に付き合ってあげたりと、たぶん毎朝かわされているコミュニケーションが流れるように映し出される。
これだけで、パディントンが周囲に愛されているのがわかる。それだけでなく、パディントンも周囲の人々を愛している。

前作から、ペルーからやってきたパディントンは移民として描かれている。ペルーから来たというだけではなく、熊である。
今回も近所のカリーさん(12代目ドクターのピーター・カパルディ。意地悪顔なんだ…)は、熊というだけでパディントンを差別するが、ブラウンさんは「もっと本質を見ろ!」と叱責する。ブラウンさんは前作ではどちらかというと堅物でカリーさん側の部分もあったけれど、今作では最初からパディントンの味方です。まだ柔軟性は足りないですが。

パディントンと仲の良い近所の人たちも、いわゆるイギリスの白人ではなく、移民のような人々が多いのも印象的だった。
でも、移民云々のメッセージは前作のほうが強かったと思う。
今作は本当に、もっと単純に人に優しくしようということがテーマだ。

パディントンは飛び出す絵本を盗んだ容疑で刑務所に入れられてしまう。
そこでも、パディントンは囚人に親切にして、刑務所を優しい世界に変えてしまう。その一方で、パディントンがいなくなってしまった近所の人たちはギスギスしてしまっていたけれど。
また、洗濯係になったパディントンは、赤い靴下と囚人服を一緒に洗ってしまい、囚人服をうっすらピンクに染めてしまう。このようなパディントンのドジっ子要素も映画の中でくすっとくる楽しいシーンなのですが、このピンクの囚人服は、刑務所の殺伐とした雰囲気を和らげている。もちろんパディントンがそれを狙ったわけではないけれど。
強面の囚人たちがピンクの服を着ているのも可愛いのですが、みんなで料理を作ろうということになって、作れる料理がお菓子ばっかりで、テーブルクロスもチェックでほんわかしたところにこの囚人服が似合う。まるでカフェのようです。

赤い靴下を混ぜて洗っちゃうというシーンはただのコメディーリリーフなのかと思っていたら、その先に刑務所内の雰囲気がパディントンのおかげで変わった時にピンクの囚人服のほうがちゃんと合うのである。もしかして伏線だったのかなと思ってしまった。

この先、パディントンが刑務所を脱獄して、最序盤に出てきた耳に隠していたコインを出して電話をする。あのコインをここで使うのか!とびっくりしたんですが、この先に怒涛の伏線回収がある。

トレイン・チェイスのシーンはアクションも素晴らしかったんですが、ピンチに陥るたびに伏線が鮮やかに回収されていく。ブラウンさんのココナッツ投げとか、一緒に脱獄したあいつらが助けに来るとかは想像の範囲内だったのですが、それ伏線だったの?というところまで回収していくから驚く。

弟のSLオタク、ブラウンさんのヨガの心を開けば足も開く、トランクの中に入っている窓拭きのはしご、メアリーがフランスに泳いで渡るためにスイミングをしていること、りんご飴…。
ここまで映画を見てきて、なんてことないエピソードだと思っていたやつが全部伏線だった。物語が無駄にされていない。すべて丁寧に描かれていたのだ。

パディントンもブラウン一家もいいんですが、今作は何よりヒュー・グラントがとてもいい。
落ち目の俳優役である。その名もフェニックス(不死鳥)・ブキャナン。ヒュー・グラント自体が過去に活躍したイメージのある俳優だから合っている。それでも、『マダム・フローレンス!夢見るふたり』でゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞などにノミネートされたのが挟まれているのが絶妙なタイミングだと思う。本当の落ち目ではない。
部屋に若い頃のヒュー・グラントの写真や、ヒュー・グラントの自画像がたくさん飾ってあるのもおもしろい。実際に絵は若い頃にファンから贈られもしたらしい。
劇中では、今は落ち目でドッグフードのCMにしか出ていないと言われていて、そのCM見たいな…と思っていたら、ちゃんと見せてくれるサービス精神も。

彼は本作の悪役ですが、それは序盤からわかる。誰かを探すドキドキではない。でも悪役といっても愛嬌がある男で、そこまで凶悪だったり残酷だったりはしない。
結局逮捕されても、捕まった新聞記事で終わったり、罰を受けてしょんぼりするのかと思いきや、刑務所内でミュージカルが上演されていた。
ブキャナンというキャラの懲りなさもあるけれど、キャラへの愛情が感じられる。悪役の扱いとして最高です。ハッピーな気持ちで終われるのがいい。そして、ここでもやはり囚人服がピンクなのが効果的なのだ。

エンドロールでは家族や囚人のその後の様子もちゃんとわかって、最後まで楽しませてくれる。いい映画を観たという満足感に浸れる。

カリプソで演奏している人たちも出てきたので、たぶん前作同様、ブラーのデーモン・アルバーン関連だと思う。以下、前作のときに調べたこと。
『元々はポール・キング監督の妻が『London Is The Place For Me』というカリプソのコンピレーション盤を気に入っていて、この音源を出しているレーベルHonest Jon'sの共同出資者であるブラーのフロントマン、デーモン・アルバーンに連絡をとったという。
そして、デーモンがミュージシャンを集め、D Lime feat. Tabago Crusoeというバンドを作ったらしい(デーモン自身は演奏には参加していません)』
今作でもTabago Crusoeという名前はエンドロールで確認したけれど、フューチャリングの方は違うかもしれない。

あと、パディントンを見ていると、声をあてているベン・ウィショーをところどころで思い出してしまい、余計に愛しくなってしまう。表情もだいぶベン・ウィショーから取られているらしい。
いわゆるアニメ向きの声とは違うんですが、丁寧で誠実な様子がとても合っている。人にいい印象を与える声です。(余談ですが、前作を吹替で観ましたが、松坂桃李さんの声も合っていました。同じタイプの声だと思う)

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