『キングスマン:ゴールデン・サークル』



2015年公開『キングスマン』の続編。
実は前作が期待しすぎたせいもあったのかあまり好きではなかったけれど、本作は大好きになってしまった。観ている間ずっと笑っていて、頬骨のあたりが痛くなるくらいでした。
こんな年始に年間ベスト級の作品に出会ってしまった。
“秒でアガる。”というキャッチコピーが付いてますが、合ってる。その通りの内容です。

以下、ネタバレです。









最初のタクシーのシーンからおかしい。追われてはいるけれど、カーチェイスとは違う。タクシーに乗り込んで、狭い車内で格闘が始まる。狭いからうっかりボタンを押してしまって、音楽が鳴り始め、それがBGMになるあたりがマシュー・ヴォーンっぽい。
はずれた扉での水上スキーのように滑っているのもすごい。摩擦で火花が散っていた。
タクシーとは言っても、スパイの特殊な機能のついた車なので、それも見せつつ、車は走ったままなのでスピード感があった。止まらない。カメラワークもたまらない。しょっぱなから大興奮である。

結局、ハイドパークの池にそのまま沈んでいくのもびっくりした。車は水中用に変わって、そこから秘密の抜け道を使って逃げるという。

もう、このワンシークエンスだけでも度肝を抜かれた。『キングスマン』自体はコミック原作らしいけど、このエピソードもあるのだろうか? 実写だけれどほぼ漫画である。

キングスマン本部が攻撃されて、知人が多数死んでしまい、弔うためにウイスキーをあけたら酔っ払ってしまうマーリンとエグジーが可愛かった。
特に、今回、マーリンの魅力倍増でした。
アメリカのスパイ組織ステイツマンのメカニック、ジンジャー(ハル・ベリー)と並んで「現場に出たい」と話してるのも可愛かった。同じ職種の同じ部署の者だけがわかる悩みを共有していた。

最後のバトルの時には、現場に出るということでスーツ姿も見られる。スーツ姿のマーク・ストロングはすごくかっこよかった。細身のスーツでスタイルの良さが際立っていた。
途中、ハリーとの会話で「俺の好きな歌手は?」「知るわけない」「ジョン・デンバーだ」というくだりがあるんですが、今回はマーリンの歌も聴ける。もともといい声なので歌声も素敵。
歌うのはジョン・デンバーと言えば、の『Take Me Home,Country Roads』。『ローガン・ラッキー』を思い出した。

ただ、あっけなく死んでしまうのは残念だった。格闘シーンもあるのかと思った。地雷を踏んで、足を離して爆散という死に方だった。せめて、格闘で死ぬことにしてほしかった…。

前作で死んだと思われたハリーですが、ポスターなどにも出ていて、そっくりさんなのかなとも少し思ったけれど、ハリーだった。
後出しというか、便利なスパイグッズを使ったそんな馬鹿なという生存方法だったのですが、そこは、きっとつっこんじゃいけないところなのだろう。
ただ、こんな風にして死んだと思っていた人が生き返るのならば、次作でマーリンも…と考えないことはないが、爆散していたので無理かな。でもまたおかしなスパイグッズでどうにかなったりして。私はマーリンというキャラが好きなので、そんな馬鹿なという方法でも生き返らせて欲しい。

本作のハリーは記憶をなくしている。
蝶の研究をしていて、優しそうだけれど、不安そう。物腰も柔らかく、「母に会いたい、帰りたい」と言っていた。
閉じ込められていて、ガラス越しに観察できるというシチュエーションもいい。壁にはハリーのものと思われる蝶の絵が描かれている。眼帯姿も良かった。

蝶の研究をしたい記憶喪失ハリーに向かってエグジーが、「だったら、俺で標本を作りなよ! 青虫だった俺を蝶にしたのはあんただ!」と言っていて、ブロマンス度が高いと思った。

また、結局、ハリーの記憶の戻し方も、エグジーが彼女ふられ、彼女との思い出の写真を見ていて、ひらめいてペットショップでハリーの思い出の子犬を買うという流れだった。彼女との思い出がハリーの記憶を取り戻す手段に変わってしまった。その流れでいいのか?

エグジーの彼女であるスウェーデンの王女の役割がいまいちよくわからない。
今回にもありましたけど、エグジーの任務に支障が出てきそう。

エグジーってたぶんモテるんですよね。コミュニケーション能力が高いし、まだ青臭いところも残っている。
序盤はスーツ姿で、それも素敵だったけど、普段着がまだまだ労働者階級の服装でそれはそれで良かった。
日常に対して、任務中はユニフォーム的にスーツを着る。これも、スパイ物というよりヒーロー物のようだ。

あと、気づいたんですが、前作時より私はタロン・エガートンのことを好きになってる気がする。それで本作が前作よりも好きになっているのかもしれない。

グラストンベリーのシーンですが、『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』でも出てきましたが、中にベッドがあるテント、すごいですね。まさにランデブーのためのテントというか。トイレもついていることを初めて知った。何度か出てきたけど、“旅の恥はかき捨て”のグラストンベリー版の格言みたいなやつは本当に使われているのかな。映画向けに作ったものではないのかもしれない。

エグジーはそこでターゲットの粘膜に追跡装置を付ける。鼻の穴とか言っていたから鼻の穴にするのかと思ったら、普通に女性器の中に入れていた。
ここで新しいのは、指と一緒にカメラも中に入っていくんですよね。これで年齢のレーティングを回避しているのすごい工夫だと思う。馬鹿カメラワーク。見たことない。

今回、アメリカ版キングスマンのようなステイツマンという組織が出てくる。キングスマンが表向きテーラーなら、ステイツマンは表向きはウイスキー工場。
建物自体がウイスキーの瓶の形をしていたり、樽型のエレベーターなのもこだわりを感じる。ケンタッキー州なのでカウボーイの格好をしているけれど、リーダーがジェフ・ブリッジスなのもおもしろい。カントリー俳優のイメージがある。

ステイツマンのメンバーの一人、ウイスキー(名前)の武器がレーザー投げ縄なのもおもしろかった。レーザー投げ縄って。
『キングスマン』でハリーがパブで絡んできたチンピラ相手にスマートに戦うシーンがある。それと同じことを2でもやろうとするが、勘が戻らずにへろへろになってしまう。
そこで、ウイスキーが前作のハリーのように投げ縄でスマートに戦う。前作オマージュである。

今回の悪役であるポピーの基地もおもしろかった。ダイナーやボーリング場、ドーナツショップなど、50年代風のレトロな作り。建物だけでも観ていて楽しい。

ここに乗り込んでいっての戦闘も楽しかった。
ハリーとエグジーが協力して二人で戦うのもアツいんですが、ゴロンと落ちてきたドーナツショップの看板の巨大ドーナツが転がっていて、その穴を使っての銃撃戦もよくできていた。
ポピー自体も上品なようでいて実はかなりサイコで好きでした。
ジュリアン・ムーアがはまっていた。

途中、スキー場の雪山とその頂上の建物が出てくるのですが、そうかなと思ったけれどやはり、スパイ物ということで『女王陛下の007』のオマージュではないかとのこと。
ただ、頂上の建物で爆発が起こったら雪崩が欲しいところではあった。
ついでに現場に出たいメカニックのジンジャーは、マニーペニー的な役割なのかなとちょっと思った。

あと、エルトン・ジョンがカメオだと聞いていたんですが、カメオではなく準主役級の働きを見せるし、出番も多い。それに、出てくるシーンが全部おもしろかったのが本当にずるい。

その代わりといってはなんですが、チャニング・テイタムは予告やポスター詐欺ではないかと思うくらい出番が少なかった。
眠らせられていて、露骨に出演シーンが削られている。チャニング・テイタム自身が多忙というスケジュールの都合らしいけど、だったら全然出て来なくても…と思ってしまった。
でも、最後に、スーツ姿でテーラーの前を歩いているシーンがあった。このスーツ姿がとてもいい。マーク・ストロングのように細身の人のスーツもかっこいいけれど、体格のいい人のスーツ姿はこれはこれでまたいい。丸っぽい帽子もかぶっていた。
全然出てこなかったじゃないか!と怒っていたけれど、最後のそれですべて許してしまったし、次作への期待も膨らんだ。

脚本のアラやいろいろ言いたいことはあるはあるけれど、そんな感じでまあいいかと許せてしまう。
以下は、気になったところです。

麻薬が栄養剤くらいの扱いになっていたけれど、海外ではそれくらいの認識なのだろうか。一部肯定するようなセリフもあった。日本人だからわかりにくいのかもしれないけれど。

あと、エグジーの彼女であるスウェーデンの王女ですが、最後には彼女とエグジーは結婚してしまった。エグジー、スウェーデンの王子である。
原作にあるのかどうかわからないけど、エグジーの属性がどんどん増えていくととっちらかってしまいそうだけどどうなのだろう。そもそも、前作で王女と恋に落ちたほうがよかったのかもわからない。
でも、ここで王子の服装のエグジーが見られたのは良かった。
あと、結婚式でリングピローに乗っていたのが金の指輪で、そのまんま今回の敵のゴールデンサークルだったんですが、ゴールデンサークルは壊滅したんですよね? 別に関係なく、普通の金の指輪なんだろうな…。

あと、もう一つ、一番気になってしまったのは、敵を2段階にする必要あったのかということです。
ポピーが魅力的な悪役だったため、彼女を倒してももう一人敵が来るとなると、結局ラスボスはどっちなの?となってしまう。
ゴールデンサークルとは関係ないにしても、ポピーが弱い印象になってしまう。

それは多分、最後に派手なアクションシーンを入れたかったからだと思う。
ポピーは女性だし、頭脳タイプで格闘タイプじゃない。アクションをしないのだ。
長回し格闘シーンは『キングスマン』シリーズのお楽しみだし、後半に入れたかったのだろうと思う。
ただ、これもとっちらかってしまったかなとは思う。

あと、ウイスキーが実は悪者だったという展開自体も必要だったのかわからない。ステイツマン全部が悪かったわけじゃなかったし、金儲けと言ってたけど動機が弱い。
一緒に働いていたジンジャーなども仕事ができそうだったのに完璧に信じていて疑う様子は少しも見せていなかったのは不自然。

でも、ここでの戦い自体は最高で、だからこのシーンを削って欲しいとは言えなくなってしまう。
襲ってくるのがステイツマンのウイスキーなので、投げ縄と銃の異種格闘技が見られる。

ちなみに、ここで流れている曲が絶対知っている曲だけど、カントリーアレンジになっているせいで、この曲なんだっけ?と思っていて序盤のアクションを見逃した。『Ward Up!』でした。

そんな感じで、アラはあるけれど、それを帳消しにできるくらいの超展開で盛り上がれるし、見終わったあとには細けえことはいいんだよといった具合に大興奮してしまう。吹っ切れ具合がたまらない。

ただ、前作はその細けえことが気になってしまって好きになれなかったので、出来がどうこうというより、単純に私の好みの問題かもしれない。
でも、本作を観て、『キングスマン』シリーズのことが嫌いにならなくて良かったと思った。次作も楽しみに待てるのは本当に良かった。
今の気持ちで1を見直してみたら好きになれるかもしれないとも思うのでチャレンジしてみようと思う。

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