『新感染 ファイナル・エクスプレス』



2017年公開。韓国では2016年公開。
走る電車の中にゾンビが紛れ込んでいて…というストーリーなので、タイトルは新幹線とかけたダジャレかと思いますが、不評だったのか場所によっては『新 感染』とスペースの空いた書かれ方をしている。原題は“釜山行き”、英語のタイトルも“Train to Busan”。

タイトルがダジャレだとただのB級パニックムービーなのかと思われそうですが、それだけではなく人間ドラマもしっかりと描かれていて面白かった。アメリカでのリメイクも決まっているらしい。

仕事優先の父とそんな父に不満を持つ娘が、おそらく夫に愛想をつかして出て行った妻に会いに行こうと釜山行きの電車に乗り込む。
一応この父親のソグが主人公だけれど、乗り合わせた高齢の姉妹や野球部の子たちなども描かれ、群像劇になっている。

また、ソグの娘スアンがトイレに入ろうとすると、ガラの悪そうな体格のいい男が「お嬢ちゃん、ここは二人入ってるから時間がかかる。別のトイレに行ってくれ」と言っていて、電車の中で売春でもやっているのかと思ったら、トイレから出てきたのは妊婦の妻だった。なるほど、二人…。見た目で判断してしまった。けれど、この男、サンファがとても真っ当でいい男だった。

電車の発車直前に明らかに状態のおかしい女性がふらふらになりながら乗り込んでくる。こいつがゾンビ化するのだろうなと思う。
ちなみに作品中でゾンビとは言われていなくて、謎の何かに感染しているという状態である。ただ、一度死んだあとで凶暴化し、生きている人間に噛み付いて、その人間がまた感染し……というルールなので、ゾンビととらえていいと思う。また、ゾンビルールとして、この作品のヤツらは走ります。

かなり序盤でその状態のおかしい女性は発症する。電車の中なので逃げ場もなく、人もたくさんいるので、最序盤で電車内にゾンビ大量発生が起こる。
こんなのどうしようもないけどどうするのだろうと思っていたら、車両をつなぐ扉を閉めると開け方がわからないというルールと、見えないと襲ってこないというルールが加えられる。

ゾンビとの戦いという極限状態の中で、人間性が見えてくる。サンファが妊婦の妻のことをとにかく第一に考えつつ、他の人間にも気を配っているのに対して、ソグは娘のスアンのことを考えつつもあくまでも自分と娘優先である。高齢者に席をゆずった娘に対して、「まずは自分の体力を温存しなきゃだめ」と諭したりする。スアンはこんな父親の元でもすごくまっすぐないい子に育っていた。父親の元というか、父親に育てられていないからかもしれない。

また、もしかしたらサンファだって、妻が妊娠する前はこんなに人に気を配れる人間ではなかったかもしれないとも考えた。この辺の説明はないのでわかりませんが、妊娠を機に変わったのではないかと思う。
サグについても出て行った妻のことは詳細には描かれないし、妻は出てくることもないけれど、人物像は想像できて、人物描写がうまいと思った。

走り続ける電車内にゾンビがいるというのはスリリングではあるけれど、ちゃんと場面の転換もある。途中駅で下車をして待っている軍隊に助けてもらおうとする。結局電車に逆戻りをすることになってしまう。しかも、戻った時には生存者が違う車両に分断されている。

別の生存者のところへどう向かうかというところで、トンネル内で暗くなるとゾンビの目が利かなくなるというルールが付加される。
ソグ、サンファ、野球部の男子、危ない目に遭いながらも逃げてきた男(『ダンケルク』の謎の英国兵的なポジション)が別の生存者の元へ向かっていくんですが、途中、ゾンビになってしまった野球部員たちに出くわす。
かつての仲間たちがゾンビになってしまった時に殺すことができるか?というのはゾンビ物に必ず入れて欲しい哀愁のあるエピソードである。本作でもやはり殺せずに躊躇しているんですが、途中でトンネルに入ったことで殺さずに逃げることで回避することができてよかった。

向かっていく時に、サンファは体格がいいと思っていたけれど、腕っ節も強くて本当に頼りになる男だった。自分のことしか考えないソグに厳しい言葉を浴びせかけて、二人は険悪になったりもするけれど、お互いに嫌なやつではないのはわかっていて、良いライバルのようになっていた。

しかし、生存者の中でも、彼ら四人と妊婦の妻や娘など仲間以外の人間は、ゾンビの中を越えてきた彼らが感染しているのではないかと疑い、隔離を促す。結局、ゾンビだけでなく、生存者も敵になってしまった。その中でサンファはみんなを逃がすために自分が犠牲になるという本当に恰好いい死に方をする。

このあたりから主要メンバーもばたばたと倒れ始め、一体誰が生き残るんだろうと考えながら観始めた。
映画だと悪い奴は残酷な死に方をする法則というのがあると思う。
生存者の中に自分だけが生き残れば他の人間はどうなってもいいと考えるような本当にどうしようもない人間がいた。ソグたちを隔離しようと言い出したのもこいつだし、自分を助けるために奮闘した乗務員や、電車を降りてきてまで救おうとした運転士を犠牲にして自分は生き残るなど、本当にとんでもなかった。しかもわりと終盤まで生き残る。さぞ残酷な死に方をするのだろうと思っていた。けれど、正気を失いながら、ほぼ感染しているのに「家に連れて行ってほしい。お母さんに会いたい」とか「怖かったんだ」とか弱音を吐き始める。ヘイトをためるだけためてから、こいつも根っからの悪人ではないんですよ、許してあげてねというのを見せるのはなかなかずるい。でもこの描き方は嫌いではないです。

一方ソグですが、彼も最初は娘以外のことは考えていなかったし、電車に乗る前は娘のことすら考えていなかったと思う。けれども、この騒動の中で考えを改めているようだったし、娘と共に命からがら釜山まで着いて、娘と妻と三人で仲良く暮らしていくのだろうと思っていた。
しかし、途中で彼が株を操作して救った会社がこのゾンビ騒動の原因だったということがわかる。直接ではないにしても、間接的に原因を作っていたのがソグだったのだ。しかも、家庭を顧みずにしていた仕事は真っ当とは言えないものだった。
この事実が判明して、それならソグもきっと死んでしまうのだろうと思った。実際に死んでしまいました。
物語の中で人が死ぬのって報いとか罰みたいなものだと思っていた。家族を大切にすることにしたのだからそれで罰は免れただろうと思ったけれど、それでは足りなかったらしい。
死ぬ直前でソグは、スアンが生まれてきた時のことを思い出す。赤ちゃんを抱っこしているソグは優しそうで幸せそうな顔をしていて泣けた。おそらく道を誤ったのはその後なのだろう。
それにしても、群像劇だから厳密には違うとは思うけれど、ソグが主人公的な立場だと思っていたので結構厳しいなと思ってしまった。

結局生き残ったのはサンファの妻とスアンである。ゾンビか生存者かわからなくて軍隊に撃たれそうになるが、生存者だと示される方法が、スアンが父のために練習したという歌を歌いながら歩いていたからというのも泣けた。

電車が舞台のゾンビ物というのも面白いし、ゾンビルールやゾンビ物特有の哀愁もしっかり取り入れてあってよかった。ゾンビ映画としても優秀だと思うけれど、その実、しっかり人間ドラマにもなっていた。

また、韓国映画をあまり観ないため、別の映画で人物の区別がつかなくて、死んだと思っていた人が別の人物で、話がまったく理解できないということがあった。吹替だったり知っている俳優が出ていればこのようなことはなかったと思う。
今回もそれが不安でしたが、主人公は細身のイケメンスーツ(大沢たかおに似ている)、ソンファは体格が良く服装も奇抜、野球部員は全員ユニフォーム、高齢姉妹も外見が特殊である。乗務員たちも制服を着ているし、軍隊も軍服を着ている。
登場人物が多い割に属性ごとに服装がちゃんと違っていたので混乱することなく観られた。

あと、やはり最近の流行りなのかもしれないけれど、これもいわゆる三幕構成とか起承転結ものではない。ひたすらサバイバル、一難去ってまた一難の連続である。
ちなみにリバイバルで観たんですが、同時上映が『ダンケルク』で、なるほど、構成は似ているし、やはり『ダンケルク』は戦争映画というよりもはらはらするスリラー映画だと思った。

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