『パリで一緒に』



1964年公開。昔の映画だから楽しめるか不安だったけど、とてもおもしろかった。

脚本を書かずに遊びほうけていた脚本家のもとにタイピストが来る。締め切りまで二日というところで、彼は即興で脚本を作り始める。
タイピストのギャビー役にオードリー・ヘプバーン、脚本家ベンソン役にウィリアム・ホールデン。

脚本家は口頭でストーリーを説明していくんですが、それと同時に劇中劇が始まる。タイプライターを叩く音が入っているのも楽しい。
話を途中まで進めて、うまく進まなくてやっぱりやめたりするのも全部映像になっているのも笑ってしまった。最初の黒衣の女がエッフェル塔に立っているのとか、誰が見てもダメ映画っぽかった。

ギャビーにはボーイフレンドがいて、彼と一緒にパリ祭に行くという話を聞いて、ベンソンはボーイフレンドもストーリーに出す。
ボーイフレンド役にトニー・カーティス。これも、ギャビーが「彼はトニー・カーティスに似てるわ」と言ったからこうなった。他にも、「ここで主題歌はフランク・シナトラにしよう」と思いつきで言うとフランク・シナトラの歌が流れたりと、豪華カメオが多数。
しかも、トニー・カーティスは名前も覚えてもらえないし、劇中でも散々「お前のような端役は…」と言われていたり、散々である。

劇中劇のヒロインはギャビーで、突然現れる謎の男役がベンソンである。ボーイフレンドをいきなり殴ったり、ギャビーのハートを射止めたりと、劇中劇でいい男っぷりを発揮しているあたりが都合が良くて、自分で書いた脚本という感じだった。

劇中劇ではギャビーの意見も取り入れられていて、ヴァンパイアが出てきてモンスター映画になったり、飛行機に乗って逃走したりととっちらかっていた。
けれど、本編部分では二人は部屋の中にいて、基本、ベンソンの話すストーリーをギャビーがタイプしているだけというのが面白い。でもその中でも二人の関係性は少しずつ変わっていく。キスは、一番最初に真っ白い原稿を見せていた時点でしてたけど。

劇中劇は基本的にサスペンスだそう(これはベンソンがそう言っているだけなので、観客自身もベンソンの語りがどこへ向かっているのかわからない)なので、銃も出てくる。実はヒロインがスパイだったりもする。
ラストにはベンソンが撃たれて死んでしまう。ここで撃つのがいままで散々な扱いだったトニー・カーティスなのも、最後くらいは花をもたせたのかなと考えてしまった。

ギャビーは、劇中劇をたどりながら自分もベンソンのことが好きになったので、「なんとか死なない方法はないのか」と打診する。
でもベンソンも劇中劇を通してか、ギャビーの気持ちに気付いたからか、ギャビーには自分は似合わないと言い、酔っ払って暴言を吐く。もともと、周囲から、女に弱くて酒が好きで仕事はしないとの悪評が高い人物だったみたいだし、自分でもそう思っていたのだと思う。

けれど、翌朝、冷静になってギャビーが出ていったのに気付いて慌てていた。実は、暴言を吐いて、ギャビーが失望して映画が終わるのではないかと思っていたので、続いてくれて良かった。

ギャビーは鳥かごを部屋に忘れていく。ベンソンも、「その手は幾度となくつかったし成功率は高い」と言っていたので、たぶんギャビーもわざと忘れたのだと思う。
そして、劇中劇のようにボーイフレンドを殴ってギャビーを連れ出す。しかしこの先は劇中劇とは違う。劇中劇の通りだったら最後に撃たれてしまう。
だから、サスペンスではなく、ラブストーリーを書くことにしたと言う。

劇中劇があれだけとっちらかっていたのに、本編がこんなに綺麗にまとまったのはうますぎて唸った。しかも、「ポップコーンの売り上げを上げるために、有名俳優の顔の大写しで映画が終わる」という劇中劇中に出てきた皮肉セリフを最後に言って、二人はその通りにアップでキスをして、THE ENDの文字がスクリーンにタイピングされるという…。ちょっとうますぎて驚く。
これが1964年の映画ですよ。昔の映画とは思えない。しかも、これは1952年の映画だというからもうどうしたらいいかわからなくなってしまった。文句のつけようがなくおもしろかったです。

あと、オードリー・ヘプバーンが上唇を上げたり、舌なめずりをしたりと、わりと変な顔をしておどけるのもキュート。こんなコミカルな演技もするんですね…。


0 comments:

Post a Comment