『ナショナル・シアター・ライブ:エンジェルス・イン・アメリカ 第一部 至福千年紀が近づく』



イギリスのナショナル・シアターで上演された舞台を中心に、映画館で上映するプロジェクト、ナショナル・シアター・ライブ。2014年から日本でも上映が始まって、なかなかイギリスまで観に行けない中、こういった形で鑑賞できるのは非常にありがたいと思っています。

2018年第一弾は、『エンジェルス・イン・アメリカ』の第一部。初演は1989年、第一部、第二部が通しで上演されたのは1992年とのこと。今回は2017年に上演されたもの。
テレビシリーズにもなっていて、2003年にはアル・パチーノやメリル・ストリープ出演で製作された。

舞台は1985年、レーガン政権下のアメリカ。エイズ患者が爆発的に増加した時代(日本で初めてエイズ患者が確認されたのも1985年)。
アンドリュー・ガーフィールド演じるプライアーもエイズに罹ってしまう。恋人のルイスは、プライアーを愛する気持ちは残っていても病院に見舞いに行ったり看病することはせずに逃げてしまう。
ひどいと言われているようだけれど、その気持ちもよくわかる。好きな人が弱っていくのを見るのは耐えられない。ましてや、これ以上好きになって、死んでしまったら余計につらい。だから、早い段階で忘れてしまいたい。

けれど、それはルイス側の事情で、プライアーのことを考えたら確かにひどい。一番そばにいてほしい人がいない。
怒ってルイスのことを追い返していたけれど、夢(?)の中ではタキシードを着たルイスとムーンリバーを踊っていて泣いてしまった。一番大切な人は変わっていないのだ。

ルイスだって弱くて悩んで迷っているだけなのだ。政治的なことをぺらぺら話し続けるシーンは、そうしないと聞かれたくないことを聞かれそうでそれが嫌だったのだろうし、考えなくていいことを考えてしまいそうだと思ってるんだろうなと思いながら見ていた。本当は人種差別主義者ではないのだろうけれど、あることないこと、余計なことまで話して友人を呆れさせていた。

ルイスとプライヤーの話と、裁判所の首席書記官ジョセフの話が同時進行していく。ジョセフの妻ハーパーは精神安定剤を飲み、妄想の世界へ逃げ込んでいる。また、目をかけてもらっている弁護士のロイからパワハラまがいのことを受け、不正を働けと言われる。

ステージにセットが横に並んでいて、片方でジョセフの話を、片方でルイスとプライヤーの話が別々に展開することが多かった。一度、その二つが同時に行われるシーンがあって迫力があった。
ジョセフが家で妻に責められているシーンと、ルイスがプライヤーに病室で出て行けと言われるシーンだ。両方とも強い言葉で責め立てられていて、しかも相手の言い分がもっともであり、でもどうしようもないという事柄だったので、つらさや厳しさが一緒になって押し寄せてきた。

逃げたいルイスと逃げたいジョセフが出会う。二人とも自分は優しくないと言っていたけれど、相手のことは優しい人だと言っていた。二人とも根っからの悪人なわけではないのだ。それに、お互いがなんとなく似ているところもあると思う。だから親しくなるのもわかる。
ジョセフを演じているのがラッセル・トービー。『パレードへようこそ』や『ドクター・フー』などにも出ていて、他でも見かけるとちょっと気になる俳優さんです。ジョセフとルイスのこの邂逅シーンはこの舞台の中で一番優しかったと思う。特に、“Touch you.”と言って、ルイスの頬に触れるシーンがとても好きでした。

プライアーは病気の進行とともになのか、妄想を見始める。医者にはストレスと言われていたけれどどうなのだろう。
ただ、本人は怯えていたから可哀想ですが、その様子がおかしいやら可愛いやらで会場からは笑いが起こっていた。本の一節のようなものを口走ってしまい、両手で慌てて口を塞いだり。妄想の火柱が上がるシーンではその仕掛けに拍手も起こっていた。
先祖が訪ねてくるシーンでも、ニンニクと十字架と聖水で対抗して「招いてないぞ!」と言っていた。それは吸血鬼への対処法だ。

第一部の最後でプライアーの病室に禍々しい存在が出現するが、あとで調べたらあれが天使らしい。どちらかというと悪魔のようでしたが…。あの存在はプライヤーに何をもたらすのだろうか。

実は、アンドリュー・ガーフィールドは今までそれほど演技のうまい俳優とは思っていなかったんですが、今作はとても良かった。一気に好きになりました。そもそも、去年も『ハクソーリッジ』で主演男優賞にノミネートされていたしうまい人なんですね…。
序盤で女性っぽい話し方をするシーンや女装シーンがあって、2014年リリースのアーケイド・ファイアの『We Exist』のビデオクリップを思い出した。



ルイスを演じたのがジェームズ・マカードル(マッカードル)。2012年の舞台『炎のランナー(Chariots of Fire)』でジャック・ロウデンとダブル主演のようになっていた(未見なので詳細不明)。また、『ベルファスト71』や今年公開される『Mary Queen of Scots』でもジャック・ロウデンと共演。
あと、『スター・ウォーズ』にニヴ・レックというレジスタンスのパイロットとして出演しているらしい。

結局、第一部ではルイスはプライヤーから逃げたままだった。なんとか仲が修復されるといい。上映前に流れた脚本のトニー・クシュナーのインタビューでは突き落としてから上げるというようなことを言っていたので、幸せに終わると信じている。
カーテンコールで真ん中に立つアンドリュー・ガーフィールドとジェームズ・マカードルが離れづらそうに手を離して両側にはけるのが印象的だった。

また、当時のアメリカの描写を見ていて、保守的なレーガン政権は今のトランプ政権とも似ているように感じた。同じ共和党員だからかもしれない。
ただ、「アメリカはどんな人種がいても許されるけど、ヨーロッパでは許されない」というセリフがあって、当時よりひどい状況なのかなとも思った。

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