『レディ・プレイヤー1』
Posted by asuka at 11:48 AM
最初に予告を観た印象だと全編CGでゲーム内の話だけなのかと思っていたし、それをスピルバーグが撮ることに意外性を感じた。
しかし、観てみると、本当に面白かった。これがスピルバーグの力か!恐れ入りました!
ゲームの舞台は2045年。荒廃した未来で、VRの“オアシス”というゲームが流行っていて、人々は食事や寝る時以外、ゲームの世界で生活している。
そのゲームを作ったハリデーは、ゲーム内にイースターエッグを隠した、見つけた人にはオアシスの所有権を譲ると遺言を残して亡くなる。
予告を観ただけだと、オアシスの世界での所有権をめぐる大企業や若者たちの戦いを中心に描かれるのかと思っていた。ただの宝探しアドベンチャーではない。
最近公開された『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』みたいにアバターたちの活躍を見る映画なのかと思ったけれど、それあけではないのだ。
まず、イースターエッグを探す映画にイースターエッグがたくさん隠されているという仕組みがおもしろい。
イースターエッグといえば、ディズニー映画に隠れミッキーがいたり、ピクサーには“A 133”が隠されているのが有名ですが、この映画はそこかしこに70年代80年代のアニメ、映画、ドラマ、音楽などの要素が散りばめられている。
この映画のパンフレットがそれをつぶさに解説していて、ほとんどポップカルチャー辞典のようになっているが、それを見ても、また解説のブログを見てもまったく拾えていないことがよくわかった。それだけ細かい。
以下、ネタバレです。
オープニングは現実世界のウェイドの様子から始まるが、未来の集合住宅は本当に住宅が簡易的に集合してるだけだった。棒を使ってするする下に降りてくるのをカメラが追う。映画のオープニングで朝といったら、普通はワクワクしそうなものだけれど、これほど落ちこむのも珍しい。いかに世界、というか、彼の毎日が退廃しているかがよくわかる。
しかし、それの対比のように、彼がゴーグルをつけてオアシスの世界に入った瞬間、ばっと視界が広がる。閉じていた世界が広がる。オアシスの世界がいかに魅力的かというのがよくわかって、ワクワクしてしまった。
ウェイド目線なので観客もオアシスへつれていかれるのだ。3Dメガネをかけてるから、余計に自分がプレイしていると錯覚してしまう。
だから全方向見られるような錯覚に陥って、つい顔を横に向けてしまいそうになった。カメラの動きよりも先に観たい感じ。
また、ゲーム内の友達、エイチと一緒にイースターエッグである最初の鍵を手にいれようとするレースシーンは、ウェイドが「レースが始まるぞ」と声をかけた瞬間から既にワクワクしてしまった。
車やバイクのレースなんですが、これもレースを実際にやっている感覚が味わえる。IMAX3Dで観ましたが、椅子が動いてほしかった。でも4D系の小さい画面よりは大きいスクリーンのほうが楽しいと思う。
難しくてクリアできないと言っていたけれど、コースの形状の難易度かと思ったら途中で恐竜が襲ってきたり、キングコングが出てくる。なぜ巨大ゴリラではなくキングコングだってわかるかというと、最初はエンパイア・ステート・ビルに登っているから。それがレーシングコースに飛び移ってくるのだ。本当に怖い。それが車を手で引っつかんでガブガブと食いちぎる。怖い。でも私はゲームが下手なので、終盤のここまでもたどり着けないと思う。映画で体験できるのが楽しい。
二番目の鍵を得るために、ウェイドたちは『シャイニング』の世界へ入っていく。ここも、『シャイニング』と言えばシンメトリーですが、世界に入っていくときの映画館のドアを開けた時からもうシンメトリーで興奮しました。例の双子や237号室が出てくる。3Dで『シャイニング』の世界へも連れて行かれた。
三番目の鍵を手に入れる最終決戦前にはもうオアシスだけではなく、現実世界が随分関わってきていた。そこも面白かった。ゲーム内だけでは解決せずに、ちゃんと現実世界での問題とも対峙している。だから、『アバター』や『魔法にかけられて』のような向こうの世界に行きっぱなしのものでもないし、行きて帰りしともちょっと違う。劇中では頻繁に現実世界のことも描かれている。
最終決戦時にはゲーム内での友達とも現実世界で顔を合わせる。パーシヴァル、アルテミス、エイチは主要キャラだからアバターの段階でも注目していたけれど、ダイトウとショウについては日本なのかわからないけれどアジアっぽい脇役だなとしか思っていなかった。けれど、現実世界の彼らが片方が日本人の男性、片方が11歳の中国人男児とわかったときに、一気に彼らに対する関心度が高まった。現実世界を見せることで逆にアバターのキャラも気になるようなうまい作りになっている(スピルバーグ監督だから当たり前ですが)。それかキャラ選びが素晴らしい。次回見たときには、ダイトウとショウも最初から気になると思う。
また、映画情報サイトでガンダムが出ることは知っていたんですが、知りたくなかった。ダイトウが瞑想みたいなのをしていて一切戦闘に関わってこない時も、ああ、たぶんガンダム関連だな…と思ってしまった。それでも、「俺はガンダムで行く」という日本語セリフは本当に熱くなった。決めポーズもバッチリしてた。
また、流行りなのかもしれないけれど、この映画も搾取され続けた民衆による蜂起が起こる。わかっていたけれど遠くから多数のアバターたちが駆け寄ってきたり、現実世界ではゴーグルをつけた市民たちが戦っていたりという姿は勇気が湧いてくる。
細かいイースターエッグについては本当にまったく拾えていない。最初のレースにも様々な車が登場していたようだし、エイチの格納庫にもいろんな機体があったらしい。クラブや最終決戦など、人数が多い場面にはもちろん多々紛れていたようだけれど、ほとんど見つけられなかった。
時間を戻すゼメキスのルービックキューブやメカゴジラなど、登場シーンにそれぞれのテーマ音楽が使われていたのはにやりとさせられた。
音楽についても70年代80年代の曲が多く使われていた。個人的にはクラブのシーンでNew Orderの『Blue Monday』が使われていたのが嬉しかったんですが、これもパンフレットによると、クラブのシーンでDJをしてたのがR2-D2で、曲自体もドロイドの音声サンプルが使われた88年のリミックスバージョンだったとか。そんなの知らないよ…。
このあたり、映画を作る側も相当好きなんだろうなと思うけれど、映画内のこのクラブはハリデーが作ったものということで、ハリデーがその辺のことが好きなのがよくわかった。
すごく未来の話のような気持ちで観ていて、それでもハリデーは70年代80年代のポップカルチャー好きということは、架空の70年代80年代が未来にもあるのかな、流行は周回するとか?と思ったのですが、ハリデーが1972年生まれということで、そこまで未来の話でもないし、80年代なんかはリアルタイムでハリデーの青春だったのだと思う。
オアシス内での鍵を探す冒険は、もちろん一攫千金宝探しの面もあるけれど、ハリデー自身の人生を辿っていったり、彼のことをよく知る行為でもあった。
ゲーム内でのCG満載、イースターエッグ満載の映像にワクワクしながらも、並行してハリデーの物語が描かれている。ハリデーももう一人の主人公だと思う。構造としてもうまい(スピルバーグ監督です)。
だから、ハリデーのことを心から尊敬して憧れていたウェイドが勝ち上がるのは当然のことなのだ。
また、最後にハリデーが自身の子供部屋にウェイド(パーシヴァル)を招待して、「生きてるの? アバターなの?」という質問を投げかけられていたけれど、アバターだとしたらガンダルフみたいなやつだし、もちろん肉体は死んでいる。けれど、ゲームの中では生き続ける。これは本でも音楽でもアニメでも映画でもなんでもそうだ。作者は死んでしまっても作品は残って、その中で作者は生き続ける。この映画に散りばめられている様々なポップカルチャーの数々だって、もう作者は死んでしまっているものも含まれているだろう。それでもこんな風に残るのだ。
また、ハリデーによる「ゲームを遊んでくれてありがとう」というセリフがまた泣ける。ゲーム=ハリデーの人生だとすると、激ムズのゲームに最後までたどり着いたウェイド(パーシヴァル)に対して、「私を理解してくれてありがとう」と言っているかのようなのだ。作者との心のふれあいが見られる。
ハリデーは人付き合いが苦手で、好きな女性にもキスできないし、共同経営者であり友人だったモローも失う。終盤でモローを失ったことを後悔していたことがわかるが、もしかしたらモローだったら探せるのでは?と思って、人生を辿るような形で鍵を隠したのかもしれない。もしかしたら、死後はモローに譲ろうとしていたのかもしれない。
モローも株を放棄させられたということで、本当だったらハリデーの死後にしゃしゃり出てきて、大企業ではなくて彼がラスボス化してもおかしくなかったと思う。でもそうならなかったし、それどころか、案内人として、パーシヴァルたちを近くで見守っていた。
案内人、顔や声の感じからマイケル・ケインだと思っていました。サイモン・ペグの声真似だった(マイケル・ケインの声真似をしていたかどうかは不明)のがわかったとき本当にびっくりした。
そうすると、ハリデーがアーカイブから女性の話を削除したことは知っていたのかどうかが気になる。そんなはずはないと言って検索してたけれど、知っててわざと賭けに応じてコインを授けたのかもしれない。彼は優しいから。
ウェイドの部屋には『END OF A JOURNEY』という見出しとモローの顔写真ついた新聞記事が飾ってあった。これはおそらく二人が仲違いした時のものだろう。映画を最後まで観た後だと、この記事を見上げるウェイドの写真(パンフレットに載っている)だけでも泣きそうになってしまった。
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