『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』



原題『The Post』。おぼえにくいタイトルだと思っていたけれど、ワシントンポスト誌の話なので、内容を知ればなるほどと思うタイトル。
アカデミー賞、作品賞、メリル・ストリープが主演女優賞ノミネート。
監督はスティーブン・スピルバーグ。スピルバーグ監督といえば、『レディ・プレイヤー1』も公開間近(アメリカでは3月末に公開された)で、どうスケジュールを調整してるのかと思ったら、本作は脚本が映画化の権利を得たのが2016年10月、トム・ハンクスとメリル・ストリープにオファーがいったのが2017年3月、そのあと監督をすることに決めて5月末から撮影をして、アメリカでは12月には公開をされているので異例のはやさである。
そのため、1970年代の話ではあっても、政府対報道機関、女性の地位向上など、テーマは今の時代に合ったものとなっている。

以下、ネタバレです。












ベトナム戦争について分析した、アメリカが不利であることが書かれた文書。政府はそれを隠し、若者たちを戦争へ送り続けた。その内部告発とそれを報道する新聞社の戦いが描かれている。

政治もので実話だし、新聞社の戦いなんて真面目そうだし退屈そうと思うかもしれない。導入部分は字幕を読むことに必死になってしまい、なかなか入りこむことができなかったが、途中からの盛り上がりで一気にのめりこんだ。

映画は主に二人の人物を中心に描かれる。
ワシントン・ポスト紙の経営主だった夫が自殺してしまい、急遽、会社を引き継ぐことになったキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)。45歳まで普通の主婦で、働くのもこれが初めてなのに加え、この時代の女性経営主である。周囲も彼女を信用しておらず、外部から口を出して丸め込もうとする。
実際、序盤は頑張っている感じはしても、ほわほわしていていまいち任せられない雰囲気もあった。メリル・ストリープの演技力です。

もう一人はワシントン・ポスト紙の編集、ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)。こちらはやり手なんでしょうが、スクープをライバルのNYタイムズにすっぱ抜かれて、焦っているのか、猪突猛進型で何か失敗しそうに見えた。周囲の意見も聞かなそうだった。こちらもトム・ハンクスが素晴らしい。個人的には『キャプテン・フィリップス』のあたりから、トム・ハンクスが好きになってしまった。その前までは、トム・ハンクスはトム・ハンクスにしか見えなかったけど、最近のなりきり演技が好きです。『ウォルト・ディズニーの約束』もウォルト・ディズニーにしか見えなかった。今回もベン・ブラッドリーご本人の奥様があまりにも似てて泣いてしまったらしい。

キャサリンとブラッドリーはペンタゴン・ペーパーズの一件の付近では仕事を一緒にし始めて5年だったらしいが、お互いにお互いのことをよくわかってなさそうだったし、信用もしていなさそうだった。ブラッドリーも重要なことをキャサリンに隠していたりする。
しかし、ペンタゴン・ペーパーズについての記事を載せていいとキャサリンが決断したことで、見る目が変わる。

ここの決断シーンはキャサリンの気持ちになると、ほぼ捨て身だったのだろうと思う。
しかも、役員の引退パーティー中である。会社の資金提供者たちが集まっている。
彼女が記事を載せる決断をすることで、ここに来てる人全員が被害を被るかもしれない。しかも、ここにいる全員には何も言わずに決断をした。もちろん自分も投獄されるかもしれない。
キャサリンを中心にしてカメラがぐるりと周囲をまわる。周囲が全員敵に見えて、威圧感を受けた。
彼らを敵に回すことで資金を提供してもらえなくなるかもしれないし、そうなれば当然倒産する。愛する夫から引き継いだ会社をつぶしてしまうかもしれない決断なのだ。
でも、ことなかれ主義に別れを告げて、政府というとてつもなく大きいものに戦いを挑んだ。それだけ戦争を止めたかったのだと思う(だからやはり、先日観た『ウィンストン・チャーチル』よりはこちら派)。

ここで彼女はここにいる役員たちとは別になって、孤立した。けれど、ブラッドリーとの絆は深まった。

二人が恋愛関係じゃないのがいい。恋愛でなくても信頼し合っていて、そのタッグがアツい。この二人のキャラクターが映画を面白くしているという面もあった。
二人は正反対だけど認め合っている。互いが互いを補っていて、それが巨大な悪を倒す力になる。なんとなくヒーローものっぽい。

戦うのはこの二人だけではなく、少ないけれど周囲の人物も助けている。人々がいるべき場所でやるべきことをする、これも一種のお仕事映画であった。

取材をして記事を書く人、校正する人、写植の人、印刷機の前で待機してゴーサインで動かす人、刷り上がった新聞を配達する人、販売所の人…。その後、やっと読者の元にわたる。


昔の印刷機のつぶさな描写も良かった。よく新聞が刷られるシーンは出てくるが、ここまでちゃんとした印刷シーンは初めて観た。出来上がった新聞が昇り竜みたいにくねくねと上がっていくのがおもしろかった。
また、ワシントン・ポストの会社の一階に印刷所があるらしく、上の階で記事を書いている社員が印刷機が動き出したのかわかるという描写も良かった。

新聞配達の人は、販売所の前に捨てるように放り投げていて、販売所の人はそれを拾いに行って店頭に並べていた。その辺も知らなかったので面白かった。

それ以外にも、弁護士や、ライバルのNYタイムズ、また小さな新聞社も恐れずに報道し始め、続々と仲間が集まっていく。一つ一つは小さな力でも、合わせれば大きな悪に立ち向かえるというのがわかり、勇気がわいた。

最後、もうワシントン・ポストはホワイトハウスには入れるなとの電話音声が流れる。
しかし、謎の進入者が!…というところで映画が終わる。
やっぱりヒーローものじゃないか。
彼らの戦いはここで終わらず次なる悪と戦うことがわかる。今後の活躍を示唆されるのだ。彼らの戦いは続いていく。
まるで、アベンジャーズ方式である。

ちなみに、ウォーターゲート事件を暴くワシントン・ポスト紙の姿は『大統領の陰謀』(1976年)にて描かれている。ベン・ブラッドリーも出てくるとのこと。

現代にも通じる話である。つい先日、アメリカの地方テレビ局数局のキャスターが一言一句変わらぬ言葉を読み上げるという不気味なことがあった。フェイクニュース批判だったらしいが、保守系のメディア、シンクレアが指示したものだったらしい。
もう、誰とは書かないけれど、はやくやっつけてほしい。まだ悪は蔓延っている。


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