『ドント・ウォーリー』



ジョン・キャラハンという実在の風刺漫画家の自伝を基にした実話。レッドブルのCMっぽい絵柄なんですが、検索をしても出ないのでおそらく別人。
原題は『Don't Worry, He Won't Get Far on Foot』。自伝のタイトルもこれ。追っ手のカウボーイたちが人の乗っていない車椅子を見つけ、「大丈夫だ、彼は遠くには行けない」と言っているという自虐ギャグ。
本作は自伝を読んだロビン・ウィリアムズが映画化を熱望したらしく、20年前には話が出ていたらしい。ジョン・キャラハンと同じく、ロビン・ウィリアムズも同じくアルコール依存症だったそうなので、その面で共感をしたのかもしれない。
しかし、2014年にロビン・ウィリアムズが亡くなってしまい、ガス・ヴァン・サントはそのまま監督をひきついで、2016年に新たにホアキン・フェニックスを主役として作る製作発表が行われたとのこと。

他の出演者はジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック、あとキム・ゴードンも出てきて驚いた。

Netflixで配信中のリッキー・ジャーヴェイス主演の『After Life/アフターライフ』と似ていると思った。

以下、ネタバレです。『After Life/アフターライフ』のネタバレも含みます。







まったく前情報を入れずに観たので、実話なことも知らなかった。
車椅子なのも先天的な病気なのかと思っていた。車椅子の方がくじけそうになりながらも周囲の人の優しさに触れる映画なのかと思っていた。周囲の人たちは無条件で優しいと思っていた。

けれど本作はジョンは交通事故により体が麻痺してしまう。しかも、交通事故の原因が飲酒運転だ。車椅子生活になってからもアルコール摂取がやめられない。アルコール依存症なのだ。酒を飲んでいたことを思い出す描写があるけれど、本当においしそうにお酒を飲んでいた。観ていても飲みたくなってしまうほどだ。車椅子での生活はもちろん描かれているけれど、それよりもアルコール依存症との戦いが主になっているようだった。

車椅子が必要になっても性格は変わらない。むしろ、さらにひねくれる。しかし卑下というよりは、もともとの皮肉っぽい性格が増幅しているようだった。
しかし、ジョンの目から見たら幸福そうに見える周囲の人たちも、様々な悩み……悩みというには生ぬるいものを抱えていた。彼らと交流したり優しくされるうちに、自分の今までのひどい態度を反省して、過去に関わりのあった人に謝罪し、許していく。

ジョンに関しては自動車事故が一つの転機なったけれど、『After Life/アフター・ライフ』のトニーは妻の死をきっかけにする。トニーは意地悪でひねくれている。最愛の妻が亡くなったものだから、止める人もいないし、別にいつ死んでもいいと自暴自棄になっている。
ジョンは自殺願望はないようだった。自暴自棄とも違う。けれど、ジョンにしても、トニー にしても、周囲に優しい人たちがいて、寄り添っている。本人たちは気づくのが遅れるが、後からちゃんとそれに気づき、自らの行動を振り返ろうと、優しい人々の元に訪ねていくあたりが似ていた。ジョンにしても、トニー にしても、嫌な奴でもあるとは思うが、根はいい人なのだ。

本作では周囲の人物の中でもキーマンになっているのがジョナ・ヒル演じるドニー だった。アルコール依存症を克服する団体を作っている。自らもアルコール依存症で、HIVを患っている。祖父母の代から金持ちで、団体の中で何人かに小さなグループを作らせて、特別なプログラムで依存症から立ち直らせようと援助金を出しているようだった。

老子を読んでいる影響なのか、ジョンにも教えを説いていて、師匠のようだった。華美な家に住んでいて、髪も長いので人間離れして見えたが、後半で個人的な出来事も語っていて、普通の人間なのだとわかる。個人的なエピソードを語るシーンはジョナ・ヒルが付け加えたアドリブらしいのが素晴らしい。

もう一人のキーマンがジャック・ブラック演じるデクスターで、自動車事故は彼とジョンが泥酔して起こしたものだった。しかも、彼自身はかすり傷だという。
運転していたのはデクスター だし、元々、遊びに行こうと声をかけたのも デクスターだった。しかも、軽傷ということで、それは恨んでしまうだろうし、妬みも感じると思う。しかし、ジョンだって、その前から酒を飲みながら車を運転していた。女性二人を乗せていたが、あの場で事故に遭ってもおかしくなかったのだ。それを思ったのか、ジョンは デクスターを許す。見舞いに来はしなかったが、自ら会いに行く。
当たり前だけれど、怪我を負わせた側もずっとそのことを考えていたのだ。人生は最悪だったと言っていた。体に障害は残らずとも、ずっと負い目を感じて生きていたのだ。ジョンのほうが開き直ってすっきりしていたようだった。
ジャック・ブラックは事故までの泥酔シーンも悪友としてうまかったが、この再会シーンも本当にうまかった。

自分を捨てた母など周囲の人々を許し、それから、自分も許してやることが大切だとドニーは言った。周囲を許しても、結局すべては自分のせい、となってしまっては元も子もない。起こったことは起こったことで、誰のせいでもないのだ。

ジョンは街を電動車椅子で爆走していて、その様子は清々しいほどだった。ガス・ヴァン・サントは実際にジョンが爆走しているのを見かけたという。本当にあの調子で駆け抜けていたらしい。

映画内で電動車椅子を最初にあてがわれるシーンも良かった。ジョンの表情は未来を手に入れたといった感じにきらきらと輝いていた。
麻痺をしていても、家に閉じこもるわけではなく、フットワークが軽いのだ。

爆走しているから横に倒れてしまうが、スケボー少年たちに起こしてもらっていた。ちょっと悪そうな子たちだからいじめられたりしたらどうしようとも思ったが優しい。何度転んでも周囲に助けてもらえるのだから、周囲に感謝の気持ちは忘れずに、でも好きにやろうという彼の人生が集約されているようだった。

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