『アナと世界の終わり』



邦題は『アナ雪』からかと思ったけれど、原題がAnna and the Apocalypseなのでそのまんまだった。
青春ミュージカル+ゾンビ映画という食い合わせが悪いとしか思えない、でもおもしろそうな組み合わせで気になっていたけれど、バランスがとても良かった。また季節柄だとは思うが、宣伝ではまったく触れられてないけど、わかりやすくクリスマスムービーでもある。
本当はクリスマス時期に観たかったけど、青春ものもミュージカルも当たらないと言われている中、有名俳優が出てるでもない本作は日本で上映してくれただけでもありがたいので、シーズンの希望までは呑まれなくても仕方ない。

もともとは『Zombie Musical』というタイトルの短編でこれを作ったのが、ライアン・ゴズリングにシリアルを食べさせる動画で話題になった彼。若くして亡くなってしまい、それを本作の監督、ジョン・マクフェールが引き継いだ。

以下、ネタバレです。







まずミュージカル映画の重要なところですが、歌がどれもいい。
若者たちは鬱屈していて、ここは私の居場所じゃないと思っている。退屈な町から逃げ出したい。
『アメリカン・アニマルズ』『イングランドイズマイン』でも見られた、自分にふさわしい居場所を求める若者というのは、青春特有のものでもある。
主人公だけではなく、他のキャラや、モブのようなキャラもみんなが〝ハリウッド映画のようなエンディングは訪れない〟と歌っていた。

その中でアナの友人のリサは、現状に満足しているようだった。能天気で明るい。彼氏のクリスはゾンビ映画オタクと言われていたけれど、ゾンビ以外にも映画を観ていそう。ジャンル映画好きなのか。
二人は学内でもちゅっちゅしてるし、バカップルに見えたので、ホラー映画の法則に従うと早々にいなくなるパターンだなと思った。

アナの友人のジョンはアナのことが好き。鈍臭いながらも、きっと最後にはアナの気も変わるのかなと思ったけれど、本当に友達だった。でも、男女間であっても、別に恋人に昇格する必要はない、それでも大切な人であることには変わりないというのは今風だと思う。

アナとジョン、リサとクリス、そしてステフが主要人物になっている。

また、いじめっ子グループのニックもアナのことを狙ってるだけなのかなと思ったけれど、元彼だった。中盤にちゃんと明かされるまでわからなかったのは最初に話を聞いてなかったせいかもしれない。

キャラが様々出てくると青春学園ものっぽいけれど、ゾンビがちらちら映ったり、謎のウイルスが云々と不穏なニュースが流れていたり、びっくり描写があったりとゾンビ要素を混ぜ込もうとしてるのは感じた。
この時点では、ゾンビ要素はいらないんでは…と思ってしまった。

一晩寝たら、町にゾンビが大発生していた。でも、アナは気付かず、イヤホンをして歌って踊る。しかも、それがハッピーな曲で、映画を観ている側に聞こえるのもその音楽だから、ハッピーなBGMの後ろでゾンビが人を食って、パニックが起こっている描写が妙だった。ミュージカルにゾンビ要素を入れたらこのちぐはぐさが生まれるよな…と思う描写だった。でも、もちろんこの描写がずっと続くわけではない。

ここからゾンビが本登場。
ここまで20分くらいらしいんですが、上映時間98分のうちここまで本格的なゾンビなしとは。これ、ゾンビ出なくても良作では……と思ってたけど、出てきたら出てきたでこれがいい。

首吹っ飛ばすとかトイレの蓋とか残虐描写もあるけど腸は出てこないし、そこまでではないかと思う。今作のゾンビルールは、走らないタイプ、噛まれるとゾンビになる、頭を潰せばいい、音に反応といったところ。

ゾンビは敵ですが、序盤は笑えるシーンも多かった。ギャグは長編になる際に足された要素らしい。

クリスとジョンは、ロバートダウニーJr.はどうなったと思う?とかライアン・ゴズリングはゾンビになってもかっこいいに違いないとか、ボンクラトークを繰り広げてるんですが、その裏で女子二人が勇敢にゾンビを倒していた。男だから強い、女は守られているみたいなのはない。元彼はマチズモキャラかもしれないけれど。
アナの制服もパンツスタイルだった。ステフは男装しているだけかと思ったけれど、恋人が女性のようだった。このようなキャラの混ぜ方もとてもいい。よくある性別のくくりがないのが気分いい。

アナの元彼たちいじめっ子軍団は、スーパーで強奪をしていてろくでもないの典型みたいな感じ。彼らの歌がここで初めて出てくるけど、ちょっとR&B風でセクシーな曲だった。情け容赦なくゾンビを殺していくけど血も涙もないし、絶対にすぐに食い殺されるだろうなと思っていたけど、元彼だけは生き残るし、彼の行動に一貫性が見えてきて、頼り甲斐があって恰好良く見えてきてしまって困った。
また、彼はゾンビになった父親を嫌々殺している。父に正しいことをしろと言われてバットを渡されたらしい。父殺しというつらいイベントを乗り越えて大人になっているのだ。
この人に関しても違う面を見せられると好きになってしまう。

最初気にくわないと思っていても、違った一面を見せられるだけで多角的に知ることができるしキャラも立体的に見える。
カップルに関しても再会以降は、おばあちゃんのことを気遣ってる優しい子なのがわかるし、ステフを救おうと必死になっている様子が可愛かった。

『セックスエデュケーション』もそうでしたが、キャラの違った一面を見せられてキャラ全員を好きになってしまうのは青春群像劇ではよくあること。全員幸せになって!と思うけれど、そこはゾンビものなのだ。

噛まれたジョンや父はアナをかばって犠牲になる。カップルもステフをかばう。記憶が薄れゆく中で、すれ違いざまに手を合わせるシーンに泣かされた。こんな形でゾンビセンチメンタルを持ってくるとは。

監督のインタビューでは、「後半が生きるように最初のパートをちゃんと見せたんだ!」と言っていて、そんな残酷な…と思ったけれど、それこそがゾンビものの醍醐味ですよね。ゾンビ映画にあるのは怖さとかはらはらしたスリルだけではない。

どのキャラも好きになったけど校長だけは別。後半に行くにしたがって、悪い部分が増えていって、彼がゾンビの元凶なのでは?と思ってしまった。そんなことはなかったけど、ほとんど悪役です。
彼の曲がパンクっぽいのも合っていておもしろかった。妙に高い声も憎らしい。
また、悪いことをしたキャラは残酷に死んでもいいの法則が発動してたんですが、それ伏線だったのか!という伏線の張り方だった。1回目の時に不自然な気はしていたので、うまい!とは思わないけど、なるほどと思った。

アナは特効薬ができると言っていたので、最後に降ってきているのが雪に見せかけた薬で、みんな人間に戻ってめでたしめでたしと終わるのかと思った。
そんな甘いラストではない。普通の雪だった。

途中、アナが、「暴動や革命は別の国のことだと思ってた」と言っていたけれど、確かに、ゾンビはありえなくても、戦争や内戦によって、昨日までの世界が変わってしまうことはある。
今まで考えていた明るい未来が突然消えてしまうこともありうるのだ。
アナのこのセリフがあることにより、ゾンビ映画なのに想像できる未来になっていたのがおもしろかった。
今のところはまだ生き残ってるからこそ、希望は失わないのだという力強さを感じた。ゾンビ映画とはいえ、メッセージは青春映画が発するものと同じだった。

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