007シリーズはほとんど観たことがありません。007の新作を観に行ったというよりは、主演のダニエル・クレイグ贔屓での鑑賞。これが007らしいのかどうかは置いておいていいならば、とてもおもしろかった。
以下、ネタバレです。
『カジノ・ロワイヤル』、『慰めの報酬』と観てみての共通しての感想は「007っぽくないな」ということだった。今回もそこは共通しています。ただ、007シリーズ自体を観ているわけではないから、私が考えている007っぽさが間違っているのかもしれない。
何かっぽいというならば、最初の追いかけっこはボーンシリーズ、ボンド一人ではなくサポートチームで戦うあたりがミッション:インポッシブル(というよりはゴースト・プロトコル)、敵とボンドとの関係はダークナイトを思い出した。
ボーンっぽさといっても、逃げる側ではなく追いかける側です。冒頭、屋根の上でのバイクに乗っての追跡劇、電車の上でのショベルカーを橋の代わりに使うなどのやりとりは、アクションとしてはすごいのにやりすぎ感がほとんどギャグのようになっていた。そして、緊張感あふれるやりとりは仲間からの誤射によって、唐突に終わる。
水に落ちていくボンドと、アデルによるムード溢れる主題歌、水中での甘美な悪夢のような映像が合っていて、とても恰好良かった。ミュージックビデオのようでした。
凝ったオープニングでしたが、他の部分でも映像美にこだわりが見られた。上海の高層ビルのシーンではネオンとクラゲの映像が妖しく美しかった。それをバックに殴り合う男たちのシルエット。銃が発射されるとその閃光で一瞬だけ姿が浮かび上がるのも効果的だった。シルヴァが捕らえられた近未来的なデザインの牢獄もスマート。シルヴァのいた廃墟のような島は軍艦島だったらしい。スコットランドの荒涼たる景色も素晴らしい。
今回の007が前作前々作と違う点として、魅力的なキャラクターがたくさん出てくるというところが挙げられると思う。ハビエル・バルデムが演じる敵役のシルヴァはかなり濃いキャラだった。少しおばさんのような喋り方で物腰が柔らかいのに、Mの前で感情を爆発させる。演技がうまいので、シルヴァの言うことも一理あると思ってしまい、終盤のスカイフォールのシーンではどちらかというとボンドよりもシルヴァに感情移入してしまった。母親のように恋人のように慕ってきたMに裏切られたら、こうなってしまうのも仕方ない。泣ける展開だった。
シルヴァがボンドにシンパシーを感じている点は、ジョーカーとバットマンの関係に似ていた。Mという存在を間に置いての表裏一体。お前も一歩間違えたらこっち側だろう、むしろこちら側に来いよと誘う様などが『ダークナイト』を彷彿させる。私が『ダークナイト』好きだから考えすぎなのかと思っていたら、サム・メンデス監督自身が「『ダークナイト』から影響を受けた」とインタビューで話しているので、関係なくもなさそう。MI6とは別のところで犯罪を犯している敵をとっちめるという話ではなく、MI6内部に、更に心理的にも深く食い込んでくるタイプなのもまたいい。
敵以外にも、ボンドをサポートする周りのキャラクターたちも良かった。特に、Qが可愛かった。なで肩でひょろっとしたメガネで、一見頼りなさそうだけれど、天才的な技術を持っている。「ボンド」と名前で呼ぶのもいい。まったく物怖じしないふてぶてしい態度をとりつつも、サポート態勢が完璧。Qを演じたベン・ウィショーの他の出演作を眺めていたら、『レイヤー・ケーキ』に出ててびっくりしたんですが、役名を見て更にびっくり。シドニー役でした。(以下で『レイヤー・ケーキ』のネタバレあり)
『レイヤー・ケーキ』で、主人公(ダニエル・クレイグ)はシドニー(ベン・ウィショー)の彼女を寝取るが、ラストでシドニーに撃たれてしまう。あの二人がこの映画ではこんな役を…。同じ俳優さんたちの作品ごとの関係性の違いがおもしろい。
同じくサポート役のイヴも良かった。出会いが最悪で、ボンドが色気を出しても、すれすれのところでかわす。男女の関係になりそうでならないところが良かった。ジェームズ・ボンドと言うと、とにかく手がはやいイメージがあるけれど、彼女は少し違った存在なのだなと思った。
ラスト付近で、“マニーペニー”という名前を意味ありげに明かしたときに映画館内がざわっとなったのですが、それも、007に疎いせいで理由がわからなかった。Mの歴代の秘書の名前なんですね。それじゃあ、なおさら男女になってしまっては駄目なのだ。一回きりで終わらない、次に続ける仲間でいるためには、すれすれに止めておいたほうがいい。
今回、私はとても面白く観ることができたけれど、007ファンにはどう思われるのかはわからない。特に、新しいMに引き継がれることに関して、Mは長い間ジュディ・デンチだったらしいので、それが交代してしまうのは賛否あるのかなと思った。けれど、007ファンで『スカイフォール』を未見の友だちにMのラストは伏せたまま、Qが可愛いという話だけをしたところ、Qも前はおじいさんだったことを知らされて、「Qが若者に変わるなら、Mも変えればいいのにね」などと言っていたので、それほど気にしていないようだった。あと、M=MOTHERで、女性であることが前提なのかと思っていたら、ジュディ・デンチの前のMは男性だったらしい。杞憂だったようです、Mに関しては。
それよりも、007ファンの友だちは観た後で「Qが若すぎる。頼りない。もっと荒唐無稽なスパイグッズが見たかった」と言っていた。現代的なQというのは、いままでの007ファンからすると、違和感があるようだった。おそらく、Qだけでなく、映画全体のイメージも旧作の007はもっと荒唐無稽だったのではないか。今作はそれほどスパイ映画っぽくもない。ボンドがMを護る様、英国を護る様を見ていると、ヒーローものにも思える。ボンドガールらしき女性もちょっとしか出てこないし、007らしさはやはり薄いのではないかと思う。
それでも、007シリーズ自体には特にこだわりがない私としては、新M、新マニーペニー、新Q、そしてダニクレのボンドでの新体制での次作がいまからとても楽しみです。次もボンドガールが入る余地がないくらいでいい。
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