『ディーン、君がいた瞬間』



ジェームズ・ディーンと彼が大スターになる前夜に彼を撮影したカメラマン、デニス・ストックを描いた実話。あの、黒いコートを着て、タバコをくわえ、背中を丸め寒そうに歩いている有名な写真を撮った方。
ジェームズ・ディーン役にデイン・デハーン。似ても似つかないのではないかと思ったけれど、映画を観ると、不思議とジェームズ・ディーンに見えてきた。髪型はもちろんだけれど、三ヶ月で11キロ体重を増やしたらしい。横を向いたときに顎の肉が気になったが、体型を変えるために二時間ごとに食べていたとのこと。

以下、ネタバレです。実話なのでネタバレも何もないですが一応。









この映画でとらえられているのは、とてもゆったりとした時間なので、長期間の話なのかと錯覚しそうだけれど、1955年初頭のほんの少しの期間である。しかも、数ヶ月後にはこの世にはいない人物との話。実在の人物が描かれているから伝記映画ではあると思うけれど、ディーンが亡くなるシーンなどはない。同じ年の9月に亡くなっているから入れようと思えば入れられたとも思うけれど、あくまでも、ディーンの人気が爆発する直前から、カメラマンのデニスがディーンの写真を撮るまでの話。

監督のアントン・コービンがもともとフォトグラファーだからか、静謐で写真っぽい映画に感じた。これは前作の『誰よりも狙われた男』の時も思ったことだったが、その時には終盤にエモーショナルな瞬間があるからそれを生かすための作りなのかと思っていたが、作風なのかもしれない。
さすがに人物の配置などの構図が凝っていて、それがどんどん出てくるものだから、まるで写真展を見に行ったような気持ちで映画を観ていた。

あと、陰影の付け方もうまい。ディーンがこちらを向いた時、片目が影になって隠れていて、何を考えているのかわからなくなるシーンもあった。得体の知れなさやディーンの可能性の底知れなさが強調されていた。

影もそうだけれど、主演二人に関しては黒いスーツやコートという服装が多かったように思う。ジェームズ・ディーンのもともとの写真がモノクロだったせいもあるかもしれないけれど、なんとなく思い出してみても、モノクロ映画を観たのではないかという印象が残っている。故郷のインディアナの農場は雪が積もっており、その中に黒い服でたたずんでいるシーンもあった。ポスターも黒い服の二人が乗る車の色は黒である。

フォトグラファーの映画をフォトグラファーが撮っているということで、きっと監督はデニスの気持ちがよりわかったのではないかと思う。デニスはディーンの人生の瞬間を切り取った。監督もその方法を知っているから、だらだらと自動車事故のシーンなどは入れなかったのだろうと思う。

デニス・ストック役にロバート・パティンソン。デイン・デハーンも彼も、1986年うまれである。実際は、デニス・ストックが1928年、ジェームズ・ディーンが1931年と少しだけデニスのほうが年上だったようだ。いずれにしても同世代である。
それでも、二人の間に友情があったのかどうかが映画を観た限りではいまいちよくわからなかった。

デニスはいち早くディーンの才能に気づいて、写真を撮らせてくれ撮らせてくれと口説き落とすけれど、撮ってそれがLIFE誌に載ったあとは、次はジャズミュージシャンを撮るなどと言っていて、別に、ジェームズ・ディーン専属のカメラマンの話ではないのだということを改めて思い知らされた。

故郷へ同行したのだから友情は芽生えていたのかもしれないけれど、そのあと、ディーンが『エデンの東』のプレミアを欠席し、「一緒にLAへ行かないか?」と誘ったときも、「仕事があって…」と断っていた。
デニスにとってのディーンはなんだったのだろう? それこそ、彼にとっても人生の中で一瞬通過しただけの人物だったのだろうか。

写真を撮るまではストーカーのようにディーンにつきまとっていて、逆にディーンの気持ちがよくわからなかった。
実際のジェームズ・ディーンがどんな人物だったのかは知らないけれど、ぽやぽやした喋り方で、あまり人の話は聞いていない。常にマイペースといった感じで、自分のことしか考えていないように見えた。

二人の心が通い合ったのもほんの一瞬、故郷に一緒に行った時だけだったのかもしれない。その瞬間が写真として今も残っているというのが感動する。デニス・ストックも2010年に亡くなっている。

ただ、退廃的なムードはなかった。デイン・デハーンとロバート・パティンソンというなんとなく病的な印象の二人が共演となったら、もう少しなにか、ドラマティックなことがあるかなとも思ったけれど、案外淡々としていた。先行のスチルで観て受けた印象よりは何も起こらないというか。二人の距離があまり近づかなかったというか。
もちろん、『キル・ユア・ダーリン』のようなことにはならないにしても、同系列のイケメン二人を共演させているのだから、もう少し何か、少女漫画的な要素を入れてほしかった気もする。

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