『マイ・ファニー・レディ』
Posted by asuka at 3:38 PM
『ペーパー・ムーン』のピーター・ボグダノヴィッチ監督の13年ぶりの新作とのこと。76歳です。ちょっとタイトルというか、邦題がわかりにくい。どうしたって『マイ・フェア・レディ』と混乱するし、あっちはもう何年も残っている名作だし、この映画に関して何年か後まで残そうという気がないのではないかと思ってしまう。もちろん、『マイ・フェア・レディ』にかけたのだろうし、そんな面もなくはないけれど、原題の『SHE'S FUNNY THAT WAY』でも良かったと思う。
以下、ネタバレです。
オーウェン・ウィルソンと女性が三人並んでるポスターに“ロマンティック・コメディ”と書いてあったけれど、別にロマンティックなことにはならない。
最初だけかな…。アーノルドがコールガールであるイジーとの間に流れる空気感は確かにロマンティックだったかもしれない。二人の恋が始まりそうだった。しかし、アーノルドはコールガールを呼ぶ前に家族と電話していたし、当たり前だけれど、家族には隠していた。二人を中心としたラブストーリーにするには無理がある。
そう思っていたら、特に二人の間は進展もなく、アーノルドが発したロマンティックを匂わせるキメセリフは他のコールガールにも囁かれていたことが発覚。そこからはアーノルドの妻デルタはもちろん、イジーのセラピストのジェーンやらセラピストの恋人で脚本家ジョシュ、舞台の役者セスなどが入り乱れる。
これが本当に入り乱れるという感じで、アーノルドはデルタのことを愛してるっぽくはあるけれど多数のコールガールと関係を持っていたからデルタは愛想をつかす、セスはデルタに言い寄るが振られる、ジョシュはジェーンと付き合っていたがイジーに魅かれてしまう。なんやかんやで最終的にはセスとジェーンが恋に落ちたりする。
映画自体が93分とコンパクトな中で、目まぐるしく状況が変わり、登場人物たちも早口で、時に下品な言葉を交えながら話す。会話によって話が進んで行く様子は舞台っぽくもあるし、恋愛群像劇はウディ・アレンっぽくもある。
偶然が引き寄せた人物たちが関係を変えながらわちゃわちゃやるのは年末とかお正月っぽいお祭り感がある。でも、この季節とはいえ、クリスマスデートムービーとは少し違う。恋に落ちる瞬間は描かれていても、一貫してしっかりした気持ちを持って誰かを好きだ!という人はいないので、ロマンティックとは違うのではないかと思う。登場人物、わりと全員ロクでもないです。
ただ、ロクでもないし、とっかえひっかえだと下品なコメディになってしまいそうだけれど、こじゃれていて、キュートで、観終わった後に何か多幸感のようなものが残る。これは監督の手腕なのかもしれない。
またプロデューサーとして、ウェス・アンダーソンとノア・バームバックが名を連ねているのもいい。オーエン・ウィルソンを監督に紹介したのもウェス・アンダーソンらしい。
アーノルドはいろんなコールガールを同じセリフで口説くというロクでもなさですが、オーエン・ウィルソンだからなのか、あまりいやらしくない。
ジェーン役にジェニファー・アニストン。最近、『モンスター上司』や『なんちゃって家族』などコメディで見かけることが多いけれど、早口下品が良かった。電話の相手が自分のことしか話していないとき、電話を切った後に「me,me,me,me,me!」とうんざりしたように言うのがとても好きでした。
デルタ役のキャスリン・ハーン、最近見たな…と思ったら『ヴィジット』のお母さん役だったし、ジョシュ役の人も何か見たことあると思ったら『ネブラスカ』のウィル・フォーテだった。
このように演技のうまいしっかりした俳優さんたちを揃えているのもいい。
そして、群像劇の中でも主演と言っていいと思うけれど、イジー役のイモージェン・プーツがチャーミングでキュート。元コールガールだから肌色多めの服を着ていたり、歩き方もひょこひょこしていたり、なんとなく育ちが悪そうだったり、ブロンドだったりするけれど可愛かった。
コールガールから女優になった人物としてインタビューを受けていて、彼女が話す内容として映画が進行していくのだけれど、最後に「ジョシュと別れたんですって?」という質問に「新しく付き合ってる彼がいて、このインタビューも彼の勧めで受けることにしたの。過去のある女優はネタになるって」と答える。彼はカンフー映画好きで…というようなことを話しつつも、きっと出てはこないのだろうと思っていたら、急に登場した彼がクエンティン・タランティーノだったので、お前か!と立ち上がってつっこみを入れそうになってしまった。あれはずるい。お得意の早口セリフがあったけれど、呆気にとられていたので何を言ったのかまったくおぼえていない。でも、イジーは新しい彼と連れ立って、インタビューを受けていたバーの階段をのぼり、光の射す外へと消えて行く。彼女自体が夢だったのではないかと思われるほどの鮮やかな退場。それは、もしかしたらすべて彼女の作り話で、それもタランティーノ(エンドロールでタランティーノは役名がhimselfになっていた)の入れ知恵だったのではないかと思うほど。
でも、登場人物のその後みたいな映像が本編後に入るのでそれは無さそう。
この映画の幕の引き方が素敵で、多幸感の原因はこのあたりなのかもしれない。あと、主役が最終的には幸せになっているのだから、やはりロマコメでもいいのかもしれないし、クリスマスデートムービーとしてもいいのかもしれない。
ちなみに、タランティーノは監督の友人らしいです。
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