『SING/シング』



監督は『銀河ヒッチハイク・ガイド』や『リトル・ランボーズ』のガース・ジェニングス。
けれど、監督の紹介よりも『ミニオンズ』のイルミネーション・エンターテインメントという紹介のされ方をされていることが多いようです。

キャストにマシュー・マコノヒーやスカーレット・ヨハンソンがいることは知っていたので、誰がどのキャラを演じているのか調べてから行こうとしたら、吹き替えのキャストも豪華で気になった。けれど、ゴリラのジョニーをタロン・エガートンが演じているというので字幕で観ました。

以下、ネタバレです。









タイトル通り、歌がテーマではあるし、歌うシーンも多いけれど、急に心情を歌い出したり踊りだしたりするわけではないのでミュージカルとは違うと思う。
ステージ上で、さあ歌いますよという形の他には、日常の中で退屈しのぎの鼻歌とか家事をしながら口ずさむとか、生活に寄り添う形で歌うシーンがでてくる。

恐ろしくポジティブな劇場長コアラのバスター・ムーンが主人公。
性格はずうずうしいくらいに前向きポジティブで、へこむことはなさそうだし、精神も図太そう。彼が古びた劇場を復活させるためにオーディションをひらくのだが、そこに来るのは普段の生活に不満があったり、自分の歌を披露したいと思っていたりする人たちで、人生に疲れた彼らを輝かせるお手伝いをするストーリーなのかと思った。

途中までは確かにそんな感じなのだけれど、中盤で不運や無理が重なって、劇場が壊れてしまう。ただ壊れただけではなく、木っ端微塵である。これから後半の舞台になると思っていた場所なのに、無くなってしまった。
また、恐ろしいまでに前向きだったバスター・ムーンが、すっかり落ち込んでしまう。劇場こそが彼の心の支えだったのだ。劇場が崩れたことで彼の心もぽっきり折れてしまった。

彼は、そして物語として、こんなことになってしまって復活できるのか、ハラハラしてしまった。

結局、建物の残ったところを使って野外劇場を作るのだけれど、そのときに流れるのが。Queen&David Bowie『Under Pressure』。力を合わせる場面でのデヴィッド・ボウイがいかに効果的かは『オデッセイ』でもわかったことだが、今回も良かった。
この曲は誰が歌うというわけではなくBGMになっているのだけれど、同じようにビートルズの『You Never Give Me Your Money』も使われる。
本編では使われず、予告のみだったけれど、エアロスミスの『Dream On』をサンプリングしたエミネムの『Sing For the Moment』にしてもそうだけれど、それぞれ、曲だけではなく歌詞が内容に合っている。

登場人物が歌う曲も、ミュージカル的に感極まって歌い始めるわけではなくても、彼らの心情をよく表しているものが使われていたようだ。ほぼ既存の曲だけれど、合っていた。ストーリー上ではバスターがそれぞれに曲を割り当てていたので、みんなのことがよくわかってるなと思った。

バスターは歌わないのでマシュー・マコノヒーの歌声は聞くことができないが、セス・マクファーレンのムードたっぷりの歌声、リース・ウィザースプーンの可愛い歌声とみんなうまかった。特に、タロン・エガートンが良かった。
ゴリラのジョニー役だけれど、外見に似合わぬ綺麗な歌声だった。ジョニーは父親がギャングでその下っ端として強盗に見張りとして参加したりしていて、実写でもタロン・エガートンがやりそうな役だと思った。ゴリラではないけれど、なんとなくチンピラのイメージなのだ。
けれど、悪くはなりきれない、根の優しさが歌声に出ていて、その辺もとてもタロン・エガートンっぽい。こんなに歌がうまいとは思わず、彼のことがもっと好きになった。

吹き替えだとスキマスイッチの大橋さんらしい。大橋さんのことはよく知らないけれど、チンピラっぽいイメージはないのと、歌声もスキマスイッチだと特徴的なので意外性はない。歌はうまくてもイメージとは違うのかなとは思うけれど、吹き替えで観た方のコメントだとiTunesのシャッフルでスキマスイッチが流れたときに、ジョニーが活躍しているかのような印象を受けるらしい。現実の印象が変わるという逆の現象が起きている。

ネズミのマイクは後半で『マイウェイ』を歌う。セス・マクファーレンの歌が本当に素敵なんですが、字幕が中島潤版(布施明が歌った版)なのがとても良かった。この歌詞が好きなので。
特に、“私には愛する歌があるから/信じたこの道を私は行くだけ”の歌詞はこの映画のテーマでもあると思う。
また、吹き替えが山寺宏一さんである。いいに決まってる。山寺さんが歌うのもおそらく中島潤版だと思うので、聞いてみたい。

野外ステージは大成功し、かつて劇場で歌った往年の歌姫が資金を提供することになり、問題も解決する。確かにバスターの問題は解決した。けれど、他の登場人物についてはどうだろうか。

マイクはカードを作って高級車を買っていたが、結局賞金は入らないけれどどうなったのだろうか。
ジョニーは父親に認めてはもらったけれど、刑務所に入ってしまった。余罪がいくつもあるだろうし、出てくることはあるのだろうか。
ブタのロジータはからくりが暴走して子供と夫が大変なことになっていたけれど、どうやってステージに出ることを許してもらったのだろうか。この先はどうするのだろう。ステージでの姿を見てキスしていたからこれは解決なのだろうか。
グンターはロジータに都合がいいだけのキャラに見えてしまった。別に見返りを求めてやっていることではないのだろうし、グンターが好きに動いていたら結果的にロジータに影響したというだけなのかもしれないからいいけれど、なにかしら報酬やご褒美があればよかったなと思う。ステージに出られたことだろうか。背景が全く謎なのも気になる。

その辺はすでに続編が決まっているようだし、そこで描かれるのかもしれない。でも、もしかしたら、バスター以外は別のキャラが出てきてステージに立つのかもしれない。

予告でも出てきたバスターの「どん底までいったらあとは上がるだけだ!」という力強いセリフが印象的だし、心の支えである劇場が木っ端微塵になるというのはまさにどん底である。そこから駆け上がるようにラストへ向かっていく様子が感動的だった。
最後のステージは、映画館で観ている私たちも映画の中に入ったような感覚を覚えた。バスターが主宰するショーの観客の一人だった。楽しかったです。

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