『ダンケルク』(一回目、二回目IMAX)



日本ではあまり馴染みがないけれど、イギリスでは誰でも知っている(らしい)ダンケルクの戦いを描く。国民が団結して困難を克服するときにダンケルクスピリットという言葉も使われるらしい。

以下、ネタバレです。







一回目に観た時には、クリストファー・ノーランが好きなせいもあるが、没頭しすぎて見終わったあとですごく疲れてしまった。頭痛も止まらなかった。ひたすら怖かった。
カメラが登場人物に近く、自分も戦場に連れて行かれたような気持ちになるため、無事に脱出できて、主人公ポジションの若い兵士がイギリスで電車に乗り、追い詰められるような秒針音が止まった時に、心底ほっとした。若い兵士がもらった毛布を枕にして電車の座席で眠るのだが、その様子がとても気持ち良さそうに見えた。私にも毛布をくれ、寝たいと思ってしまった。それくらい映画の登場人物と同じ気持ちになってしまった。

クリストファー・ノーランの映画は毎回複数回観ていたけれど、これは無理だと思った。1時間46分とノーランにしては短いけれど、これ以上長かったら観ていられないと思った。

戦争物でエンターテイメントではないから感想が出てこなくて、ただただ口をあんぐり開けてなりゆきを見守ることしかできなった。

しかし、観てから少し時間が経つと、これほどのエンターテイメント作品ってないのではないかと思った。
戦争物だけれど、説教くさいメッセージは存在しない。あからさまなメッセージが掲示されないというだけで、それぞれ受け取るものはもちろんある。
また、戦争物だけれど、体の一部がふっとんだり、血だらけになったりという描写はない。
ドイツ軍と直接対峙しての撃ち合いもない。ドイツ軍の姿は最後、空軍兵士を捕らえる場面でしか出てこない。
それなのにめちゃくちゃ怖い。対峙してなくても、空から爆弾を落とされるのが本当に怖い。どこからか魚雷が飛んでくるのも怖い。見えないからこその怖さもある。

戦争物でも戦いというよりは脱出がメインである。
ダンケルクに追い詰められ、そこからイギリス本土へ脱出する。逃すまいと各方面からドイツ軍は攻撃してくる。

陸にいる若い兵士たち、指揮をとる大佐や中佐、イギリスから民間船で助け出そうとする親子、空からドイツの爆撃機を狙う空軍と主に四つのストーリーが時間を前後しつつ描かれる。群像劇である。
場面が変わって別のシーンになってもそこでもピンチだったりと、休む暇はない。どのシーンでも皆が攻撃にさらされ、でも必死で逃げ出そうとしている。
二度目の観賞だと少し心の余裕が出てきて、海に浮く爆撃機の上で助けを待っていたキリアン・マーフィーが別のシーンで出ていて描かれないこの人の動きが想像できたり、ここでファリアがロウデンの墜落したスピットファイアを見下ろして横にドーソンの船が助けに来てて…というのも見えてくる。すると、時間が前後していて、あ、さっき出てきた話だという前後関係も見えて、当たり前だけれど、群像劇でもダンケルクを舞台としてすべてが繋がっているのがわかる。

また、『インセプション』で階層ごとに交互に描かれてそれが相互に影響し合っているのと同じ手法なのだなとも思った。

二回目だと、ドーソンの気持ちもよくわかった。自分たちの世代が始めた戦争でこれ以上犠牲者を出したくないと贖罪のようにして民間船でダンケルクへ向かったのだと思う。
一緒に乗っていた息子の友達が、トラウマを負った英国兵に突き飛ばされ、頭を打って死んでしまうが、それでも救える命を優先して、兵士を何人も海から引き上げた。
息子の一人を空軍で亡くしているから、トラウマを負った英国兵のことも赦した。これはもう一人も息子もである。最初は英国兵を船室に閉じ込めていたけれど、おそらく何か嫌な予感がしたのだろう。怖かったのかもしれない。結果として友人が死んでしまったから嫌な予感は当たっていたのだ。
それでも、戦争のトラウマを負った兵士のしたことだから仕方ないのだということを父親であるドーソンから学んだのだと思う。
だいぶ正気を取り戻してきた英国兵が「あの子は大丈夫か?」と聞いた時に、死んでしまったにも関わらず「ああ」と返事をしていた。事実を告げてもどうしようもないことだ。ドーソンもそれでいいというように優しく頷いていた。英国兵が殺したのではない。戦争の犠牲者なのだ。

ドーソン役にマーク・ライランス。この善き人役がとてもうまいし合っている。

ベテランだと海軍中佐役のケネス・ブラナーも良かった。双眼鏡で遠くから現れる多数の民間船を見た時の表情がとても良かった。目は双眼鏡で隠れているので口元だけの演技だ。
また陸軍大佐のジェームズ・ダーシーが最近とても好きな俳優なので恰好良かった。本作でますます好きになった。
イケメンを観賞する余裕が出てきたのも二回目からです。

ノーラン作品常連のキリアン・マーフィーはトラウマを負った英国兵役。酷い錯乱っぷりだったけれど、それも仕方がないと思う。
もう一人、常連のトム・ハーディは空軍パイロットのファリア役。燃料が無くなるまで空から援護し、プロペラが止まってしまい、ゆっくりと海岸へ着陸する。
もうイギリスへ戻る燃料はないのに、このゆっくりと着陸するシーンがとても美しい。
そして、スピットファイアに火を放って、一人ドイツ軍に捕まる。

次々に爆撃機を落とす姿も恰好いいが、この、他の兵士は知らないが一人犠牲になる様が恰好良すぎる。ノーランのトム・ハーディ愛が感じられる。

若い兵士たちも良かった。群像劇なので誰が主役というのもないのだが、映画の最初に出てくるのと、ポスターなどにも使われているのがフィン(フィオン?)・ホワイトヘッド演じるトミーなので、一応主役なのかなとは思う。
フィン・ホワイトヘッドはiTVのドラマには出ていたようだが、映画は本作が初出演らしいが、ほとんどセリフのない中、不安にかられた表情や一旦ホッとした表情などうまかった。

ほぼ序盤から行動を共にするギブソンにアナイリン・バーナード。少しダニエル・ラドクリフに似てると思った。
途中から行動を共にするアレックスにハリー・スタイルズ。ワン・ダイレクションのメンバーが出演するとのことだったけれど、ワン・ダイレクション自体を全く知らなかったので、最初はどれがハリー・スタイルズなのかわからなかった。この若い兵士の三人のうちのどれかだろうと思っていて、主役の子ではないし、ギブソンはなんとなく雰囲気がワン・ダイレクションという感じではなかったからもう一人なのだろうと思った。それくらい普通に役者のようだった。
生意気そうで意地悪そうな感じがアレックスに合っていたけれど、それも演技なのかもしれない。
最後、電車に乗っているシーンで、逃げてきたことを恥じて新聞が読めないあたりも若い兵士っぽさが出てて良かった。

この前観た『ハイドリヒを撃て!』もそうだったが、イケメンが多いと戦争物でも青春映画の度合いが高まる。『ダンケルク』はセリフがほとんどない(おしゃべりをする余裕がない)のに、だんだんキャラクターがわかってきて、青春映画にも見えた(二度目の余裕)。

二度目にIMAXで観たが、音の良さが際立った。スピットファイアのエンジン音、土嚢を貫く銃声と木を貫く銃声と金属を貫く銃声の違い、すぐそばに落とされる爆弾など…。
戦争の真ん中に連れて行かれる作りになっているから、音もリアルな方がいい。また、画面も大きい方が没頭できる(109シネマズ大阪エキスポシティのIMAX次世代レーザーだと本来の大きさで観ることができるらしい)。

ただ、二度目だとできるだけ前で観たほうが良かったと思ってしまったが、一度目だと私は体調が悪くなったので、少し後ろ目の方がいいのではないかと思う。あと、前の方だと酔いそうな気もする。スピットファイアにも実際に乗っているような映像もあるし、若い兵士が走っているのについていくような手持ちカメラのシーンもあるからだ。

商船の狭い船室のシーンやコックピットなど、どうやって撮っているのかわからないシーンもたくさんある。『キャプテン・フィリップス』で、後半の救命ボートのシーンは実際にあの中で撮影をしたというのを思い出した。

最初から最後まで、登場人物たちととても近い位置にカメラがあって、観客もその中に放り込まれる。これはもう体験である。脱出がテーマになっている点から、『ゼロ・グラビティ』にも似ていると思った。あの映画も問答無用で宇宙に連れて行かれる。
テレビで観る『ゼロ・グラビティ』は面白さが半減したが、『ダンケルク』もその可能性があるので、映画館で観たほうがいい。

墜落させるように飛行機を作ったとか、駆逐艦を博物館から借りてきたとか、撮影秘話のようなものももっといろいろ知りたい。書割の兵士がどこだかまったくわからなかった(わからないようにしているのだと思いますが)ので、あと何回でも観たいです(二度目の余裕)。

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