『モーリス 4K』



“4Kデジタル修復で美しく蘇る”とのことですが、そこまで綺麗!という印象も受けなかったけど、元のものと見比べてみないとなんとも言えない。また、年齢制限があったのかどうかはわかりませんが、無修正版でした。股間にぼかしが入っていなかった。

もともとの『モーリス』は1987年公開。ジェームズ・アイヴォリー監督・脚本ということで、彼が先日のアカデミー賞で脚色賞を受賞した『君の名前で僕を呼んで』も公開したばかりなのであわせて観たい案件。

公開時には観ていないのですが、おそらく今観たほうが、同性愛関連の文脈のようなものがわかっているので理解が深まった。

イングランドでは同性間のシビルパートナーシップが認められたのが2004年、同性婚法は2013年に制定、2014年施行。
同性愛の非犯罪化は1967年とのこと。

映画の舞台は1910年代なので、まだまだ犯罪とされていた時代だし(映画のセリフで出てきますが、この時代、フランスやイタリアでは違法ではなかったらしい)、路地裏でキスしようとした子爵が捕まって、鞭打ちの刑に処されていた。そんな姿を見せられたり、新聞の一面に犯罪者として載ってしまったら、同性愛者本人たちも、自分たちが異常なのではないかと考えてしまう。
現在のように権利を求めて声を上げるということができない時代なのだ。犯罪と言われてしまったら、声をひそめているしかない。

モーリスはケンブリッジ大学でクライヴに出会って、互いに惹かれ合う。片方が同性愛者で、片方が異性愛者だとそこでも問題が起きそうだけれど、二人はちゃんと惹かれあっていたし、幸せそうにも見えた。
しかし、知人の子爵が同性愛で捕まってしまう。それを見て、怯えたクライヴはモーリスから離れていく。惹かれあっていても、時代に引き裂かれてしまう。

クライヴはその後、何もなかったように女性と結婚していたけれど、本当に異性愛者になったのだろうか。モーリスとの関係はただの若気の至りとして片付けられるものだったのだろうか。モーリスに対して、女性と結婚するんだろ?みたいに聞いていたのも本心で、それを祝福する気持ちも本心だったのだろうか。
クライヴは妻にキスするシーンはあるけれど、セックスシーンはなかった。ちゃんと妻と関係を持てていたのか気になる。子供ができる描写もなかった。

クライヴがそんな風になってしまったから、モーリスは混乱するわ辛いわで、同性愛を治すための治療を受けることにする。やはり彼も、世間の流れと、クライヴがそうなったことで、間違っているのは自分だと思ってしまうのが悲しい。今ではあり得ないことである…とは言いきれないことなのかもしれないけど、今はその時代よりは生きやすくなっているのではないかと思う。思いたい。
治療というのが催眠療法なのがまたすごい。けれど、アラン・チューリングが性欲を減退させるホルモン治療をやらされていたのが1953年なので、1910年からまったく進歩していない。現在から考えると、信じられない。けれど、これも国によってはまだ違法のところもあるみたいだし、なんとも言えない。

また、モーリスはクライヴの家の使用人のアレックと関係を持つが、それでもアレックのことが信じられない。恐喝されるのではないかと怯える。時代がそうだと、自分のことはもちろん、他人の愛情すらわからなくなってしまうというのも悲しかった。
ボートハウスで待っていますという手紙を貰っても、罠ではないかと疑って出向かない。

そこでアレックも時代に流されるようにして、モーリスを想う気持ちを捨ててしまったらもう誰一人幸せになれなかったと思う。アレックは身分が低いせいもあるのか、世間体をまったく気にしない猪突猛進型で、これくらいの人物がいないと時代だけが勝ってしまう。
アレックはモーリスの仕事場にも押しかける。でも、これくらい強引にしないと、時代や周囲の言葉を信じて自分が間違ってると思い込んでいるモーリスには伝わらない。それに、やはり最愛のクライヴがああなってしまったことが一番ダメージが大きかったと思う。クライヴが好きだったのだし、彼の生き方が正しいと信じるしかない。だから治療も受けて、同性愛を治そうとした。治るものだとも思っていたのだろうし、治らないから、自分はひっそり暮らしていきたいみたいな気持ちもあっただろう。

だから、観ている側としては、アレックを応援してしまっていた。
仕事をすっぽかしてアレックと一夜を共にしたモーリスが、地位も名誉も捨てると言ったときには、やっと時代に愛が勝ったのを感じたし、ブエノスアイレスに移民としてわたる船にアレックが乗っていなかったのでハッピーエンドを信じた。

モーリスがアレックと一緒になるとクライヴに告白しに行ったときに、クライヴはどう思ったのだろう。さみしそうではあった。でも、未練というよりは、過ぎた日を懐かしむような顔をしていたので、彼の中での決着はおそらくついているのだろうと思った。彼は議員になるようだったし、地位も名誉も世間体も捨てられなかったのだ。その生き方を選んだことも、後悔はしていないのだと思う。

アレックは猪突猛進型だけど、何をしでかすかわからない危うさもあったので、中盤で銃を持ってうろうろしているときにもモーリスを殺すんじゃないかと思ったし、最後のボートハウスでも、もしかしたらモーリスが辿り着いたら時すでに遅しみたいに自殺してたらどうしようと思ってしまった。
でも、寝ていただけだったし、ちゃんとモーリスもボートハウスへ行って二人が会えたので良かった。

映画は二人がボートハウスで抱き合うシーンで終わるので、この先どうなってしまうのかはわからない。
良かったとは思うけれど、アレックはモーリスの家に電報を送ったみたいだし、それが家族に見られていたら、どうなってしまうのだろう。家族も理解があるのだろうか。
アレックの家族も探すだろうし、地位も名誉も捨てたモーリスはどうやって生きていくのかと考えると、やはり中々明るい未来とも言えないのかなとも思ってしまう。
一概に良かった良かったと思えるラストではないけれど、時代に阻まれても、それに抵抗しつつ、好きな相手と結ばれるというのはハッピーエンドはハッピーエンドだと思う。

クライヴを演じたヒュー・グラントが美しかった。特に、大学時代のクライヴは飄々としながらも、色気があった。
アレックはなんだかハリー・スタイルズを野暮ったくした感じというか、昔風ハリー・スタイルズにも見える可愛い系の顔で、演じている俳優さんの名前を見たことがある…と思っていたら、『SHERLOCK』のレストレードでおなじみ、ルパート・グレイヴスでした。それをふまえた上でもう一回観たい…。


0 comments:

Post a Comment