『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』



ウィレム・デフォーがゴールデングローブ賞、アカデミー賞にて、助演男優賞にノミネートされました。
監督はショーン・ベイカー。以前、全編iPhoneで撮影した作品もあったらしいですが、本作は35ミリフィルムらしい。一辺倒ではない撮影方法にこだわりが感じられる。

『アイ,トーニャ』『ボストン・ストロング』(は違うかも?)と、ホワイト・トラッシュものの映画を続けて観てしまった。
モーテル暮らしの貧困層の親子を中心にして、そのモーテルの住民たちと管理人の生活が子供の目線で描かれている。

以下、ネタバレです。











撮影方法にもこだわりが感じられたけれど、色彩の鮮やかさにもこだわりがありそうだった。舞台となるモーテル自体も薄い紫色でかなり目立つ。もともとこの色の建物というのもすごい。
子供目線だからなのか、貧困でもさほどつらいとか苦しい面が全面に出てこない。色彩の鮮やかさも、もしかしたら子供たちにはこう見えるという表現なのかもしれない。
建物も可愛い形のものが多かった。動かないカメラが可愛い形の店を映し、その前を子供たちが悠々歩くのは、貧困であえいでいるとは思えない。楽しく暮らしているように見えたし、実際、楽しかったと思う。
子供たちは、彼らの世界の中で毎日冒険をしている。車に唾を飛ばすとか、レストランの余り食材を貰うとか、アイス屋さんの前で家族に小銭を恵んでもらってただで食べるとか、やっていることはロクでもないけれど。中盤では空き家の暖炉にクッションをつめて火をつけ、結果的に家を焼いてしまった。それを含めて、毎日が楽しくて仕方ないという様子だった。

それでも、大人たちはそうはいかない。
モーテルは月1000ドル、一日38ドルだったようだが、これも払えない。主人公ムーニーの母のヘイリーは失職してしまい、金がないのだ。おそらく職がないから賃貸住宅も借りられない。
偽物の香水を売りつけたりと、タフでもあると思ったが、結局どうしようもなくなって、部屋で客を取り体を売り始める。

ムーニーが一人で風呂に入るシーンが何度も出てきた。不自然なくらい何度も出てくるので、何か意味はあるんだろうと思いながら観ていた。そういえば、ヘイリーは何してるの? 子供と一緒に入らないの?と思ったら、その時間に部屋で客を取っていたという…。
それも、管理人のボビーが部屋に入っていくのをちょこっと目撃したりと、少しずつ事実が明らかになっていくのが作りとしてうまい。
また、それが完全にわかるシーンも、男の人が風呂というか、ユニットバスなのでトイレに入ってきたときに、「げ、子供がいる」という声がするだけで、そこでもちろんムーニーはぎょっとした顔をしてたけど、直接行為を目撃するわけでもないし、男性を直接映さないのもうまいと思った。

貧困ものだと事件に巻き込まれたり、誰かが亡くなったりするかと思ったけれど、そのようなショッキングシーンはない。
カメラも必要以上に動かないし、音楽もほとんどない(登場人物はギャングスタ・ラップのようなものを聴いてるけれど)。
過剰な説明もない中で、カメラはつぶさにムーニーの日常を描写する。子供が主人公ということもあり、ドキュメンタリーにも見えてしまった。天真爛漫に暮らしているようで、ほのぼのしたり、汚い言葉に笑ったり(わざと嫌味っぽく丁寧語になったりする日本語訳がうまいと思った。字幕は石田泰子氏)していた。しかし、観ていると少しずつ状況がわかってくる。

最初から破綻しそうなぎりぎりのところにあった生活が、結局、最後には破綻してしまう。
ヘイリーは逮捕され、ムーニーは児童家庭局の役人に連れていかれる。
もう完全なバッドエンドでまあそうなるよな…とも思う、予想できたラストなんですが、映画ではここで驚くべきことが起こる。

友達のジェンシーの家の前でムーニーは泣きじゃくる。ここまで一回も泣かないのに、ここですべてを把握して大号泣する。
ムーニーはジェンシーに別れを告げに来たのだが、ここでジェンシーがムーニーの手を取って走り出すんですね。で、初めて音楽が流れ出す。なるほど!このためにここまで音楽を使わなかったのか!と思った。ドラマティックでめちゃくちゃ効果的だった。それに、カメラも二人が走っていく後ろを追いかけていく。ここまで静かに動かず、ほとんど傍観するように映していたカメラが、だ。

二人が辿り着いたのはディズニーランドというのもまたいい。チケットなど持っていないだろうし、入場で止められることもなかったので、これはファンタジー描写である。おそらく、音楽が流れ始めたあたりから、すべてファンタジーなのだと思う。
それでも、最後に魔法を観せてくれるのはとても映画的だと思うし、現実逃避だとしても、ラストで急に大人視点になって暗く終わらなくてよかったと思う。

決して明るい話ではない。でも、もう問題自体はわかったのだし、最後に急に現実に戻されてもがっかりしてしまう。映画の素晴らしさがわかる、最高のラストだと思う。邦題のサブタイトルも納得である。

ちなみに、モーテルにディズニーランドのホテルだと思ったらハネムーンの観光客が紛れ込んでしまう描写はあるけれど、このモーテル、マジック・キャッスルが実際にディズニーランドの近くにあるというのは映画後に知った。
また、ディズニーランドが近いから、周辺に可愛らしい形のお店も多いのだという。

そういえば、近くのホテルのオーナーが変わって値上がりしたというエピソードがあったが、インド人女性がオーナーで流れている音楽もインド音楽だったことから、本当に内部が入れ替わってるのがわかった。彼女が牛耳っているのが、説明は無くとも伝わってくる。(が、モーテルがディズニーランドの近くというのはわかりませんでした…)

ウィレム・デフォーは助演男優賞にノミネートされていたけれど、納得の演技だった。今まで怖かったり、駄目男だったりが多かったイメージだけれど。
貧困層の親子が中心なら親子だけでも良さそうだけれど、このモーテルの管理人ボビー役として出演。ダメ住民やその子供たちに迷惑をかけられ、悪態をつきながらも、結局いつも慈愛に満ちた行動をとっていた。管理人は地味ではあるけれど、映画内に絶対にいなくてはならない役だった。
「敷地内で人を轢くのは禁止にしないか?」って言葉で笑ってしまった。禁止に決まってる…。

子供たちに不審者が近寄って行ったときに、そちらに気をとられるあまり、ペンキを落としてしまうのも好きだった。厳しいこと言ってるけど、別にあの子供たちが憎いわけではない。ちゃんと守ってあげている。
住民たちもそうだ。仕方ないで許せることは最大限許していたと思う。住民たちがダメすぎて、許容範囲をこえていたので追い出したりするが、憎いわけではない。
それがわかる演技でした。私の中でウィレム・デフォーの印象が変わったし、付かず離れず、でもちゃんと見守っているこのキャラがとても好きになった。
多分あの住民たちを束ねるのはものすごく大変な仕事だと思うけれど。

また、ウィレム・デフォーは、煽るように撮られていることが多かったのも気になった。

これも説明はないが、離婚していて、元妻とも疎遠のようだった。息子が手伝いに来ていたので息子とは疎遠ではないようだったが、結局喧嘩をしてしまっていた。
でも多分、あの息子が管理人を引き継ぐんじゃないかな…。
ちなみに息子を演じているのがケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。いつも少し癖のある役が多い俳優さんですが、今回はそこまでアクが強くない。でも、おそらく、この先、父親に影響されて癖のある人物になるのだろうというのが、彼が演じることで想像できて面白かった。ひ弱で根性のなさそうなところも彼に合っていました。

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