『ジュラシック・ワールド/炎の王国』



2015年公開『ジュラシック・ワールド』の続編。
監督は『インポッシブル』、『怪物はささやく』のJ・A・バヨナ。抜擢は意外だったんですが、監督の色が濃く出ていて、個人的にはとても好きでした。

以下、ネタバレです。








最序盤、人がいなくなったイスラ・ヌブラル島から帰る際に、恐竜に追われ、逃げられた!と思ったら海から現れたモサ・サウルスにパクッとやられるシーンがあった。前作で印象的なシーンだったのでパロディーなのではないかと思う。
この後も、ピンチのシーンで、ピンチなのに深刻にならずに顔がにやにやしてしまうというシーンが続く。

島に行くまでの、事態の説明部分は話が多くて少し退屈でもあったけれど、オーウェンとブルーとの邂逅のあたりから俄然盛り上がる。良いシーンなのかと思われたところ、オーウェンは仲間だと思っていた奴に麻酔銃で撃たれてしまうという乱暴すぎる仕打ちに遭う。しかも、動けない状態なのに、火山が噴火してるから、溶岩がすぐそこまで流れてくるという絶体絶命のピンチ。でもなぜかにこにこしてしまう。ここで死なないのはわかっているから、どうやってピンチを脱するのだろう?というワクワク感かもしれない。

その一方で、クレアと同僚のコンピューターオタクのようなフランクリンという若者は部屋に閉じ込められてしまう。こちらにも溶岩は来るし、おまけに逃げ場のない中で恐竜も現れる。
フランクリンはピンチなのに軽口を叩いているし、必要以上に怯えてきゃーきゃー言っているのがいい。

そして、前作にも出てきた球体の乗り物ジャイロスフィアが出て来ますが、二人乗りだからそこにクレアとフランクリン、オーウェンがぎゅうぎゅうに乗るのかと思ったら、オーウェンは乗らずに走っていた。崖から落ちて、ジャイロスフィアのまま水の中に落ちても、オーウェンが泳いで助ける。無敵である。
ここの一連もピンチの連続だし、笑ってる場合ではないのだけれど、なぜかニコニコしてしまう。

イスラ・ヌブラル島は火山の噴火で、もう捨てるしかなくなる。取り残された草食獣が燃える様はかわいそうだった。人間の身勝手な遺伝子操作で復活させられた恐竜たちが結局滅びていくのがつらい。

しかし、この先がもっとつらい。舞台は本土へ移るんですが、保護という名目で集められた恐竜たちは結局は金儲けのために集められたものだったという事実が発覚する。ロックウッドの屋敷でオークションが開かれるんですが、そのオークションマスター役がトビー・ジョーンズ。こんな役ばっかりですが、今回も合う。

ロックウッド邸の主人、ベンジャミン・ロックウッドは雇っていたミルズに金や悪事がばれるのの口封じのために殺される。
ベンジャミンの孫娘のメイシーはミルズの悪事を調査していたが、結局、ベンジャミンが殺され、お手伝いさんも追い出され、一人きりになってしまう。
ここで、お手伝いさんが「メイシーの母親もお世話したのに」と言っていて、長い間屋敷にいたんだなと思ったけれど、ベンジャミンが持っていた写真には、現在のメイシーと若いお手伝いさんが写っていて少し妙。しかも、ベンジャミンはこの写真を隠そうとしていた。そして、少し後に、メイシーは孫娘ではなく亡くなった娘のクローンということが発覚する。

まさか、『ジュラシック・ワールド』のシリーズでそんな設定が出てくるとは思わずにびっくりした。作品の印象がここからガラリと変化する。
狭い屋敷の中での恐竜との攻防はホラーのようだし、怪しい屋敷とクローンの少女、金持ち相手の違法なオークションなどというものが出てきたら、そりゃ、オークションマスター役はトビー・ジョーンズしかないよと納得してしまった。
この屋敷が舞台になってからは、ゴシックホラーのようになるのだ。ゴシックホラーとトビー・ジョーンズの相性の良さがよくわかる。

今回、掛け合わせで誕生したインドラプトルという最強の恐竜が出てくる。最初は全貌が見えず、それほど大きくはなさそう?とか、爪が長く、凶暴さだけが目立つとか、断片的な情報でしか察することができない。
出てきて、やはり檻からも出てしまうんですが、悪者(ここではオークションに参加していた金持ちや、オークションマスターなど)たちがバンバン殺される。他にも、“悪者は残酷に殺されてもいい”という法則が過剰に適用されていた。

またインドラプトルの入っていた檻は床がライトになっているのですが、そこに横たわるインドラプトルを上から撮って、シルエットのみでも怖いというのを見せたり、屋敷の屋根の上に登って吠えるバックに月があったりと、ここも過剰に恰好良く撮られていた。
このシーンについて監督が「お姫様とモンスターがお城にいたら、モンスターが屋根に登って吠えた後ろに月を輝かせるしかない」というようなことを言っていて、ゴシックの何たるかがわかってるし、ちゃんと狙っての演出だったのがわかって嬉しかった。
そして、ここでわかったのは、今回のヒロインはクレアではないということです。クローンの少女であるメイシーだった。

だから、屋敷の地下にガスが充満して、恐竜たちはここで死ぬというのが本来だったらありがちなラストなのだと思う。逃がそうとしたクレアがオーウェンの言葉で思い止まる。本土で恐竜を逃したら大変なことになる。そんなことはクレアもわかっている。だから、言われた通り、ボタンを押さない。恐竜たちはここで滅びるしかない。一応の一件落着だと思う。面白みはないけれど。

しかし、この映画が普通ではないのは、ここで、メイシーが「クローンにも私と同じように命がある」と言って、恐竜を逃す。最高だし、さすがヒロインだった。

ジェフ・ゴールドブラム演じるイアン・マルコム博士の「ジュラシック・ワールドへようこそ」の演説にも痺れた。テーマパークではない、私たちの生きているこの場所がジュラシック・ワールドになってしまった。
「もしかしたら恐竜の方が人間より長生きするかもしれない」とも語っていたが、たぶん敵わないだろうし、そうなりそう。
人間が勝手に作って、エンターテイメントとして消費されていたクローンによる反撃である。しかも、闇オークションや違法売買などで人間の汚い部分をここまでたくさん観せてきたから、もう人間なんて滅びてしまえばいいという気持ちにもなってしまった。

日常風景に恐竜が溶け込んでいる。ここを境に世界ががらっとかわる。もうほとんど神話である。

邦題のサブタイトルは“炎の王国”で、最初に出てきた火山の島のことなのだろうけれど、序盤で終わりだし、原題の“Fallen Kingdom”のほうが良さそう。堕ちた王国とかそんな感じで。
でも夏休み映画だし、明るい雰囲気のタイトルのほうがよかったということなのかもしれない。実際にとても混雑していた。また、もしかしたら、ネタバレを避けたのかもしれない。
ただ、この映画は、“炎の王国”から連想されるような陽のノリではない。完全に陰のノリである。
だから、私は好きだったけれど、もしかしたら賛否が分かれるのかもしれない。

オーウェンとクレアは、今回は結果的に脇役のようにもなってしまっていたけれど、一応恋人なのかな。そうなのかどうかわからない程度の関係がとても良かった。一箇所、クレアがオーウェンの胸元に手を差し入れた状態で寝てしまっていて、オーウェンが先に目覚めてそれに気づき、愛おしそうにクレアの額に口付けてから寝たふりをするという本当にささやかなラブシーンがあって、可愛かった。
でも、そこはオーウェンを演じているのがクリス・プラットなので、どこかセクシーになってしまっているのも良かった。恐竜に対しての態度もなぜかセクシーでした…。


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