『ワンダー 君は太陽』


予告編を見る限りではあまりおもしろくなさそうと思っていて、観に行かないつもりだった。
生まれつきの病気で顔が他の子供と違うオギーが、学校へ行くことになる。夢は宇宙飛行士になることとか、オギーが奇跡を起こすというナレーションが入っていたのと、宇宙飛行士姿のオギーがハイタッチしていて、それがラスト付近の成功の姿なのかと思っていた。
でも、結局顔が隠れてしまっているし、これでは容姿の違いと向き合ってないし、乗り越えられていないんじゃないの?と思ってしまった。
でも、この予告の宇宙飛行士姿は序盤で出てきます。
また、予想だにしていなかったんですが群像劇でした。もちろんオギーが主人公ではあるけれど、オギーだけに焦点を当てた映画ではない。

監督はスティーヴン・チョボスキー。『ウォールフラワー』の原作者であり、自ら監督も務めた方。実写版『美女と野獣』の脚本でも知られている。

以下、ネタバレです。











予告で出てきた宇宙飛行士姿は、つらいことがあったら楽しいことを考えるという妄想だった。大団円っぽい姿にも見えたので、映画のラストなのかと思っていた。
また、最初に“Auggie”という名前が出てきて、どうしてわざわざ?と思っていたら、姉のヴィアのモノローグが始まって、“Via”という名前が出てきて、驚いた。
予告編だけだとまったくわからないけれど、群像劇だった。

“君は太陽”というのも、あざといサブタイトルだと思ってたけどそうではなかった。son(オギーのこと)とsunがかかってはいるんですが、「いつでもオギーが中心で、私たちはその周囲をまわる惑星」とヴィアが言っていてなるほどと思った。
障害で苦しむ(そして克服する)という話は数あれど、周囲の人の悩みまでとりあげられている物語は少ない。

ヴィアは幼い頃から両親をオギーにとられたような形だったから、いろいろなことを我慢し、手のかからないしっかり者になってしまった。
でも、亡くなったおばあちゃんだけは、「あなたのことが一番好きよ」って言ってくれてたんですよね。それを思い出して、思い出の場所に一人で行くシーンは泣いてしまった。
おまけに仲良くしていた友達が高校デビューして避けられたり、演劇部に入ろうとしたり…といろいろな悩みもある。でも両親には相談できない。オギーにつきっきりだから。
でも、ヴィアは決してそれでオギーを恨んでいるわけではない。両親と同じようにオギーのことが大好き。
もちろん、同じ遺伝子だし、もしかしたら自分がオギーだったかもと考えたら、一番他人事じゃないというのもあったと思う。でもそれ以上の愛情を感じた。
ハロウィンの日、やっと母を独占できたのに、オギーが学校で何かあったらしいと、独占が中断されてしまう。本当なら、オギーのことを妬んでしまいそうだ。
でも、帰ってきて大層落ち込んでいるオギーをヴィア自身も仮装をして、パレードに行こうよと誘う。そこで学校で酷い目に遭ったオギーはヴィアにあたる。
ヴィアが「酷い日もあるよ」と元気付けても「ヴィアの酷い日より僕の酷い日のほうが酷い!」と言う。でも、それはヴィアも確かにそうだろうということはわかっている。弟の苦悩を常に近くで見てきただろうから。
しっかり者である点を引いても、優しい子だった。
オギーも卑屈にならないことはないけれど、それでも明るく元気で頭も良く優しい。
この二人が本当にいい子なのって、たぶん、両親の育てかたが良かったのだと思う。育てかたというか、接し方というか。
二人が幼い頃のエピソードというのはほとんど出て来ない。だから、五年生のオギー、高校生のヴィアのことしかほぼわからない。でも、ここまでも家族四人で困難はあっても幸せに暮らしてきたのだろうというのが想像できる。あと、飼い犬のデイジーも立派な家族でした。
デイジーはクレジット名が一匹の名前しかなかったけれど、一匹だったのだろうか。演技が素晴らしかった。
両親役はジュリア・ロバーツとオーウェン・ウィルソン。オーウェン・ウィルソンのちょっと情けない父親もいいし、ジュリア・ロバーツのちゃきちゃきした母親も良かった。共通しているのは二人とも本当に娘と息子が大好きで、優しく見守ってあげていたというところ。ヴィアの演劇のシーンで、メガネを忘れた母が、父のメガネを奪い、独占していたところにも二人の関係が表れていた。

両親だけではなく、学校の校長先生やブラウン先生など、大抵の大人はオギーに優しく接していた。いじめっ子のジュリアンの両親は金にモノを言わせようとするなど、わかりやすい悪者だったけれど。

群像劇になっているわりに両親のエピソードがないのはどうしてだろうと思ったけれど、よく考えたら子供たちだけだった。

高校デビューのヴィアの友人ミランダや、些細なことからオギーとすれ違ってしまう友人のジャック・ウィルの内面もわかるのは、なんだかスクリーンに名前が出ただけで、この子達の掘り下げもやってくれるのか!と思って涙が出てしまった。
オギーだけではなく、オギー以外の人物も等しく悩んでいる。
それは、オギーが一番大変だとは思う。けれど、だからといって、オギーを特別待遇するのは、逆差別だと思うのだ。特別待遇するわけではなく、他の人と等しく接することが大事なのだ。そのために、オギー以外の人物の悩みもちゃんと描かれているのが素晴らしい。
実際に大人たちはオギーに対してもオギー以外に対しても同じように接していたし、映画の作り自体がそうなっているのがうまい。
オギーに対して優しい視線が向けられているのは当たり前なのだけれど、それ以外の人物もとても優しく撮られている。彼らがそれぞれの困難を乗り越えて克服する場面が描かれているからその都度泣いてしまうし、全員好きになってしまう。

この映画の予告編を見る限りだとオギーのことばかりだったので、まさかこのような凝った作りになっているとは思わなかった。本当に観て良かったです。

オギーの友人のジャック・ウィルを演じたノア・ジュプ(Noah Jupe)がすごく可愛かった。癖なのか、ぺろっと舌を出すシーンが何度かあったり、いじめっ子に殴りかかった後で、わっと先生に抱きつく様子も良かった。そうか、怖かったんだよね…。
マインクラフト内のチャットでオギーと仲直りするのもいまどきの子供という感じで可愛かった。
キャンプでの7年生との殴り合いのシーンでは、頭から血が出てると言っていたので、この怪我が原因で死んでしまったりしたらどうしようと思っていたけれど、何事もなく修了式を迎えていて良かった。

2005年ロンドン生まれの13歳。父は映画監督、母は女優の映画一家。
2015年に『ペニー・ドレッドフル』と『ダウントン・アビー』に出ていたらしい。また、Amazonプライムで配信中のトム・ヒドルストン主演の『ナイト・マネージャー』の序盤にも出てくるようです。
映画だと2017年公開作では本作を含む4作品に出演。見逃してしまったけれど、『サバービコン』にも出ていたらしい。マット・デイモンとジュリアン・ムーアの息子役で、家族の話らしいので出番が多そう。
2018年も3作品に出演。Netflixで配信中のサム・ワーシントン主演の『タイタン』。日本でも9月に公開される音を出すと殺されるホラー『クワイエット・プレイス』。12月にアメリカで公開予定のウィル・フェレルがシャーロック・ホームズ、ジョン・C・ライリーがジョン・ワトソンを演じる『Holmes and Watson』。
2019年はシャイア・ラブーフの自伝映画『Honey Boy』にシャイア・ラブーフの少年時代役で出演。ちなみに青年時代はルーカス・ヘッジズが演じる。
楽しみなものがいくつかと、すでに観られる作品も何作かあるので観てみようと思います。

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