『サスペリア』
Posted by asuka at 1:40 PM
『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督。どうして、あの作品の次に撮ったのがこの作品になるのかよくわからない。
1977年『サスペリア』のリメイクとのことですが、ストーリーはほぼ違っていて、再解釈の上、要素が付け足されているまったく別物になっている。上演時間自体も一時間くらい増えています。
以下、ネタバレです。オリジナル版のネタバレも含みます。(ネタバレというほどわかっていません…)
オリジナル版と同じところはダンスの学校の地下に魔女の組織があって…というところくらいかなと思う。ダンスもオリジナル版ではバレエだったけれど、本作は暗黒舞踏(麿赤兒が踊っているもの)です。
目配せ的に、数を数えながら歩いて秘密の場所を見つけるシーン(これも主人公の子ではない。主人公自体がまず変わっている…)があるのと、ラスト付近の祝祭シーンで赤いライトが使われているくらいでしょうか。
オリジナル版はバレエの学校に新人の女性が来て、人が何故か消えてしまうことに怯え、真実を突き止めて逃げ出すというシンプルなものだった。
77年ということで時代が反映されたファッションとインテリアがおしゃれだった。また、赤や緑などのライティングも特殊でした。
ただ、技術的にはまだまだであり、人に噛み付く犬はぬいぐるみなのが丸わかりだし、ゾンビ風のメイクも怖くはない。血もペンキのようで赤すぎる。でも、あの赤は狙ってのものなのかもしれない。
ただ、不気味な雰囲気と音を使っての盛り上げ方がうまくて、ぞくぞくしました。
本作の舞台も77年である。ある錯乱状態の女性がカウンセラーの元を訪れて相談をしているが、カウンセラーは妄想と決めつける。その女性は実はダンスの学校の秘密を知って抜け出して来ていたのだが、その後はとらえられてしまう。オリジナル版と同じということだと思うけれど、ゾンビにさせられていた。
彼女はテロリストで…という背景もあるのだが、本作はオリジナル版にはなかった政治的な要素が加えられている。
77年はまだドイツが東西に分断されている。そこでのベルリンの話なのでテロリストの話も出てくるのだ。
そして、終盤にかけて明らかになるのが、カウンセラーの妻の過去である。アーリア人なのに証明できなかったせいで収容所に送られ、戦時中に死亡してしまう(この妻役が、オリジナル版で主人公を演じたジェシカ・ハーパー!)。
ただ、一度観て解説を何も読まない状態だと、これら政治的な要素と、ダンスの学校の魔女(本作だと『〜の母』という言い方だった)がどう関わってくるのかがよくわからなかった。
ダンス学校にはスージーという本作の主人公(たぶん)の女性が入学してくる。しかし、決してオリジナル版の主人公のポジションではないです。
彼女は幼少期よりドイツやポーランドのことを学ぶのが好きだったようだ。そのため、彼女も政治的な題材と関わりがあるのだ。ラストでカウンセラーに妻のことを話すのも彼女である。ただ、30年以上前のことだし、それを彼女が実際に見てきたように話すのはおかしい。それも『〜の母』(魔女?)の力なのだろうと思われる。話ぶりが優しく、それはナチスを批判しているようでもあったし、カウンセラーの記憶を消すということで、妻のことで辛い目に遭ったカウンセラーをいたわっているのだと思う。では、彼女は良い人なのか? そのあたりはよくわからなかった。
(町山智浩さんの解説では、魔女狩りとナチスによるユダヤ人の迫害の繋がりについて話されていた。都合の悪いことを自分たちではない存在に押し付けるという行為についての似かより?)
その前の継承シーンでは悪魔的に見えた。あの後であんなに優しくなるとは思わなかった。絶対的な神のような存在に善悪などないということだろうか。
そもそもオリジナル版でも、死ぬことができないままゾンビとして生きながらえていた女性たちの役割がよくわからなかった。魔女の生贄みたいなものだろうか。
本作では内部抗争のようなものも起こっていた。継承前の『〜の母』役がティルダ・スウィントン。彼女の永遠に歳を取らなさそうな雰囲気がよく合っていた。
内容についてはもう少し解説などを読むか、調べてみないとよくわからない。それなのに、作品を貫いている美意識が一定で、この世界観が好きだった。
スージーは暗黒舞踏を踊っているだけなのに体全体を使っているからなのか、セクシーだった。セックスシーンなどはないのに、サラともマダムとも、セクシャルな関係に見えた。
逆に祝祭感漂う継承シーンは、みんな全裸で踊っているのにまったくセクシーに見えない。ただの儀式だった。撮り方なのだろうと思う。
怖いか怖くないかというところですが、最初の関節が変な方向に曲がって瀕死になるあたりはそのむごさに目を背けたくなった。血も景気良く出るけれど、祝祭シーンの血はむしろ美しく見えた。
同じ継承ものとしては、『ヘレディタリー/継承』のほうが怖いです。また、旧作のほうがホラー的だと思う。
こちらは最後にスージーが優しさといたわりを見せてきたため、怖いのとは違う印象が残った。また、エンドロールで流れるトム・ヨークの歌声も優しいです。ホラーとは違うと思った。
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