ジェイソン・ライトマン監督作品。『サンキュースモーキング』『JUNO』『マイレージマイライフ』と、彼が監督している作品は全てそうですが、登場人物の作り方と描き方がうまい。

主人公は“普通”からははずれてるんだけど、奇抜すぎない絶妙なはずし方をしてくる。他の監督が作ると、もしかしたら、突飛過ぎるキャラになってしまうかもしれない。しかし、彼はその普通じゃない人らをこれでもかというくらい丁寧に描く。いい面も悪い面も、すべてを愛を持って描ききるので、奇抜なキャラも人間くさくなるし、身近な存在に思えてくる。主人公だけではない。周囲の人々についても、一人一人がしっかり作られているから話に入り込みやすいし、作品がリアリティのあるものになる。

今回もいままでと同様、人間の描き方がうまい。変わった主人公がすったもんだを起こして、少しだけ成長して終わるという流れも一貫していた。全体の雰囲気は同じような感じかもしれないけれど、一貫して面白いものを作ってくるのがさすがです。

オープニングで、昔の男に会いに行くときに、あの頃の曲を聴きながら向かうというのは、身に覚えのある話で見ていられなかった。しかも、Teenage Fanclub『The Concept』 ですよ。ちょっと、口ずさみながら、何度も何度も繰り返し流す。しかもカセットテープで。描写が細かすぎて、胸をえぐられるようだった。
このオープニングは映像自体も凝っていて、かなり力の入ったシーンだと思った。

主演のシャーリーズ・セロンは、怖いくらい綺麗でしたが、この映画ではそれがそのまま痛々しさに繋がる。演技もうまかったです。


『宇宙人ポール』を観て、いよいよサイモン・ペグ&ニック・フロストコンビが気になってきたので。今回もゾンビ映画パロディ満載だったらしいけど、それほど観たことがないのでわからなくて残念。

序盤、道を歩いていてゾンビにまったく気づかないシーンとか、ふらふら歩くゾンビに向かって「酔ってるんだろ?」と話しかけるシーンとかは、おそらく実際に町にゾンビが現われたらこうゆう風になるだろうなあという変なリアリティがあった。と同時に、状況がなかなか飲み込めないショーンたちの様子は、観ている私たち側がひやひやしてしまう。怖いというよりは、展開がコントのようでおかしかった。

身内や友達、恋人がゾンビ化して、苦渋の決断のすえ、それを殺さなくてはならないというのはゾンビ映画の典型的な展開だと思う。この映画にもそんなお約束の切なさはある。人体破損もあるしグロテスクなシーンもあるにはあるのですが、それよりは小ネタや茶化しが多く、サブカル色が強いと思った。
音楽の使い方もいちいちオシャレだった。劇中音楽にクイーンを使うゾンビ映画は他にないでしょう。

そして、ラストは最高のハッピーエンド! いい映画でした。やっぱりペグ&フロストいいなあ。


BDの特典映像がいやに充実してた。合成はすごく原始的なクロマキーだったみたい。
エドガー・ライト監督とサイモン・ペグが、プロットが書いてあるフリップをめくりながら作品の裏話を交えつつおさらいするのも面白かった。ペグ&フロストだけではなく、エドガー・ライトとも仲良しっぽかった。
映画本編に入りきらなかった、“その時何が?”を漫画で説明してくれているのも良かった。
NG集も出演者がみんな仲良さそうで和みました。


ロマン・ポランスキー監督作品。マンションの一室でのワンシチュエーションコメディ。二組の夫婦による会話劇で、79分、場面転換がないままリアルタイムで進んでいく。芝居向けだと思ったけれど、もともとが戯曲らしい。その構成を映画でもそのまま残してるのだと思う。

出演は、ジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴァルツ、ジョン・C・ライリーと全員アカデミー賞ノミネートや受賞経験のある実力派。本編に出てくるのはこの四人のみ。シンプルな作りだからこそ、役者さんたちの演技が重要になってくると思うが、さすがに全員うまかった。特にクリストフ・ヴァルツが良かった。私はどうも、彼のことが好きなようです。

要は口喧嘩なんですが、状況がいっこうに良い方向へ進まない不毛な話し合いは、傍から見ていると奇妙でおかしい。またテンポのよい会話の掛け合いの中で、四人の力関係が微妙に変化していくのもおもしろい。

場所は部屋の中から移動しないけれど、カメラワークが凝っていた。大きい鏡を映して奥行きを持たせるとか、夫婦が向かい合って座るテーブルのお誕生日席側から撮ることで、観客も部屋の中に入ったような感覚を持たせるとか。

たぶん、気づかないような細かい部分にもこだわりがあって、どれも完璧だったのだろうと思う。エンドロールでの、まあそうだよねというオチのつけかたも良かった。観終わったときに、いい映画観たなあという印象が残った。


スウェーデンオリジナル版。
リスベットがフィンチャー版に比べてかなりゴツかった。リスベットを演じたノオミ・ラパスのインタビューでは、「男勝り」「体を鍛える」みたいな単語が飛び出していたので、ゴツいという印象で正しいらしい。原作未読ですが、もしかしたら原作のリスベットはこっちの印象なのかも。私はフィンチャー版を先に見てしまったので、あの細っこくて可憐なリスベットの印象だったんですが。

謎の部分はほぼ同じですが、設定などが若干違いました。いろいろ含めて、原作を読んでみたい。

スウェーデン版は雪がリアルでしたが、フィンチャー版は過剰なくらい降っていた。CGによる演出らしいですが、他の演出もフィンチャー版のほうがいちいち過剰。予算の関係もあるのかもしれない。個人的には余計なゴテゴテした装飾が多いほうが、映像美とか様式美とかへのこだわりが感じられて好きです。もちろん、トレント&アッティカスによる音楽も、それを際立たせるのに一役買っていたと思う


原作未読、スウェーデン版未見です。

トレント・レズナーが音楽を担当しているというだけで、公開前からとても楽しみにしていた作品。予告で使われていた『移民の歌』カヴァーも恰好良かった。映像もPVのようでした。
本編でもオープニングにその曲が使われていて満足。劇中にもナイン・インチ・ネイルズのロゴTを着たハッカーが出てきたり、エンディングにHtDAが使われていたりと、トレントファンにも嬉しい作品でした。

ソーシャルネットワーク』でもそうでしたが、主張しすぎず、かといってひっこみすぎず、ちょっと心にひっかかるBGMがうまい。トレントは映画音楽の人になってしまうのかもしれない。今回は、ひんやりした白い景色をうまく際立たせていたと思う。特にミカエルがはじめて島に車で連れて行かれるときの、これから何か起こるぞというぞわぞわ感が引き立つ曲がよかった。

リスベットは小動物のような可愛さがあった。ピアスをいくつも開けて、革ジャンを着込んで、周囲を拒絶する態度を見せつつ、か弱い部分もちらちらと見える。またミカエルに恋をして、普通の少女らしい態度をとるあたりも良かった。

ドアをノックするときの「heyhey」という言い方も可愛らしい。口数は多くなくて表情もほとんど変わらないけど、行動に起こすのがはやいし、しっかり成果もあげる。恰好いい一面も持ち合わせていて、魅力的なキャラクターでした。

対するミカエルですが、エロい。ダニエル・クレイグだからエロいのかと思ってたけど、エロい役柄で正解らしい。セクシーとかではなくて、エロかった。演技はどうかなとは思いましたが、ハマり役だとは思う。

曇天、周囲から断絶された島、物書きが巻き込まれるというところから『ゴーストライター』にも似ていると思った。両者に漂う不気味な雰囲気がたまらなかったです。おもしろかった。

『J・エドガー』


去年の11月に海外にて日本語字幕無しで観賞、今回は一応二度目です。初回時は“FBI初代長官の人生”くらいの事前情報しか知らずに、しかも英語もほとんどわからない中、必死でヒアリングしながら観ました。
ちなみに、去年11月の時点で観ようか迷っていた作品がいくつかありました。ジョニー・デップの『ラム・ダイアリー』 はちょうど公開が終了する時期だったので断念。『三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』は観てはいなかったけど、日本でも公開してるしやめた。ジェイソン・ステイサムの『キラー・エリート』はアクション映画っぽいし、英語がわからなくても楽しめるだろうと思って候補に入れてました。本当は『裏切りのサーカス』が観たかった。最初の予定ではばっちりその期間に公開しているはずだったのに、いつの間にか、年末公開に変更されてた。

以下、ネタバレありです。



途中までは、主演のJ・エドガー・フーヴァー役、レオナルド・ディカプリオの語りを中心に淡々と進んでいく。クライド・トルソンとのディナーシーンでやけに濃密な雰囲気を漂わせながら視線を絡ませていて少し疑問に思って、さらに「I need you.」という言葉も飛び出し、でもきっと組織に必要だってことだろうと思いながら観ていたら、競馬の夜のシーンですよ。ホテルみたいなところで男二人でバスローブを羽織っていて、その雰囲気も少しあやしかったんですが、そこからの痴話喧嘩の果てのキス! 英語がほとんどわからない中、しかも、普通の伝記物だと思っていたので衝撃的でした。

これ以降、ずっとラブストーリーです。前半がやけに淡々と、ドライに進んでいったのに対し、後半はウェットな印象だった。

それをふまえた上で、字幕ありで鑑賞。伝記物というのは頭から取っ払って臨みました。

同性同士だからか、特に結婚をするでもなく、でも互いを信頼しあいながら、おじいさんになるまで一緒にいるって最高の関係じゃないですか。おじいさんになったトルソン君がエドガーに「世間にうそをつくのはかまわないから、僕にはうそをつかないでほしい」と言うシーンでぼろぼろ泣きました。すべてを理解した上で愛していたんだなあと。
この少し前にエドガーがヘレンに対し、遺言のような言葉を遺す、死を予感させるシーンがあるのですが、それ以降は、ラストまでずっと泣きながら観た。大純愛映画。
あとから知ったんですが、脚本が『ミルク』のダスティン・ランス・ブラックだったので納得。そりゃあ、ゲイ映画になるはずだ。


二回目の観賞で衝撃度は低かったですが、しっかりと話を理解できて良かったです。英語はあまりわからなかったけど、表情や喋り方、雰囲気やぽつぽつ理解できたフレーズで、大筋は当たってた。わからなくてもなんとかなるので、また海外に行った際にはついでに映画を観たいです。


去年末公開作。評判が良かったけれど観逃していてましたが、レイトショーでのリバイバル上映が決定したので行ってきました。


ちりばめられた映画の元ネタは実はほとんど知らなかったのが残念。『エイリアン2』くらいは観ておくべきだったと思う。もう観る前には帰れないし…。存分に楽しめたけど、きっともっとおもしろかったんだろう。
ストーリー展開は先が読めるし、ベタではあるけど良かった。一貫したポールの恰好良さと真っ当さに惚れました。ラスト付近でもポールの男気に泣かされた。観たときには知らなかったんですが、声をあててるのがセス・ローゲンだった。

サイモン・ペグとニック・フロストのコンビが可愛い。実は『ホットファズ』を観たときにはそれほどコンビっぽさを感じなかったんですが、今回は本当に仲良しで楽しそう。せっかくなので『ホットファズ』
も見直したい。いま観たら、きっと違った感想を抱けそう。あと『ショーン・オブ・ザ・デッド』ですね。他にもあの二人共演作はたくさんあるようなので観ていきたい。『タンタンの冒険』にも出てるらしい。脚本がエドガー・ライトだから? その関連でなのかわからないけど、今作にはスピルバーグが声のみでカメオ出演していました。