『声をかくす人』


ロバート・レッドフォード監督作品。この間観た『リンカーン/秘密の書』とは趣がまったく違うリンカーンもの。リンカーン暗殺に関与した女性の裁判の話。
以下、ネタバレです。



ネタバレといってもこれも『アルゴ』と同じく、事実を元にした映画なので、ネタバレらしいネタバレはないです。ポスターに“アメリカで最初に絞首刑となった女性の…”と書いてあったので、結末はわかっていた。それなのに、観ながらイライラしたり、なんとか死刑を回避できないかと祈るような気持ちになった。

主人公の弁護士は、最初は嫌々引き受けていたが、次第に何かおかしいと気づき、正義感に目覚めていく。大きすぎるシステムに戦いを挑んで、自分の無力さに気づく。そしてラストでは、観ているこちらもやりきれない気持ちになった。劇場のいろいろな方向から重苦しいため息が聞こえていた。決して後味が悪いというわけではないです。心にしっかりと残る映画で、とても観ごたえがあった。

映画に没頭できた要因の一つとして、出演している俳優さんの演技力の高さがあげられると思うんですが、弁護士役はジェームス・マカヴォイ、良かったです。今回、マカヴォイ目当てでもあったんですが、かなり渋い役柄でした。顔は可愛らしいのに、重い役を演じているのをよく見かける。今回は『つぐない』と似た印象を受けた。『つぐない』が2007年、今作がトロント国際映画祭で上映されたのが2010年なので、『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』より前なんですね。

弁護士として戦っている様子を見て、「本当の親子でもあるまいし」と揶揄されたり、本当の息子が弁護士に向かって、「あなたのほうがいい息子でした」と言ったりと、弁護士と容疑者の女性は、いつの間にか疑似家族のようになっていた。でも、しんみりとした家族物というのが主題ではなく、あくまでも力との戦いに重きが置かれていたように思った。

今回、フィルム上映で観たのですが、全体的に日差しがとてもやわらかく撮られていたのはフィルムのおかげなのか、それとも意識して観ていたからなのか。
独房の窓から差し込む光、裁判所に差し込む光。晴れているけれど、ぎらぎらしていたり、色をぱっきりさせる強さは無かった。どきつさみたいなものは、徹底的に排除されていた。
処刑台に向かうシーンでも、太陽はあくまでも日傘越しだったのが印象的でした。

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