『ゼロ・ダーク・サーティ』

『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロー監督作品。ビンラディン殺害作戦の中心人物であるCIAの女性を主人公にしている。実話を元に作られた映画。実話を元にといっても、脚本にジャーナリストの方も関わっているため、ほとんど正確なのかもしれない。ちなみにこのマーク・ボールという方は『ハート・ロッカー』でも脚本を担当しています。
以下、ネタバレです。







『レッド・ライト』も観たかったので、本当は一日二本観ようとしてたんですが、疲れるらしいとの話を聞いていたので、別々の日に観ることにしました。

序盤に拷問のシーンが多く、そのどれもがリアルに描かれていたため、これを158分だとさすがに疲れると思ったけれど、そうゆうことではなかった。拷問は、非難の意見が世界から集まっているのに考慮して、途中で行われなくなったらしい。

主人公マヤを演じる、ジェシカ・ジャステインがうまかった。最初は拷問にも目を背け、頼りない感じだったけれど、次第に口調がはっきりしてくるし、早口になってくる。終盤は昔の同僚に電話で当たり散らかしたあとに無理なお願いをする、上司につっかかるなど、ワンマンのような、でも強い信念が感じられる行動をとるようになっていた。マヤ視点で話が進んでいくので、ものわかりの悪い上司には苛々したし、話が進むに連れて、マヤのことを全面的に信頼するようになっていった。

同僚の女性と食事に行って、「友だちいないの?」って聞かれて黙ってしまってましたが、その同僚と友だちっぽくなっていたのも良かった。チャットだかメッセのやりとりでcool!などくだけた文章を送っているのも可愛かった。でもこのシーン、嫌な予感しかしない。もう友だちになったのも伏線だったかのような気さえする。
向こうの金持ちを向かい入れる時に「怖がるから警備員は立たせないで」と言っていたけれど、確かにそうかもしれないけど、それは怖い。脇が甘い。心配しながら観ていたら、やっぱり自爆テロで死んでしまった。

潜伏場所を見つけるまでの緊迫感と、見つかってからも諸事情で突入できないイライラも良かったんですが、後半の突入シーンも圧巻。
もちろん実際に突入するのは特殊部隊の方々で、マヤではない。それまでマヤ視点だったので、突入シーンは省かれそうなものだけれど、異様に丁寧にしっかりと描かれている。この辺はとても盛り上がるし、このシーンが終盤にあるとないとでは映画の印象が全然違う。
急にミリタリーものになったようでした。ステルスヘリも恰好良かったし、ごてごてした装備を付けた特殊部隊の方々も良かった。あの暗視スコープがレンズ四つ付いてたのはなんなんだろう? 普通二つなのかなと思うけれど。いろんな方向が見えやすいようにかな。
突入される建物もまったく同じ大きさにセットを作ったらしい。かなりリアリティが追及された凝った映像。

暗視スコープの目線のカメラなので、最後には観客である私までも謎のやり遂げた感を味わえた。疲れるのは主にこのシーンのせいなのではないかと思う。


実話を元にしているから結果がわかっている。なのに、ハラハラドキドキしてしまうこの感じは『アルゴ』で味わったのと同じもの。ただ、『アルゴ』が三地点のカメラの切り替えなど演出面で盛り上げたのに対して、『ゼロ・ダーク・サーティ』はリアリティをとことん追求した迫力ある映像で盛り上げる。実際にあった事件を元にしているのは一緒でもそのとらえ方が違う。どちらも好きです。
この二作がいまのところのショーレースを席巻しているのも面白い。アカデミー賞はどうなるんでしょうか。

この映画、男社会で働く女性が主人公だし、監督も女性なので、ややもするとフェミニスト映画にとらえられがちだと思うけれど、そういった印象がほとんど残らなかった。セクハラらしいセクハラを受けないせいかもしれない。女性の同僚に「彼と寝た?」って聞かれるくらい。あと、「私がクソッタレです」のあたりだけ。

初対面で「冷血そうだ」と言われるように、何回か気持ちを爆発させるシーンはあっても、大抵のシーンではキビキビしていて、しっかりしているように見えた。

だからこそ、そんな彼女が最後に一人になったときに涙をぼろっとこぼすシーンは、多少あざといけど、気持ちがよく伝わってきた。


『ハート・ロッカー』を観たあとも、なかなか現実に戻ってこられなくて、帰りに地下鉄に乗っている自分がなんか不思議な感じがしたのですが、今回も観たあとに、同じように変にふわふわした気持ちになっていた。二作続けて、ここまで入り込める映像を作ってきたのがすごい。キャスリン・ビグロー監督の過去作も観てみたい。


マーク・ストロングが上司役で出てきて、とても恰好良かったのですが、なぜかカツラをかぶらされていた。なぜいつものハゲでは駄目だったのか。
マーク・ストロング演じるジョージは、最初は威勢良く机をドンとか叩いて説教していたのに、最後のほうでは突入する建物の中にビンラディンがいる可能性を聞かれ、他のひとが60パーセントと答える中、一人80パーセントと答えていた。この時、マヤはもちろん100パーセントと答えているのですが、完全に彼女に感化されている。
そうゆう影響されやすさや若さみたいなものを表現するために、毛のあるマーク・ストロングだったのかな。


あと、本編の前の予告の最初にミリタリーショップのCMが入ったんですよ。そのときは何で映画館でミリタリーショップのCMが?と思って少し気にはなったものの、内容はそんなにしっかり観ていなかったんですが、これって、本編の終盤のキモのシーンへの布石ですよね、きっと。
有楽座で観たんですが、前の上映作のときには流れていなかったらしいので、今回のみ特別に流してるのかもしれない。他の映画館でも流れるのか気になる。

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