『大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院』


フランスの山奥にある厳格な男子修道院の内部を撮影したドキュメンタリー。

1984年に撮影を申請したときには許可が下りず、準備が整ったと連絡が来たのが16年後だったとのこと。日本では更にその9年後の公開になった。

『大いなる沈黙へ』というタイトルの通り、映画には音楽がつけられていない。ナレーションもなし。修道士たちの会話も週に一回数時間しか許されていないため、ほとんど生活音と賛美歌のみである。
それが2時間49分。最初は見守るような気持ちだったのに、次第に自分もその修道院に入ったかのようになってしまう。

カメラも最初は扉と扉の隙間から遠慮がちに撮影していたのに、少しずつ、内部へ入っていく。それでも、しっかり配慮は感じられて、話しかけたりはしないし、一定の距離は保たれている。無遠慮にズケズケと撮影したり、いままでカメラが入れない場所だったからといって、秘密を暴こうという卑しさみたいなものは感じられない。

古く、ひんやりした質感で、それぞれの部屋はまるで刑務所の独房のよう。食事も質素。毎日の生活も同じことの繰り返しに見える。でも、一人一人の表情を正面からとらえた映像を見れば、そのつつましく禁欲的な生活が彼らに与えるものがわかるようだった。全員、穏やかな表情をしていた。
最後の方で一人だけ盲目の修道士のインタビューがあるんですが、「目が見えなくなったのもその方が良いと思ってそうなったことだし、死すら怖くない」と話していて、それを聞いていても、彼らの心の中がよくわかるようだった。
また、週一回の外に行ってもいい時間を撮影したシーンで、山だからみんなでそりで遊んでいるんですが、それがこの上なく楽しそうでとても和んだ。

回廊を歩く白いフードの修道士たちはそれだけで絵になる。修道院の周囲の自然も撮影されていて、植物の接写も美しい。静かに雪が降りしきる冬から気温が上がって来てもやが立ち上る春、太陽が降り注ぎ、花壇か畑か水やりが捗る夏、次第に葉っぱに霜が降りて、また冬が来る。季節も丁寧に撮影されている。

ドキュメンタリーがおもしろいのは、知らない世界を知ることができることだ。私は男子修道院には絶対に行くことができないから、この映画を通してしか、内部の様子を見ることはできない。
創作物ではないのに圧倒的な世界観だった。

この前観た『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のような賑やかで楽しいものも、映画館で観るものだと思うし、この映画も家では2時間49分、集中力がもたないと思う。
周りが真っ暗で、音がしなくて、椅子にじっと座ったまま、画面を見つめ、次第に神聖な気持ちになっていく。映画館内が独特な空間になっていたと思う。素晴らしい映画体験でした。

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