『イタリアは呼んでいる』


立派な邦題を付けてもらいましたが、『スティーヴとロブのグルメトリップ』の続編。
監督は同じくマイケル・ウィンターボトム。こちらも完全版がテレビシリーズで放映されたようです。

以下、ネタバレです。
『スティーヴとロブのグルメトリップ』のネタバレも含みます。





前作とほとんど同じです。舞台がイングランド北部からイタリアに変わっただけ。なので、タイトルも『スティーヴとロブのグルメトリップ:イタリア編』などにしたほうがわかりやすそう。
今作でも、料理を作っているところが少し映ったり、テーブルに運ばれて来るときに店員さんが料理名を言ったりはするけれど、彼らが料理に対するコメントをすることはほとんどない。
じゃあ何をしているのかと言ったら、今作ももちろんモノマネである。
そういえば、今作では運ばれて来たパンをちぎって両頬に入れてモノマネの小道具として使ったりもしていて、やっぱりこれはグルメ映画ではないと再確認させられた。
でも、馬鹿馬鹿しいお喋りや、時々本当に笑っちゃってるところなど、本当に観ているこちらまでにこにこしてしまうシーンばかりだった。

前作ではどっちが似ているかのモノマネバトルが多かったけれど、今作ではモノマネを交えた即興コントみたいなのも飛び出してより楽しい。
特に、お馴染みマイケル・ケインのモノマネから『ダークナイト ライジング』ネタになり、クリスチャン・ベールとトム・ハーディ(というかベイン)のモノマネまで出てきたのは、元ネタが好きなこともあって本当におもしろかった。多分、一人で観ていたら声を出して笑っていたと思うけれど、周りで誰も笑っていなかったので、声を堪えるのに必死だった。堪え過ぎて、なぜか涙が出てくるほどだった。しかも、このシーンはしつこいし結構長い。

今回は運転のおともとして、ロブがアラニス・モリセットのファーストアルバム『Jagged Little Pill』を持ってくる。スティーヴは、最初、アラニス・モリセットを馬鹿にするような発言をしていたけれど、曲を流せば、歌詞につっこみを入れたり一緒に歌ったりと楽しそうで、本当は好きなのがわかる。
スティーヴの憎まれ口は、単なる憎まれ口で、本心は別のところにある人物なのだというのがわかる。だから、ロブに対しても終始わーわー文句を言ってるけれど、本当は好きなんだろうねと思う。
『Hand In My Pocket』を歌いながら、実際に片手をポケットに片手でハイファイブをして、ロブに危ないからやめろと言われるシーンも笑った。「だってアラニスがそう言うから」としれっと言うスティーヴに、「運転してるときには両手でハンドル持てってアラニスも言うよ!」とロブ。

掛け合いが本当にどれも楽しい。
「アメリカでも英国人バーに行ってたくせに」と罵られたスティーヴが「アメリカ人にも友達いるよ。オーウェン・ウィルソンとか」と答える。咄嗟に彼の名前しか出てこないあたり、本当に友達がいなさそう。「『ナイトミュージアム』撮影以降会った?」と聞かれ口ごもっていた。

それ以外にも、眉を片方ずつ交互に上げるのがどちらがうまいか競ったり、マンドリンの真似をしたりしていた。
会話自体、全部何気ないし、脚本がないと書いてあったけれど、大筋のキャラクター設定はあるにしても、本当にすべてアドリブなのかもしれない。
でも、そんな仲良し同士の会話を覗き見るのが本当に楽しい。罵り合いながらも、相手の言うことに爆笑しちゃったり。もう年齢的なこともあるだろうけれど、大げんかをしてもこの二人はすぐに元通りになると思う。

少し話し出すとお喋りが止まらなくなるのだけれど、それはレストランで料理が運ばれて来ても同じこと。普通ならば、おいしそうな料理が来たら目を奪われるし、食べたら料理の感想を言うはずだ。お喋りよりも料理に興味が移る。
けれど、彼らの場合、興味はずっとお喋りやモノマネに釘付けなのだ。話題の中心が料理には移らない。
おいしそうな料理が出てくれば出てくるほど、それを越えてしまう会話の大事さが際立ってしまう。そのためのグルメ描写なのではないかと思わされるほどだ。

前作を観ていないと話がわからなくなるような続き方はしていないけれど、観ていると余計に楽しい。カメラマンの女性の話が出てきたときにも、前作に出てきたあの人か…とスティーヴと一緒に気まずい気分になれたりもする。

前作が公開されたのが2010年、今作が2014年。撮影されたのはそれぞれ少し前としても、数年間空いている。
しかし、ノリ自体はまったく変わらない。私が視聴したのは10日ほど前ですが、本当に同じ。
久しぶりに会っても、本当に親しい友人だとすぐに元の調子に戻る

ただ、二人の関係は変わらなくても、二人それぞれの個人的な状況は変わっていたようだ。
前作で、行く先々で女性と寝ていたスティーヴは、ギラギラした野心みたいなものがなくなり、丸くなったようだ。最後も、別れた妻と一緒に住んでいる息子の側に住みたいと言っていた。

一方、ロブは、前作の最後で妻と離れたくないと言ってベタベタになっていたけれど、今作では妻に電話しても、子供を優先されてないがしろにされてしまう。アメリカでの役が貰えた話をしようとしても、聞いてもらえない。夫婦仲が冷えているようだった。

ちゃんと時の流れを感じる。年月は移り変わり、時間が積み重ねられている。前作を観ていると、それがわかって感慨深い。

また、前作と今作がなんとなく対照的な作りになっているのもわかる。
今作では、スティーヴはカメラマンの女性とは寝るものの基本的におとなしい。今回、アバンチュールにはまってしまうのはロブのほうだった。仕事の面でも悩んでいるようだった。

これは、イギリス盤のDVDのジャケットが象徴していた。
二人が並んでいるのは一緒だが、前作、『スティーヴとロブのグルメトリップ』では、ロブがガハハと笑っていて、スティーヴが難しい顔している。『イタリアは呼んでいる』のほうは、スティーヴがにっこりしていて、ロブが眉をひそめてる。
二人ともに中年の悩みは感じるけれど、より深く考えているのは、前作ではスティーヴ、今作ではロブなのである。
そのため、片方を観ておもしろいと感じたら、両方を観た方が対になっているのがわかっておもしろいと思う。それなのに、日本版では邦題がまったく別作品のようになってしまっているのが残念である。

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