『ギリシャに消えた嘘』



『太陽がいっぱい』の原作者パトリシア・ハイスミスの『殺意の迷宮』が原作。監督は『ドライヴ』の脚本家ホセイン・アミニ。音楽はアルベルト・イグレシアス。キャストは富豪役でヴィゴ・モーテンセンと妻役にキルスティン・ダンスト。そこに絡む旅行ガイド役にオスカー・アイザック…という感じに、スタッフ・キャストを並べてみただけで大体の雰囲気がわかる。

以下、ネタバレです。






ヴィゴ・モーテンセン演じるチェスターとキルスティン・ダンスト演じるコレットが金持ち夫婦で、旅行中の彼らをオスカー・アイザック演じるライダルが騙すようなシーンがあるため、悪役というか、元凶はライダルなのかと思っていた。
でも、ライダルは小銭をちょろまかす程度の詐欺しか働かず、チェスターがもっと悪い奴だった。ライダルはただただ巻き込まれていく。

わりと序盤でチェスターは人を殺してしまい、ライダルはその逃避行に付き合わされる。チェスターは殺人のせいもあるし、ライダルとコレットの関係にも嫉妬してしまうので、全体的に追いつめられている。そのため、本当に最初の方だけ身なりがきっちりとしているものの、大体のシーンで御髪は乱れ、シャツの襟元はだらしなく開いてしまう。そんな疲れきったヴィゴ・モーテンセンがセクシーでした。
後半で、空港で検査を受けるシーンがあるんですが、その時にはきっちりに戻って、それはそれで恰好いい。金持ちらしさなのか、ジャケットが白いのも似合います。

『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』以来のオスカー・アイザックだったんですが、彼もとても良かった。今回は髭はない。そのせいなのか、目元がどんよりしているのが目立った。
笑っていても目元が暗いのが気になる。『スター・ウォーズ』の新作も控えているけれど、あの目つきでは曇りの無いヒーローはできないと思う。何か裏がありそうというか、影を背負っていそう。でも、そんなところがとても気になる。常になにか、悪いことを考えていそう。

今作では、序盤からチェスターをじっと見つめていて、それは、まるで獲物を見つけたハイエナのように見えた。父親に似ているという理由を口にしていたけれど、それも口からでまかせなのかなと思ってしまった。本当だったようですが。

話の中では、ライダルがチェスターをカモにするのかと思っていたら、次第に立場が逆転していく。チェスターがどんどん悪魔のようになっていき、ライダルは魅入られた若者のようだった。離れたいけれど離れられず、話が進むにつれて、関係がどんどん濃厚になっていく。特に、コレットの死以降は、秘密の共有のせいで、互いに憎みつつも離れることができないという、運命共同体のようになってしまった。

船においかけてきたライダルがチェスターの正面に座るシーンが良かった。ライダルはコレットを殺されたことで怒りのあまり涙ぐみながらチェスターを睨みつけ、チェスターも余裕の表情を浮かべながらも本当は殺したくなどなかったと涙ぐむ。
セリフは一切ないし、表向きは他の人の目を警戒してただ単にテーブルに向かい合って座っている二人のように見えるけれど、その実、二人の周囲の空気だけが強烈に濃くなるのがわかる。セリフはなくても、怒り、憎しみ、哀しみなど、激しい感情が入り混じって絡み付くのがわかる。二人の演技のうまさのせいもある。

また、空港で、親子を装うシーンも良かった。元々、父親に似ているということで近づいたことを後悔している気持ちもあっただろうし、父親が亡くなった今、父親のような人物と一緒にいる皮肉も感じた。ここも、顔は笑いつつも、ひそひそと憎しみの言葉をぶつけるのが良かった。
あと、それまで、ほとんど睨むようにしてチェスターを見ていたライダルが「父さん」と言うときだけ、少し甘えたような、優しい表情になるのも見のがせなかった。オスカー・アイザックの活躍は今後も楽しみです。

最後、死ぬ間際にちゃんと謝罪の言葉を口にして、罪も全て認めるということをやってのけるあたり、チェスターもライダルのことを憎んでいただけではないのがわかった。ライダルもチェスターの墓参りに訪れていたし、お互いにこんな出会いでなければ、親密になれたのかもしれない。ただ、秘密の共有により濃くなった関係とも言えるからどうだったろう。ただの、現地ガイドと旅行者として、互いに通り過ぎていく関係で終わったかもしれない。

チェスターとライダルの愛憎入り混じった関係がとても良かった。愛1:憎9くらいの関係であったとしても。

舞台がギリシャのアテネ、クレタ島、トルコと異国情緒あふれているのも良かった。
ただ、少し土曜ワイド劇場っぽさを感じたのはなんでなんだろう。原作が発行されたのが1964年、舞台が1962年の話だからか、古典ミステリーの雰囲気があるからだろうか。いかにもあやしげな音楽のせいかもしれない。

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