『キングスマン』



マシュー・ヴォーン監督のスパイ映画。原作はマーク・ミラーによるグラフィックノベル。『キック・アス』コンビです。
コリン・ファース、マーク・ストロング、マイケル・ケインと個人的に好きなイギリス俳優が三人揃ったシーンではにやにやしてしまいました。
主演は新人のタロン・エガートン(イギリス人)。

以下、ネタバレです。








テーラーの裏にスパイの基地があって…という設定からまずわくわくする。テーラーなので、スパイもスーツ。このスーツ姿のコリン・ファースがものすごくかっこいい。背筋はきりっと伸びていて、細身のスーツでスタスタと歩く。かけると様々な表示が出る黒ブチ眼鏡もよく似合っていた。
スパイものなのでスパイ道具もたくさん出てくるけれど、それも、指輪、オイルライターや万年筆、フォーマルな靴から飛び出す毒の塗ってあるナイフと、スーツに合わせて不自然の無いものになっているのが粋。ちなみにスーツも防弾らしい。
特に銃の仕込んである傘は大活躍していた。開くと、防弾の役割も果たす。

普通、アクションは動きやすい服で行うものだと思うけれど、スーツ、しかもきっちりしたもので、隙の無いアクションをこなすのがかっこいい。倒した後にはすました感じになるのもいい。

逆に、敵がこれでもかというくらいラフな格好をしているのが対照的でおもしろかった。漫画だからなのか、どちらが悪いとも言えないといった曖昧なものではなく、明確な敵です。しかも最初から出てくる。
敵を演じたのがサミュエル・L・ジャクソン。彼がキャップを被り、ラッパーのような格好をしているのが意外。でも、ただ者ではなさとか底知れなさが出て怖い。
ポスターなどにもこの格好で載っているけれど、服装が敵っぽくないので仲間かと思っていました。

最初のランスロット(ジャック・ダヴェンポート)が教授(マーク・ハミル!)を助けにきたシーンからして、とても恰好良かった。流れるような動きでばったばったと敵を薙ぎ倒し、高いウイスキーは無事にこぼさずに手にとって香りを嗅ぐ。イカす。
この人かっこいいなと思っていたら、その直後にあっという間に殺されてしまうのも漫画っぽかった。しかも殺され方が縦半分にまっ二つに切られるという。これがなぜかグロテスクではない。流れるように敵を倒した続きのようにまっ二つにされるからだろうか。原作が漫画というのを意識しての、マシュー・ヴォーンの演出なのかもしれない。血が吹き出ないせいかもしれない。ともかく、この映画のスタンスがここでわかった気がした。

ここでまっ二つにするのが敵の秘書的な役割の女性。マシュー・ヴォーン監督は「パラリンピックの選手の義足をヒントにしたんだよ」と言っていて、それは観ればわかるんですが、「義足が武器だったらかっこいいなって」ってそれも気持ちはわかるし考えたこともあるけど、実現させてしまうとは。
この映画はマシュー・ヴォーンの“ぼくのかんがえたかっこいいスパイえいが”イズムでもって作られているのだ。

映画内では大量に人が殺されますが、どれもこれもが漫画っぽい。チップが埋め込まれた人たちの頭が順番に爆発するシーンがあるが、普通なら、血みどろでかなりグロテスクになるだろうし、それが大人数だからほぼホラーのようになってしまうのではないかと思う。
この映画では頭が爆発するのと同時に花火が上がる。おまけに音楽は威風堂々である。会議テーブルに円になって座っている人たちの頭が爆発し、花火が上がるのを上からとらえているシーンでは、ロンドン五輪のセレモニーを思い出した。こんなことを書くと不謹慎な!と思われるかもしれないけれど、たぶんこれだけイギリスに傾倒している作品だと意識もしているのではないかなと思うけどどうだろう。

そう言われればそうかとも思うけれど、コリン・ファースにとって、初のアクションシーンらしい。そうとは思えないのが、教会でそこにいる大人数を一人で一網打尽にするシーンである。敵の武器を奪いながらの流れるようなアクションは、序盤のランスロットのシーンの拡大版といった感じ。やっつける側だけでなく、倒される側にも連携した動きが要求される。混乱しているようでいて、すべて計算ずくなのだ。これをワンテイクで撮ったというからすごい。
ここのシーンは『キック・アス』を思い出した。音楽もノリノリである。ただ、ヒットガールが嬉々として殺しまくるのに対し、この映画のハリー(コリン・ファース)は制御が利かなくなっているだけなのだ。
優しい男なので、操られるようにしてそんなことをした自分の行為が許せない。しかも、その後悔の中で、彼自身も撃たれて殺されてしまう。
原作があるものなのでその通りなのかもしれないけれど、本当ならば死なないでほしかった。

これも原作の通りなのだろうしどうしようもないけれど、アーサー(マイケル・ケイン)の展開も残念だった。
コリン・ファースとマイケル・ケインとマーク・ストロングが一つの画面に並んだときに、このメンバーで続編も作ってくれないかなと思ってしまった。けれど、途中でメンバーも減ってしまい、この三人に関してだとマーク・ストロングしか残っていない。
できることならば、このチームのままで進んでいって欲しかった。

マーク・ストロングもとても素敵でした。『裏切りのサーカス』であんなことになってしまったビル(コリン・ファース)とジム(マーク・ストロング)が、この映画では信頼関係を築いているのが感慨深い。
最後の潜入シーンで、マーリン(マーク・ストロング)が飛行機の中から後方支援をするんですが、ロキシーとエグジー二人同時なのであわあわしてしまい、少しコミカルな演技になっていた。コミカルなマーク・ストロングはあまり見られないので良かった。相変わらず渋くていい声。

ちなみに、後方支援をする一人のロキシーは宇宙へ行っているあたりも漫画っぽい。このシーンのマシンも『キック・アス』を思い出しました。

コリン・ファースが英国紳士そのものであるのに対し、彼が連れてくるエグジーは典型的な労働者階級の青年である。彼を一人前のスパイに仕立て上げる、もしくは彼が一人前のスパイへと成長するのが本作のテーマというか中心となる部分である。
エグジーは、常にポケットに手を入れているし、部屋に入るときにノックもしない。裏ピースで挑発する。素行が悪い。住んでいるのも集合住宅だ。

どこにでもいる普通の青年で、彼は映画を観ている側の代理のような役割でもある。観客の視点でテーラーの仕掛けや、おしゃれなスパイ道具の数々を見ている。だから、彼がスパイの世界へ身を投じて行く様はドキドキするし、彼を応援したくなる。

何より、犬や仲間を大事にしたり、うまくいったときのウインクなどがキュートで、生意気なところはあるけれど可愛いのだ。

エグジーはまるで仇をとるように、最後にはハリーと同じ格好、スーツと黒ブチ眼鏡で大暴れをする。本当ならば、この立派に成長した姿をハリーにも見届けて欲しかった。そして、最後の悪戯?ご褒美?悪巧み?を止める役割でも担っていたら良かったのに。

でも、まさに仇討ちなんですが、エグジーが最終決戦の武器として傘を持って行く描写にはぐっときたことも事実で、これはハリーが殺されないと成り立たない。
それでもやはり、あるのかどうかわからないけれど、続編があるならば、コリン・ファースにも出て欲しかったから、殺さないで欲しかったのだ。
スパイというのは厳しい世界なのもわかる。前半でもランスロットがあっさりと半分にされていた。だから、誰だってあっさり殺されてもおかしくないのだ。でも、本当だったらランスロットだって生きていてほしかったくらいなのだ。そうしたら、話がまったく進まないけれど。
主役級、しかもチームを組むようにして戦っている場合は、なるべくならば、チームでわいわいやりながら、全員生還して欲しい。そして、次回作も同じ仲間で観たいのだ。だから駄目だと言っているわけではなく、あくまでも個人的なストーリーの好みの話です。

エグジーを演じたのはタロン・エガートン。2014年公開(日本未公開)の『Testament of Youth』に続く、映画出演二作目らしい。
次作はイギリスで9/9に公開されたばかりの犯罪スリラー映画『Legend』。原作はジョン・ピアーソンの『The Profession of Violence』(1972年)(『ザ・クレイズ』のタイトルで1990年に映画化もされているけれど、日本ではVHSしか出ていないようです)。監督は『ロック・ユー!』のブライアン・ヘルゲランド。トム・ハーディが主演、双子を一人二役で演じる。クリストファー・エクルストン、ポール・ベタニー、コリン・モーガンと魅力的なキャストが揃っている中、名前が上のほうに載っているので、準主役だろうか。大出世である。



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