『アントマン』



マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)12作目の作品であり、一作目の『アベンジャーズ』の次から始まったフェーズ2の締めくくりとなる作品。時系列的にも『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』のすぐあとの話とのこと。
CMや予告などでもMCUについてはあまり触れられておらず、単なるヒーローものととらえられているかもしれないけれど、思ったよりも本筋と関わってきていた。当然、今までの作品を把握しておいたほうがニヤリとさせられる場面も多く、話の流れにもついていきやすい。

ただ、すでに11作もあるので観るのが大変だし、大ヒット(と言ってもいいと思う)していて好評なことから、単体で観てもおもしろいのだと思う。むしろ、これから観て、過去に遡ってもいいのかもしれない。

最初はエドガー・ライトが監督をするはずだったが降板。それは残念だったけれど、どの辺で関わっているかわからないけれどテイストは感じられるものになった。
代わりの監督はペイトン・リード。『イエスマン“YES”は人生のパスワード』など、コメディ映画を中心に撮っている方。
エドガー・ライトにしてもそうだけれど、どちらかというとスモールバジェットコメディ映画を撮っていた監督が、マーベルヒーロー映画を撮るのは意外な気がしたけれど、これがとてもよく合っている。しかも、今までのMCUものとはまったくテイストが違う。でも、しっかりと組み込まれているあたりが唸らさせる。

以下、ネタバレです。









まず、主人公スコットが刑務所にいる場面からスタート。何かしら理由があったみたいですが(前日譚コミックに描いてあるらしい…)、冤罪ではないです。しかも、出所してももう一度、盗みを働いてしまう。
ここからして、とてもヒーローものとは思えない。しかも、指紋認証を通り抜けるための採取法、金庫を開くための技術など、手口が鮮やか。撮り方もテンポがよく、まるでクライムムービーのよう。
家宅侵入したのはスコットだけだけれど、その刑務所友達である3人が車から指示を送っていた。スコット一人ではなく、仲間もいるのがよりクライムムービーっぽさをかきたてる。

そして、厳重な金庫をあけても盗むべき金目のものはなく、あったのは古いライダースーツ(実はアントマンスーツ)だった…というところから、いつの間にかちゃんとヒーローものになっていく。ここも盗みのシーンと同様、手口が鮮やか。

ヒーローになると言っても、世界を救うんだ!とか目に見えないものへの責任感が急に芽生えたわけではない。なんせ、スコットは普通の男(前科持ち、離婚歴あり)なのだ。大金持ちでも根っからのヒーローでもスパイでも王子(というか神様)でも科学者でもない。
スコットは、離れて暮らす娘に尊敬されたい、という想いだけでアントマンになることを決意する。

普通の男なのでヒーローになるための特訓もするけれど、特訓シーンもテンポが軽快だった。
鍵穴をすり抜けようとするけれど小さくなるタイミングがはかれずにドアに激突する、蟻と仲良くなろうと蟻の巣へ入るが失敗して通常の人間サイズに戻り蟻の巣を破壊する…。何をやってもうまくいかないのは、彼の人生のようである。けれど、失敗をコラージュのように組み合わせることにより、失望ではなく、やれやれというようなおかしみが生まれ、笑いが漏れる。
これは、スコットを演じるポール・ラッドの力でもあると思う。

特訓の成果を見るために、アベンジャーズの建物へ忍び込むテストをさせられるのだけれど、そこでファルコンと鉢合わせをしてしまう。こんなにはっきりとアベンジャーズメンバーが出て来るのにもびっくりした。途中で「彼らは空の都市の戦いで忙しい」みたいなセリフが出てきて、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』の話をしてるなとは思ったけれど、その程度なのかと思っていた。ファルコンとのちゃんとした対戦が見られるとは思っていなかった。完全に話が繋がっていた。
ファルコンとの戦いはアントマンの生みの親であるハンク・ピム博士には止められるけれど、スコットはなかば強行するような形で戦う。当然、帰ってきて博士に怒られるけれど、実はミッションは見事成功していて、目当てのものは手にできていた。
ここのポール・ラッドの、“ちゃんと取ってきたよ? 何か問題でも?”というような表情が良かった。口をへの字にしてちょっとおどけたような、余裕の表情。少なくとも、雇い主というか上司というか、上の人へ向けての表情ではないんだけど、それが許されるスコット・ラングというキャラクターとそれを演じるポール・ラッドがいい。

なんとなく、飄々としているけれどやるときゃやるみたいなスタイルが、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のスター・ロード、ピーター・クィルのようであり、演じていたクリス・プラットと似ているように感じた。彼の前科は一応消されたものの、二人とも収監されているあたりも同じ。この先、MCU内で二人が会うこともあるのだろうか。

このように、この先のワクワクまで植え付けられる。
今回、エンドロールのあとのオマケ映像ではキャプテン・アメリカとファルコン、そして、バッキー(ウィンターソルジャーというよりバッキーでいいのだと思うけどどうだろう)が出てくる。MCUの次作は『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』である。おそらく、ファルコンが橋渡し役となり、次作にもアントマンが登場するのではないだろうか。
二人は戦っていたし、少なくとも今現在は友好的な感じでは無さそうだ。どのような経緯で協力することになるのかも楽しみ。

もちろんこの先だけでなく、今作を単体で観ても充分にワクワクする。この映画の基本構造の部分ですが、主人公は小さくなって戦うヒーローなのだ。だから、『ニルスの不思議な旅』のような、新しい世界観が広がっている。映像的にも楽しい。
また、本人らが真剣に戦っていても、普通サイズの人間から見たら本当に小さな、些細な戦いになっていて、それがよく表れているのが予告編の機関車トーマスのシーンである。
アントマンたちからしたら、本物の汽車サイズだから轢かれそうになるのはまさに死闘だけれど、普通サイズから見たら、おもちゃがぺこっと脱線しただけである。この、死闘と力の抜ける“ぺこっ”が交互に出てくるのがおもしろい。ちなみにこの最終決戦も行われるのが子供部屋なのも新しい。

このトーマスの脱線シーンは予告編にも出てきて、他の映画を観に行ったときでも必ず笑いが起こっていたけれど、本編はこれで終わりではなく、巨大化するディスクが誤って当たってしまう。機関車トーマスのおもちゃが、逆に大きくなってしまうのだ。大きくなっても、目玉がぎょろぎょろと動き続けているのがシュールだし、予告ですべてを見せているわけではないのもおもしろい。

緊迫しているようで通常サイズの人間から見るとなんてことない戦いは、カバンの中でも繰り広げられていた。誤ってiPhoneに当たってしまい、お気に入りの曲が再生されてしまう。端から見たら、ただの音の出るカバンである。

アントマンの小ささを示すためなのか、スクリーンに対してとても小さく映されるシーンがいくつかある。できることならIMAXで観たかった。小さいスクリーンの2Dでは見つけ難いかもしれない。私は3Dで観たが、しっかりと小さいアントマンが浮き上がっていたのでわかりやすかった。
また、羽アリに乗って飛ぶスリリングなシーンもあるので、3D向けだと思う。あと、ラスト付近の次元世界の幾何学模様も一応3D向けかもしれない。次元世界に迷い込んで、娘の声により呼び戻され…というのは某映画を思い出したけれど、その映画のネタバレになるので書きません。

ヒーローものでありながら、父と娘の話でもある。ファミリーものの要素もあるのだ。スコットと娘キャッシー、ピム博士と娘ホープの話が平行して進行する。
ピム博士役はマイケル・ダグラスなのだけれど、安定感があるというか、さすがの貫禄があった。マイケル・ダグラスがマーベルヒーロー映画に出演するのは意外な気がするけれど、合っているし、作品自体にも深みが出ている。
ホープ役のエファンジェリン・リリーも良かった。二人が母親関連で話をするシーンは泣きそうになった。
それにしても、スコットが次元世界から戻って来れたことで、母親も帰ってくる可能性も出てきた。続編があるのかどうかはわからないけれど気になるところだ。
また、エンドロール後のオマケ映像の一回目のもので、ホープにワスプのスーツがたくされるのもぐっとくる。これも、アントマン自体の続編になるのか、MCUの続編になるのかはわかりません。

また、MCUには出られなくても、アントマンの続編があるならば、3バカは続投させてほしい。あの友達あってのスコットだと思うし、今作でも思った以上に活躍していた。
三人のうちの一人、パソコンが得意な人物役にデヴィッド・ダストマルチャン。『ダークナイト』のシフ役の方。『プリズナーズ』でも同じような役をやっていてずるかった。今回は少しイメージは違います。髪型もリーゼント風。でも、どこか怪しさは残ってるし、何を考えているかわからない感やまともじゃない感もひしひしと伝わってきた。

マイケル・ペーニャも良かった。特に序盤と最後に二回出てくる早口で脱線しながら話すシーンが最高。『アントマン』はファミリーものでありヒーローものでありクライムムービーでありコメディであり…と様々なジャンルが混じっているから、なんとなくとっ散らかったちゃかちゃかした印象を受けるのかなと思っていたけれど、もしかしたら、マイケル・ペーニャのせいかもしれない。
ちなみに、この場合のとっ散らかったというのはいい意味です。いろいろな要素が入っているけれど、それがばらばらになってしまうわけではなく、うまく作用している。賑やかで本当に楽しく、夢中になってしまう。まるでカラフルなおもちゃの入ったおもちゃ箱のようだ。

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