『イット・フォローズ』



ホラー映画はどちらかというと苦手なので、普段好んで観ることはあまりないのですが、今作は『キャビン』『サプライズ』などが例にあげられていたのと、新感覚ホラーというコピーにひかれて観ました。“タランティーノ絶賛!”とも書いてあったけれど、それは最近、タランティーノはよく絶賛しているイメージなので、逆にマイナスイメージにもなり得ると思った。

怖さの基準は人それぞれなのでなんとも言えないですが、個人的には怖くはなく、青春映画だと思った。ただ、びっくり箱的な驚かせ方というか、音楽がいかにも出そう出そう…という感じになってから、大きな音とともに!というシーンがいくつかあり、それは嫌で、目をつぶってしまうところもあった。

以下、ネタバレです。






詳しくはないので紋切り型のイメージですが、普通のホラーであれば、車の中でカップルがいちゃいちゃしていたら、そこに殺人鬼が現れて、殺されたりしそうなものである。しかし、この映画では、序盤にそのようなシーンが出てきたあとで、男の側が女を気絶させ、イスに縛り付ける。謎に思っていたら、今作でのルール説明が始まった。
細かな謎は残るものの、大まかなルールは、性交渉で感染する、感染すると“それ”がつけてきて殺そうとする、殺されると前の人に感染者が移るというものだった。
これは字幕のせいなのかもしれないけれど、“感染”という言葉が使われていたので、映画の示すテーマが、何かの性病とかエイズなどの暗喩なのかと思った。けれど、それは公式が否定しているらしいです。

序盤でネタバレというか、ルール説明があるので、このあとはどうやって“それ”と立ち向かうかというのが主題になってくる。

序盤に彼氏からうつされるジョイと妹とヤラ、ポールの仲良し四人組と、ご近所のグレッグが話の中心になるのだが、仲良し四人組はおそらく幼馴染みっぽいし、グレッグもご近所だから付き合いは長そう…というような、人間関係が徐々に見えてくる。“それ”の正体よりも、この子たちの関係性が明らかになって行く過程と気持ちの移り変わりがおもしろかった。
ただ、それも完全に明らかにはならない。目線や表情で気持ちを切り取ろうとする撮影方法は、繊細だった。

ジョイが怖いと言って、ポールがジョイの家に泊まってあげるシーン、ジョイが「寝られないの」なんて言いながら一階に下りてきたので、こいつは隙あらばポールにうつそうとしているのかなと思った。服も薄着だったので。
ただ、ジョイはもともとうつされたときも、別にナンパされてそのままとかではないし、何度か拒んだみたいだし、見た目ほどいい加減でもないのかもしれない。だから、このシーンも、本当に怖くて、安心できるポールのそばに来たかったのかもしれない。

ポールはといえば、おそらく小さい頃からジョイのことが好きだったみたいなんですが、一歩踏み出せない。昔の映画が好きで気弱な性格。友情が壊れてしまうくらいならこのままでいいやと思ってそう。
そんなときに、ジョイの恐怖は性交渉によって取り除けることがわかる。ポールは自分の力でも取り除けることがわかるし、好きな子が他の男と…なんてことも嫌だろうし、話し合いの場で何度も言い出そうとちらちらジョイのほうを見る。でも何も言わない。何も言わないからジョイは気づかない。ずっと友達だと思っている。けれど、映画を観ている人たちは、ポールの気持ちを察して悶絶するという…。このもどかしさが本当に青春映画のようだった。

ジョイはポールの気持ちに気づかないので、ご近所のグレッグにお願いしてうつすことになる。ポールからしたら、好きな女の子と知っている人が関係を持ったことが丸わかりなのが切ない。おまけに、「過去に一回寝たことあるし」という余計な告白まで聞くことになる。
そもそも、ジョイが“それ”をうつされたときにも、ジョイが誰かわからない男と関係を持ったということがわかるわけで、ポールはいままでにも、ジョイの近くでこんな話をたくさん聞かされてきたのだろうなと思うと本当に切ない。

グレッグはジョイのことが今は別に好きではない風でしたが、「償いたいんだ」と言って受け入れていた。何を償うのかは明らかにはされないんですが、その過去に一度ジョイと寝た時の何かなのだろうか。自分の命を差し出せるくらいのことだから、相当なことなのかもしれない。グレッグは“それ”の存在を信じていなかったから、それほど深刻でもなかったのかな。
グレッグもグレッグで簡単に女の子をナンパして次の人にうつせそうだったけれど、三日だか四日だかそのままにしていた。それも信じていなかったせいかもしれないけれど、他の女の子がナンパできないくらい、もしかしたらジョイのことが好きになってしまったのかな…という深読みまでしてしまった。

あとこれも何のセリフが出てくると言うわけではなく目線だけなんですが、ジョイの妹はもしかしたらグレッグのことが好きだったのかもしれない。

“それ”が関わってくるため、やったのやってないのが明確にわかるけれど、エロが主題ではないのもおもしろい。“それ”が現れるから、敢えてエロシーンを加えなくてもわかるというのもあるかもしれないけれど。
ジョイに関しても、そんなシーンはあっても下着はとりません。サービスシーンは一切無し。

代わりに、というわけではないと思うけれど、形を変えてくる“それ”たちは、男も女もおしげもなく裸体をさらけ出しています。決してサービスではない形の裸をこんな風に見せる皮肉。
“それ”の正体は明らかにはならないんですが、裸だったり、股間を押し付けて襲ったりしていたので、もしかしたら性に関する何かなのかもしれない。そもそもの感染方法を考えたらあり得る話だと思う。

最初、女の子が家から出たり入ったりしながら半狂乱になっていて、車で遠い場所に出かけた挙げ句殺されてしまうというシーンが入る。
その時には何が起こっているのかまったくわからないが、これは感染していない人の目線だった。映画内だとここだけである。

ただ、感染していない人には見えないながらも、引っ掻かれれば肌に爪の跡が付くし、布をかぶせれば人の形が浮かび上がる。後半の、プールに“それ”を誘い出し、仲良し四人組で倒そうとするシーンは、夜のプールが映像としても美しかったし、仲間が協力している様子が頼もしかった。
最初の女の子は一人きりで殺されてしまったけれど、ジョイは逃げ延びて欲しい。一応、銃は当たったようだけれど、それで倒せたのかどうかは不明。

そして、念のためなのか、ジョイはポールに“それ”をうつす。ポールはその後、いかがわしい場所へ行こうとしていたけれど、彼の人柄を考えるとどうだろう…。誰かにうつせたかどうかはわからない。
その後、ジョイとポールが手を繋いで歩いていたので、やっとポールの想いは報われたようだ。しかし、付き合い始めの恋人同士という雰囲気ではなく、決意を持った者同士といった感じだった。けれど、映画の最初にはひょろひょろしてとても何かを任せることができない男に見えたポールが、とても頼もしく見えた。成長しているのがわかった。

油断していると“それ”が急に現れたりして、夜道が怖くなるタイプの映画ではあると思う。“それ”は怖い見た目をしているし。
けれど、ホラー面よりは青春ドラマ面こそがこの映画の見所なのではないかなと思う。役者さんたちも若くて、フレッシュな印象が残った。

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