『ブルックリン』



アカデミー賞作品賞、脚色賞ノミネート。また、主演のシアーシャ・ローナンが主演女優賞にノミネートされた。シアーシャ・ローナンはゴールデン・グローブ賞でもノミネートされていて、他、様々な賞を受賞したりノミネートされたりしている。
シアーシャ・ローナン、観た後で『つぐない』(2007年)の女の子だって知って驚いた。大人になってる!

以下、ネタバレです。








エイリッシュ(シアーシャ・ローナン)は、仕事を求めてアイルランドからアメリカのブルックリンに移り住む。経済移民ですね。
慣れない船旅、慣れない生活、慣れない仕事で当然ホームシックになるが、ある男性と知り合ってからは徐々に生活や気持ちが上向いて行く。職場の仲間とも仲良くなり、仕事も順調。もちろん、男性のおかげだけではなく、慣れてきたこともあるのだろう。
順調に見えた矢先、突然の姉の訃報が入り、帰郷することになる。だけれど、一度アイルランドに帰って来ると、なかなかアメリカには帰してもらえない…という話。

最初に出てくるエイリッシュはとにかく田舎くさい。ほぼノーメイクのせいかもしれないし、服装のせいかもしれない。アメリカに向かう船の中で同室の垢抜けた女性に化粧をしてもらい、多少はマシになる。
その後も、一緒にデパートで働く仲間にも振る舞いなどを教わったり、ビーチに行くにはサングラスがあったほうがいいとか、下に水着を着ていくとか、そこでの常識を身につけて行く。

シアーシャ・ローナンが異常に化粧映えするせいもあると思うけれど、エイリッシュが劇的に洗練されて行く様子には目をみはる。

それは、彼女がアイルランドに帰郷したときに一番よくわかる。
町は変わらない。そこにずっと住んでいる人も変わらない。でも彼女だけが変わったのだ。

エイリッシュの友達は、最初のシーンで二人並んでいても、確かにエイリッシュよりも綺麗に見えた。けれど、帰郷後は田舎の美人というように見えた。主人公のほうがよっぽど綺麗だし、見映えがいいし、垢抜けている。
けれど、アイルランドの町には似合わない。

友達の結婚式がアメリカに帰る予定の日の後だったり、友達に会おうとしたら男の人がついてきたり、地元の職場を手伝わなくてはならなくなったり、なんだかあれよあれよという間に町にとりこまれてしまう。
これは、そのまま東京と地方にも置き換えられるようで、わかりやすかった。多分、地方から東京へ出てきて一人暮らしをしていて、何かあって実家に帰ったときなどに同じようなことになりそう。

もしかしたらすべては母の陰謀なのかなと思ってしまった。陰謀というのはおかしいか。姉も亡くなり、一人きりになってしまったのだから、娘なのだしそばにいてほしかったのだろう。

けれど、少しいるとエイリッシュにとってもアイルランドでの生活が順調に進み始める。
仕事も元々希望していた簿記を生かせる事務職につけた。周囲の人も優しくしてくれる。友達もいる。自分に好意を持ってくれている男性も現れた(ちなみにこれが、出ているのを知らなかったドーナル・グリーソン。最近の出演作の多さに驚く)。

もちろん、もともと住んでいた場所、ふるさとなのだし、馴染むのもブルックリンに行った時よりも早いだろう。
ブルックリンで出会ったトニーからの手紙も、最初は母が隠しているのかと思ったら、そんなことはなく、エイリッシュ自身が読まずに机の引き出しへ入れていた。自主的だった。
結婚までしたのに、そんなに簡単に忘れてしまい、目先の幸せをとるのか。

ブルックリンでの幸せとアイルランドでの幸せ。不幸な部分もどちらにもあるだろうし、だったら知っている人の多いアイルランドを選ぼうとしているのだろうか。
ぬるま湯にずぶずぶと浸かり、もうブルックリンへは戻らないのかと思った。
でもそうしたら、トニーはどうするんだろう。乗り込んできて修羅場になったりするのかななどと考えながら見ていた。

けれど、エイリッシュが以前働いていて、国を出るきっかけとなった店の店主の意地悪なばあさんにより目をさましたようだ。
人づてに聞いた話だと言って、トニーの話を持ち出す。エイリッシュもばあさんに対して「何がしたいか、自分でもわからなくなってるのね」と言っていたけれど、おそらくばあさんは良い悪いではなく、おとしいれるつもりもなく、ご近所の噂話が大好きなのだろう。噂話によって形成される狭い世界の中で、上の人には頭を下げ、下の人をこきつかい生きてきたのだ。ばあさんにとっては狭い世界の上下関係だけがすべてなのだ。
エイリッシュはおそらく、この狭い世界が嫌で、国を出たんですね。それを“思い出した”と言ったのだろう。
そして、この瞬間、誰よりもトニーに会いたくなったようだった。まるで魔法が解けたようにも見えた。

戻る船の中、甲板で初めてアメリカに向かうという女の子に会ったエイリッシュが、かつての自分の姿を女の子に重ねるのが印象的だった。最初に船で向かうときに教わったのと同じように、今度は教えてあげる。
なるほど、こうやって受け継いで行くんだ。
入国管理局で女の子は少し化粧をしていたけれど、それもエイリッシュが教えたのだろう。映像はないけれど、船の中ではかつての逆と同じことが起こったのだろうと推測されて感慨深い。
もう、アイルランドを最初に出た頃のエイリッシュではない。成長している。そして、今になると、最初に船に乗ったときに教えてくれた垢抜けたお姉さんの気持ちもよくわかる。もう立場が違うのだ。

ブルックリンに戻り、エイリッシュが壁に寄りかかってトニーを待つシーン。これが、ポスターなどのメインビジュアルになっている。ラストシーンでした。

ここの服装も本当に可愛いけれど、全体的に色づかいや服の形がレトロで可愛い。古着のワンピースが欲しくなる。
1950年代ということで、『キャロル』と同じ時代ですね。働くデパートの感じも似ていた。この頃のファッションのお洒落さも堪能できる。



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